カブトとクワガタ 7
お店は彼女の人懐っこい性格や昔の仕事を活かした会話術で徐々に常連客も増えていった。
新しく数人の若い女の子の教育も始め、今や仕事帰りのサラリーマンの憩いの場となっていた。
夫は仕事帰りに必ず店に寄り彼女の楽しそうな姿を見て美味しい酒を飲んだ。
結婚生活は2人にとってとても幸せなものだった。
しかしその幸せにも突然終わりが来る。
その日もいつも通り夫は店に寄り数杯のお酒を飲んだ。すぐに飲み終え帰宅するところを彼女はいつもように店の外まで見送った。
夜中3時、店を閉めて帰路に着く。
家に着いて居間に入った瞬間彼女は思わず持っていた荷物を床に落としてしまった。
そこには首にロープをくくりつけ宙ぶらりんとなった夫の姿があったのだ。
状況を理解するのに時間がかかった彼女はしばしその場に立ち尽くし、駆け寄った。
意外にも彼女は冷静であった。
ロープを外して床に下ろし心臓マッサージと人工呼吸を何度も繰り返す。
折れた首に気付かないふりをして何度も何度も行った。
やがてもう二度と彼が目を覚ますことはないと理解した彼女は大粒の涙を流し大声で泣き叫んだ。
警察は残された遺書の内容から、銀行の預かり金の着服や賄賂を受け取っていた事などが分かり、自殺という結果を発表した。
この事はすぐにニュースになり銀行員の不祥事として彼が所属していた銀行は世間から強いバッシングを浴びた。
だが彼女は知っていた。
彼がそんな事をするような人間ではない事を。
ここから彼女の戦いは始まったのである。
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