35歳からの独り暮らし(9)

「すみません、これより大きいサイズあるやろか?」

振り返ると、70代は超えてそうな女性が俺に尋ねていたようだった。
ディスプレーを直していたから、店員だと思われたのだろうか。店員では無い旨を伝えると、

「あら!嫌やわ、ごめんなさいね」

と恐縮したように言ったので、こっちにあるんじゃないですかね?と何気なく一緒に探してあげることにした。

無事にサイズを希望のものが見つかった所で、
「この靴、どうやろか?」と尋ねてきたので、「素材も軽そうだし、色も合わせやすそうだし、ワンポイントもあって可愛いですよ」
と返したら、

「そうやね、これ買っていくわ。ありがとうね」

そう言ってレジの方へ向かった。

極々短い販売員の擬似体験。自分が勧めた物を買っていってくれた、何か嬉しい。
そんな気持ちになっていた。

しばらく経っても、この時の僅かな経験がずっと頭の片隅に残っていた。
販売職って良いのかも、と浅はかながら感じていたからか、そんな時には何か引き寄せるものがあったのかもしれない。

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