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【短編】映画 作:結花(ゆいか)

ある日、私の元に一枚の映画のチケットが届いた。

遡ること約10ヶ月程前。
映画好きな私は映画雑誌を読んでいた。
そして、たまたま『「ミステリー・ムービー」のチケット1名様ご招待』という懸賞を見かけた。

予告編やポスター等が全く無く、観るまで内容は秘密。
そして上映時間も上映場所も分からない。
また映画館を1人で貸し切って観られるという。
さらに謎の特典付きだそうだ。

今までたくさんの映画を観てきたが、このような映画は初めてなので気になって応募してみた。
1名だから当たる確率はかなり低いだろう…。

しかし、なんと!
その懸賞に見事当選したのだった。

そして、待ちに待った上映当日。
指定された時間に指定された映画館へ行った。

謎に包まれた不思議な映画。
私は期待と不安が入り混じり、少し緊張していた。

おっ、ようやく本編120分が始まりそうだ。
画面が真っ暗になった。
さぁ、どうくるか?
最初の15分の掴みが大事だぞ。

あっ、始まった!
真っ黒な画面から白い眩しい光が細くゆっくり少しずつ広がってゆく。
そして画面は瞬いほどの白い光でいっぱいになった。

光が強過ぎてスクリーンがよく見えない。
しかし忙しなく動き回る人達と、横たわって疲れきっているけどとても嬉しそうな女性、後からソワソワしつつも大喜びで駆けつけてくる男性等、様々な人が映っている。

そんな中、主人公らしき人物は周囲の人々の会話をかき消すほどの大きな声でずっと泣いてる。
それなのに周囲の人は同情するどころか、何故か笑っている。

何…なんだ、この映画?

今まで観たことのない展開に動揺しつつも、何故か私はその世界観に引き込まれてしまった。

その後も低いアングルから段々高いアングルになった。
また最初は何を言ってるか聞き取りにくかったが、ようやく会話も聞き取れるようになり主人公も話し出した。
そこから主人公の幼少期から成長するまでの場面が描かれる。

何気ない日々や喜怒哀楽が時に大きく表現され、心に強く残るようなシーンも流れる。
小さな起承転結らしきものはあるが何も脈絡がない。
それが淡々と繰り返され、続いていく。

それにしても主人公と私自身の境遇がかなり酷似している。
共感できるシーンがとにかく多い。
少し背中に寒気が走り、鳥肌が立つほどだった。

…っと、その時。
急にスクリーンが暗くなった。

この映画は今時めずらしいフィルムでの上映で、どうやら映写機の調子が悪くなってしまったらしい。
それから映写機の調整が始まった。
しばらくの間、今まで流れた場面の一部が流れたり、今までの画面が妙に真っ暗に見えたり、反対に光り輝いてよく見えなかったり…。
色も赤、青、黄色や淡いピンク、セピア色等、様々に変わった。
しかし映写機は結局直らなかったようで、映画は途中で中断された。

先が気にはなるが仕方ないので、パンフレットだけ購入して家路に着いた。

いったい今日の映画は何だったのだろうか?

購入したパンフレットをパラパラと流し見した。
今日観たシーンまでのあらすじと、心に強く残ったシーンがたまたまハイライトとして紹介されている。
しかし、途中から何故か白紙のページばかりが続いている。
特典も結局何なのか分からなかった。

それから数日はこの映画のことが気になったが、そのうち日々の忙しさですっかり忘れてしまっていた。

ー数年後。

ある日、ふと昔観た不思議な映画のことを思い出した。
納戸の奥から、ホコリが溜まってすっかり古びたパンフレットを引っ張り出してきた。
パンフレットのホコリをきれいに払う。
そして久しぶりにパンフレットを開いた。

…ん?何か違うような…。

不思議なことに、昔は載っていなかったはずの場面が掲載されていたり、昔読んだあらすじやハイライトシーンの解釈が少しだけ変わっているところがある。
私はパンフレットに吸い込まれるように夢中になって読んだ。

深く読んでいくうちにふと気づく。

あれ?これは全て私が経験してきたこと?

またパンフレットには以前よりもページが少し減っているが、白紙のページがまだ残されていた。
そして以前は気づかなかったが、脚本担当者欄に何故か私の名前が書かれていた。
私は驚いて思わず二度見をしてしまった。

特典ってこのことだったのだろうか?

昔観た不思議な映画は私の人生そのものだった。
私が生まれてから今日に至るまでの数々の経験や私がその時々に感じた感情が描かれていた。

パンフレットを読みながら、私は懐かしい思い出や楽しかったこと、嬉しかったこと、辛かったこと、悲しかったこと、甘酸っぱい青春時代などに思いを馳せる。

私の人生も捨てたものではない。

たくさんの経験や感情により彩りあふれ、今までたくさん観てきた他の映画のように実に面白いものになっている。

あっ!

私はふと気づく。
残された白紙のページの謎。

もしかして白紙のページはこれから私が自分で書き足していくページなのではないか。

自分の人生は他の誰のものでもない。
たった一度きりの自分だけの特別なもの。

だから今この一瞬一瞬を一生懸命に生きて、自分の書きたいように書いていけるのだ。
自分がどうしたいのか、どのように生きたいのか、自分の心と体を大切にして向き合い、自分の素直な声に耳を傾けることで決まっていく。

日々の忙しさにかまけて、そんな当たり前のことに気づけなかった。

人生は良いことだけでも、悪いことだけでもない。
良いことも悪いことも両方とも必要で貴重な経験だ。
どちらかが欠けたら、とても辛い人生か、退屈な人生になるだろう。
また時を経て同じ出来事でも解釈の仕方が変わることもある。

時には故障した映写機のように自分自身が壊れてしまうこともある。
またフィルムが途中でいきなり切れてスクリーンが真っ黒になったり、熱心になり過ぎて燃え尽きてしまうこともある。
一時停止することもある。
繰り返し巻き戻し、フィルムが消耗することもある。
焦ってフィルムを早送りしたくなったり、まだ起きてない場面を勝手に想像し、期待したり不安になることもある。

でもほんの少しだけでもいいから希望を持ち続け、決して諦めないでほしい。
中途半端な映画のまま、終わりにしないでほしい。

専門家や周囲の人の手を借りて、フィルムを繋ぎ合わせたり映写機を直して、再び上映を再開することだってできる。

どんなに小さなことでも目の前の出来ることから行動を起こしていこう。
焦らず、ゆっくり、自分のペースで脚本を書いていけばいい。

心温まる作品でも、果敢に試練に立ち向かう作品でも、笑いの絶えないコメディーでも何でも構わない。

自分だけの大切な脚本。

あなたはどんな映画にしたいですか?


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【解説】
人生を1本の映画に見立てました。

作品タイトルについて、本当は「111万kmのフィルム」にしたかったです。
しかし、Official髭男dismさんが「115万キロのフィルム」という楽曲を作られていたことを偶然見つけ、シンプルに「映画」にしました。
私も35ミリフィルムの120分映画のフィルムが約3kmあることを知り、日本人の平均寿命約85歳を基準に計算しました。

遡った約10ヶ月は母親の胎内にいる期間です。

真っ黒な世界から白い光がゆっくり広がっていく場面は、生まれたばかりの赤ちゃんの目線を想像。
病院スタッフや両親に見守られながら、大きな産声を上げ、周囲の人が嬉しくて喜んで笑っている場面を書きました。

その後もアングルが低いところから高いところに変わるのは、ハイハイから身長が伸びて成長していく様子を。
そして言葉を少しずつ発するようになる様子、幼少期から成長するまでの場面へと続いていきます。

最初の掴みの15分、急に映画が中断したところは計算すると約10歳の頃に該当します。
実は、私は強迫性障害という精神疾患を10歳頃から発症して30年程経ちます(現在もうつ病も併発しながら療養中です)。

映写機の調整をしながら、今まで流れた場面の一部が流れるのは辛い経験のフラッシュバック、光具合や色は感情の変化の様子を表しています。

映写機やフィルムの損傷は怪我や病気等で自分自身が壊れてしまうこと、画面が真っ暗になるのはどん底に落ちて前も未来も見えない絶望感、熱心過ぎて燃え尽きる様は昔のフィルムが熱に弱く燃えやすい素材で出来ており実際に火災事故も起こっていたことから想起しました。
一時停止は休んでも良いこと、繰り返し巻き戻してフィルムが劣化する様は辛いことや苦しいことを何度も思い出して体や心が弱っていく様、早送りしたくなるのは人生で焦ったり起きてもいないことを想像して期待したり不安になる様子を表しています。

それでも希望を持ち、諦めずに最後まで自分の映画(人生)を送ってほしい。
映写機やフィルムを直す時のように、人生でも専門家や周囲の人に時には頼って助けてもらい、再び映画(人生)を続けてほしい。
そういう願いを込めました。

自分の人生は他の誰のものでもなく、一度きりのあなただけの大切なもの。

今この一瞬一瞬を精一杯生きて、過去の出来事の捉え方が変わったり、明るい未来を作っていってほしい。

どんな映画(人生)にするかはあなたの脚本次第でいかようにも書けます。

これらの想いや願いを込めて書きました。

もう少し短い詩や文章にまとめたかったのですが、今はこれが精一杯です。
あとは写真を撮ることやフィルム、カメラ関連の詩がずっと書きたかったので書いてみました。

この詩を朗読してくださる方、大歓迎です!
事前にご連絡いただければ嬉しいです。
朗読の際は、
#結花の詩 #気まぐれ結花の詩
のハッシュタグをつけていただけると助かります。
よろしくお願いします✨

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