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はじまりの物語㉙ 六波羅

7月、山城方の梅の木にたくさん果が実った

ゆすり落として落ちたその実を井戸の水で洗う
こっそり影に木桶を用意し蛇もしばし水浴びを楽しむ
冷たく澄んだ水が気持ちがいい
どうだ、いい水脈であろうと誇らしげに頭を上げた

そこに山城の声がする
一水さまー、本当にこのような井戸まで設えて下さり
ありがとうございます
これからこの梅の木も増やしていきましょう
果が成れば、毎年京まで送りましょう

十分すぎるほどの金子をいただき
奥方様の持っていた書物もわかりやすく直して記し
コトバまで教えてくれた
この申し出は決して過ぎたものではない、
山城はそう思っていた

有難き申し出、慎んで感謝いたします
精進なされてのお布施、浄土にわたる徳として
仏さまもきっとお喜びになります
一水はそう深々と頭をさげた

汗ばむ仕事だ、それとも井戸の水が跳ねたのか
山城は手ぬぐいを大きく広げ両手で顔を覆って拭いた

その際の願い事、ひとつ聞き入れて下さいますか
今からこの洗った梅の果、水気を拭きとりむしろに広げ
天日で3日3晩乾かします
そこまでして送っていただきたい、

一水の申し入れに
大きく頷いて、山城もまた深々と頭をさげた

梅の実が乾いてすぐ、一水は東国を出発した
ここでの日々、道中の思い出も蘇る

将門はどうしているだろうか
奥州から一緒に陸奥に入った者たちは
それぞれ陸奥で游行し自分の役目を見つけていった
馬はその者たちと一緒である

駅場から駅場へ馬と人足をつないでもらい
京へと急いで帰り着いた

京では道風が出迎えてくれた
さて、私たちの社に帰ろう
そう籠の中の蛇に声をかける

しかし、着いて驚いた
社の前の大きな境内に、
畳敷きの大広間を備えた道場ができていた
あの龍の絵は、襖に仕立て飾られている

畳の下にはすでに
塩とたくさんの壺が用意されていた
実頼か、会って礼がいいたいが
今は心の中ですまないと感謝の念を心に刻む

道風はというと
襖の前で、どうだといわんばかりに鼻を広げ
あとはあそこに訓律でも表装して飾るといいのだが
一水なにかあるか、と声をかけた

ありがたい、
そういって籠の中から筆文を取り出し広げた


ただ、一粒の水であろうとも
空にあれば皆を映す鏡となる
また、信心を揺さぶり起こすには
自らがきれいな玉でなければならない

そう思い菩薩が涅槃にわたるために納める6つの徳を
自らに課して励んできた

このコトバをそこに掛けたい

今生世界に生きる実在としても
天上世界の使徒としても
道風は一水をまばゆく見つめた

ただ一人の顕在に限りある身でありながら
その御玉には、人の善き所を映し輝いている

蛇はそんな道風をみて当然だ、と悦にいる

  

   ー六波羅蜜(ろくはらみつ)ー
(布施)(持戒)(忍辱)(精進)(禅定)(智慧)

仏教用語

こう短く記しても良い

それを聞いた道風は
なあに、広い道場だ両方書いて掛けようぜ、と
文机と筆具を取りだした

そうか、写経場か、
そうするのが一番いいな、感心して一水がいう


何をいまさら、
そのつもりで作ったに決まっているだろうが
ガッハッハッと豪快に笑い飛ばして
道風は答えるのであった



創作大賞締め切りまであと少し
どうせなら、と思います
本日下書き原稿完成させたいです

3時間に1本ペースかぁ
更新されてなければ、夢の中と思ってください


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