夢を再び。ファシリテーションルーム7
ーなんのはなしですかー
なんのはなしか、聞かせてください
物語 通称 #なんはなルーム です。
これはスタジアムに打ち上げたジェット風船、その夢の続きのお話 第7話
これまでのお話はこちら
ほどなく彼から通知がくる。
灰原は助かった、と安堵した。
クッションは多い方がいい。
受話器を上げて内線を繋ぐ。
『はい。保健ルーム 降谷です。』
『ファシリテーションルーム 灰原です。』
『あら?なんはなルームでしょ。企画書見てくれたかしら?』
思いついた興奮が冷めやらずテンションが高い。
『その件なんだけど、例のSeed さんの12月のフェス、ライブの中に朗読もあってコニシさんの文書をと考えているそうなんだ。明日こちらに来られるけど君の午後の予定はどうだい。』
『ええ?!あのSeedさん!朗読だって私の録音と違っていつもライブでしょ。すごいわ!なら、こちらの企画もフェスまでにじゃなく、フェスで過去3年間の最後の記事をなんていいじゃない。フェスがゴールだなんて最高だわ。』
『ベル、まずは、Seedさんの話を聞かないと。それにゴールといってもそれだけ朗読者がいるのかい。』
『それなのよね、募る必要があるわ。だから#なんはなルームに企画出したんじゃない。ただ、最初にジェット風船への想いを綴った日誌、これがまたいいのよね。2回に分けて日誌に記しているからどうせなら、ふたりで、と思って私ともう一人は水木さんにお声掛けしてるの。まだそこまでの段階よ。ただ企画の詳細はこれからだから、きちんと話してみるわ。明日は相談事項も含めてよろしくね。明日14:00以降なら空けておくわ。』
翌日
「 失礼します。」
ガラス扉の向こうで男性が、その高い背を屈めるように会釈してからゆっくりと推し開き、部屋の内側でドアノブを手にしたまま、後ろにいた女性を先にルームに通し入れた。
「こんにちは~」
そう言った口からはくすぐっているような、くすぐられているような、空気を含んだ甘い笑い声がこぼれる。
灰原はブワッと赤面した顔を隠すように下を向き息を整えた。
A、A小町だ!A小町がいる。
A小町は、いち早くSeedさんのライブに続きその声を配信してから瞬く間に人気になった。もとから人気があったのだがそれに拍車がかかった。
押しの掛け声は「尊ーい!!!」に決まっている。
ああ、しっかり顔を声を目に耳に焼き付けたい。
灰原は浅く息をすった勢いで顔をあげた。
「どうぞ、お入りください。」
灰原は精いっぱいの笑顔をA小町に向けていった。
またくすぐったいような尊い笑い声が聞こえる。
ドアノブを持ったままの本来の賓客は、この同伴者を連れたときのいつもどおりの反応を冷静に観察してからドアを閉めた。
灰原は、それに気づきもせず言葉を続ける。
「A小町さんは先日のライブでも文章を提供されていましたものね。」
しっかり聞かせていただきました!ということを猛烈にアピールする。
「そうなんですよ~。もうね~。なんといったらいいのか、幸せでした。」
声も笑顔もホロホロこぼれる。尊い。尊すぎる。
「あとで、ライブのときのメンバーが後ふたり、寄せていただいてもいいでしょうか。14時からのアポイントでしたが、少し早く寄せていただきました。あとのメンバーは15時前にはここにつくかと思います。」
「はい、もちろんです。ネームプレートはまだ作成しておりませんが、ぜひこちらのルームを利用して頂ければ管理人としても嬉しく思います。」
灰原はやっとその背の高い彼の顔をみてそう答えた。
「こちら正式な企画書です。日程・内容はまだまだ調整となりますが、時間は2時間、これはライブアーカイブを残すためのリミットです。その中での配分をどうするか。まずそこを意識して進める必要があります。」
何かを実行するにあたって、時間と期限、これは最重要事項だ。
「こちらは、まだ正式な企画書とは言えません。相談案件ではありますが、”ベル”とからの企画です。朗読企画になりますのでご意見聞かせていただければ、彼女の相談事項へのヒントになるかと思いまして。一旦、目を通していただけますでしょうか。」
「分かりました。」
そういって、男二人が企画書に目を通す間、チョコレート色のネイルをその尊い唇の赤と組み合わせて楽しむようにしながら、その潤んだ視線は壁に貼られた他の企画に向けられていた。
うーん、なるほどな。
どちらの心の内にも同じフレーズが浮かんでいた。一方は感嘆で、一方は一応、言わんとすることは理解した、というその差はあったけれども。
土曜日に最初の、そしてこの企画である前後編の一作を朗読予定です。
録音掲載記事、20時以降。
そこまでにストーリーも間に合わせたいと思っていましたが、ストーリーは後追いになりそうです。
今日はここまで。
それでは皆様良い一日を!
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