はじまりの物語④ 伝説
蛇は水辺を訪れるものの『重い』を呑み込んだ
はじめは ほんの気まぐれだった
語りはじめたものをじっと観察していたら
のどの辺りに黒い固まりがみえた
あの固まりをとってみたい
チロチロと舌を出しながら 囁き続ける
届いたか届いてないか、そのぐらいのところで
うつむいていたものが
ぱっと顔を上げたその拍子に
ぽんっと中から飛び出してくる
蛇は それをパクっとひと呑みする
するとスッキリした顔をして
なぜだか手を合わせたりして 帰っていく
ときには 呑まずに 外に出してやるだけにした
そうしたときには顔も上げずに
肩を落としたまま
とぼとぼとまた当てもなく
どこかに立ち去って いってしまう
どうやら『受け取り』が大事らしい
蛇には手がないので
『呑む』ことになるのだが
また『重い』は一様ではなかった
重さも違えば 色や形も 様々だった
喉元にあるものもいれば
胸につかえているものもある
腹に溜まったものは温度まで違っていた
あるとき 夜遅く何人もの男たちが
水辺にやってきた
暗くて見えにくいが
皆 腹に抱えているようだ
蛇は 男たちに 囁いた
するとドカーン と大きな『重い』が
口の中に飛び込んできた
その重さと勢いで
一気に中腹にまで達したかと思うと
腹の中でも四方に跳ねてよじれ に よじれる
それに熱くて熱くてたまらない
大きな『重い』で膨れ上がった蛇体を
熱さと勢いで身をよじらせながら
空に舞い昇る
蛇は 呑み込んで大きくなった
からだが見つからないように
姿を見えないようにする力も
持ち合わせていたが
この時ばかりはそうはいかない
見られていることにも構わず
精一杯の力で高く高く昇っていく
そして口を上に大きく開いたままで
今度は全速力で下降した
『重い』が落下する速さより
蛇の躰が下がっていくほうが早かった
『重い』 は腹の中でぶつかるごとに
角がとれて丸くピカピカ光る玉になっていた
男たちは空に立ち昇る蛇をみて
この世ならざるものをみた、と驚きおののき
丸い玉がぽかりと宙に現れたのを見て
奇跡がおきた、と仰天した
すっかり腹の『重い』もなくなったので
奇跡に間違いはなかった
そして村に帰り この奇跡を伝えるのであった
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これは なんのはなしです果 のはじまりの物語
竜という字は
上を向いた少し太めの蛇みたい
この呑み込んだ大きな『重い』は
後の世に伝わる
『我』=『龍』の絵にも描かれています
丸い玉、無事に出せて良かったですね
なんのはなしですか
続く