生きていこうと思った。ひとりごと。

生きたくなかった。

ずっとしんどくて、投げやりだった。
自分から死ぬほどの積極的な意思はなく、
ただ、生きている自分の存在そのものが疎ましかった。

生きている自分がいることが苦しかった。
生きている自分そのものが、自分の存在そのものが『失敗』そのもの。

それでも自分を生かした理由は単純。
「死んでも迷惑がかかるから」
だから、やめよう、と。
それくらいには大事にしていた。
兄弟もだけど、親も。それくらいには好きだった。
ここで死んで迷惑をかけるくらいなら、ここを出よう。
ここを出て、どこか関わりのないところで、ひとりで人生を片付けよう。

もうずいぶん前、高校生の頃のこと。



人に迷惑をかけないように。
子どもの頃から、よく言われる言葉じゃないだろうか。
それは気がついたときには『生き方』になってしまっていて、そう簡単に拭えるものではなくなっていた。
それが『親の望む正しい生き方』だった。



ぼくは、生きるイメージを28までしか持っていなかった。
逆に言えば、病気や事故などの致命的なダメージがない限りは、そこまではなんとかしよう、という意思だった。
その数字にはなんの根拠もなく、「そうしよう」と自分が決めただけの数字だったのだけれど、ぼくはその歳を越えるまでその数字に縛られていた。

それまでに清算しよう。

できるだけ残さないように、生きよう。

それが『人に迷惑をかけないように』生き終わるための、自分なりの『答え』だった。



自分の生活はいつもコンパクトだった。笑われるくらい、物を持たなかった。性格的に物が多い生活が馴染まなかったというのもあるのだけれど。

いつか、片づける誰かのために。
ぼくの部屋を片付けるのは、不慮の事態だったとしても、そうでなかったとしても、ぼくではないだろうから。

必要以上に物を増やすことはしなかった。できなかった。

段ボール二つを持って家を出た。
生活に必要な物と、好きな作家の本と、困らない程度の衣服と。

次の引っ越しのときも、軽自動車の後部座席に収まる、それだけの荷物のままだった。



それを考えれば、今の自分の生活はかなり物が増えた。
豊かになったのだと思う。
それを許容できるぼくの気持ちが。

趣味の手芸用品はバラバラと増え続けている。ビーズやら布やら、興味を持っては次々と手を出している。
好きなゲームやアニメのグッズを買っては並べて、飾って。なかなかいい感じに推しに囲まれているオタクの部屋だ。
和装も好きだから着物類も増えた。コスプレや仮装に触れてからはウィッグや化粧道具も増えた。服も随分と自分の好みのものが増えた。
本だって好きなだけ買っている。本棚に入りきらずに積みあがって、一時期は枕元に本の山がいくつもできていた。
ずっと、好きなだけ、本を買ってみたいと思っていたんだ。
そしてある時からレオパを飼い始めた。一緒に生きている。溺愛している。

今の自分は、昔の自分では考えられないほど物に囲まれている。
今の自分は、たのしい。




ところで、地元と言えば実家のあるところを一応思うのだけれど、
故郷は、といえば、ぼくは大学時代を過ごした街を思い出す。

ぼくはあの街から、
家を出たあの時から、
生き直し始めたのだと思う。

なんにも持っていないぼくは、いろんな人に掬い上げてもらった。

生きていこう。
なんにもなくていいんだ。
だれが要らなくても、いいんだ。

誰のためでもない、自分のために。

いきたいとおもった。
また会いたいと言ってくれるこの人たちと。
会いたいと思うこの人たちと。
出会った人たちと、もっと関わっていきたいと思った。

一緒に、この先に行きたい。


でもとても自信がなかった。
不安で、不安で、しょうがなかった。
終わりしか見てこなかった自分が、
生きていく先を見てこなかった自分が、
この先を生きていくことが、不安でしょうがなかった。


今も自信なんてない。
正直言うなら不安しかないし、先なんて絶対いいことばかりじゃないし、不安要素ばかり目につくし、見たくない。

それでも、正解も不正解もないけど、考えようと決めた。
動いてみようと決めた。
自分のために。


生きていこう、なんて思うことは、正直しんどい。
生きたくないなって思う気持ちを、宥めすかしているような状態だ。

だって、みんなは結構『当たり前に』生きているんだ。
『生きよう』なんて思わずに、生きていられるんだ。

そんなこと考えちゃうような人間が、『生きよう』なんて思うにはそれなりにでかいエネルギーが要る。


運がよかった。のかもしれない。

たくさんの言葉をもらって。無言のやさしさももらって。
環境も大きく変わって。
10年以上かけて、それまでに抱えてきた経験とか悲しいこととか、いろんなものを塗りつぶすくらい楽しいことや嬉しいことを山ほどもらって、自分は変わってきたんだと思う。

生きていてもいいのかもしれない、と思うくらいには。


生きたくない自分と、生きようとする自分と、
どちらの状態がいいとか、どちらが正しいとか、
そんなのは最期までわからないんだけど。

とりあえず今の自分は生きていこうと思っていて。
できる限り生きようと思っていて。

たのしいこと、好きなことを目指して。
穏やかな気持ちでいられる場所を探しながら。
きっと時々落ち込んでは、生きてるのつかれるなぁとぼやきながら。

自分なりにゆるゆると生きていこうと思っている。


いつか、
なんだかめちゃくちゃな人生だったけど楽しかったなって、
そう言える自分になれるように。

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