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どうせ居なくなるなら触れないで
寂しいわけじゃない。
悲しいわけでもない。
それなのに、胸の奥がギュッと痛む。
私を壊していくのは、「愛したこと」だった。
楽しかった思い出がある。
幸せだった時間がある。
思い出すたびに、心が締めつけられる。
忘れられたら楽なのに。
なかったことにできたらいいのに。
そんなふうに思うのに、愛した時間は確かにそこにあって、私の一部になっている。
どれだけ削っても、どれだけ遠ざけても、消えてくれなくて、むしろ、私の心を少しずつ削りながら、形を変えて残り続ける。
誰かを愛するということは、ただ幸せなだけじゃない。
相手がいなくなったあとも、愛した記憶はそこに居座り続ける。
優しかった言葉、温もり、笑い声───すべてが、過去という形になって残り続ける。
愛したぶんだけ、自分が削られていく。
空っぽになってしまいそうなのに、
それでも私は、また誰かを愛してしまうのだろうか。
壊れるとわかっていても。
痛みを知っていても。
それでも。
愛することをやめることは、きっと、できない。
「愛してる?」
なんてもう聞かないよ
どうせ居なくなるなら触れないで