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ひとりぐらし最初の日のこころ
高校を卒業して、大学に通うため家を出た。
飛行機に乗って、遠いと思っていた都会にやってきた。
8畳、1Kのアパートを借りた。
引っ越しを終えた。部屋ができた。
新しい。何もかも。
新しいベッド、新しいテーブル、新しい座椅子。
ふとかばんから筆箱を出した。いつもの筆箱、いつものシャーペン。
ふとかばんを見た。中のいつも買うほうじ茶のペットボトルを見た。
そういえばここには売っているのかな。
新しい鍵を握り、鍵を閉めて外に出た。
知らない道、知らない木。
知らないバス停、知らない駅。
知らないだけでなんとなくドキドキする。
ふと上を見た。この空は家とつながっているんだなと思った。あの雲は家の上を通ったのかなと思った。
ふと下を見た。アスファルトの色はどこも同じなんだなと思った。どこも落ち葉が落ちるんだなと思った。
少し歩いてみた。あーこの春って感じの風、知ってるなと思った。あたたかい、ほのかにやさしいかんじの風。そしてふと右の桜を見た。桜はどこも同じだなと思った。
影はもうのびている。そっか、家よりもここの方が早く夜が来るんだな。こっちの方が少し寒いな。ちょっと違うだけでどきどきする。
コンビニに入った。知らない名前のコンビニだけど、こっちでは普通なのかもしれない。知らない音楽、馴染みのないおにぎり。
でもいつも買うほうじ茶があった。こっちでも同じように払えた。そりゃそうか。よかったよかった。
帰り道、もうこの道は2回目の道だ。
きっとこれから、数えようとも思わなくなるほどここを通るのだろう。
きっとこれから、どきどきしていたことも忘れるほど今のコンビニに行くのだろう。
きっとこれから、この日の暮れる早さが普通になるのだろう。
道も、木も、バス停も、駅も、いつか懐かしくなる景色になるのだろう。
大丈夫。これからここは、ぼくのふるさとになる。
ぼくが帰ってきたい場所になる。
そのためには、ここで毎日生きなくては。
楽しい気持ちで暮らさなくては。、
それでも家に帰りたくなったら、そのときは帰って家の空気を吸いにいこう。
そしてまた、こっちに戻ってこよう。
いつかここも、帰る場所になるはずだ。
大丈夫。これからこことぼくは仲良くなっていく。
これからどうかよろしく。