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AIは本当にSaaSを倒すのか?「労務×AI」開発の視点で、専門性と技術について考えた。
株式会社HRbase 代表/社会保険労務士の三田です。
生成AIが登場した2022年からAIの研究をはじめ、「労務×AI」のスタートアップとして資金調達もさせていただきました。
私自身はエンジニアではありませんが、この2年間は最新のAIについて学び続け、自社プロダクトとしてAIサービスをつくり上げてきました。
AIがこれからのサービスにどのような影響を与えるかについては、多くの議論が行われています。そこで本日は「労務×AI」の事業を行っている一起業家としての考えを書いてみたいと思います。
そして、弊社のCTO・COOとして、ともに開発を進めてくださる方とも出会いたいと考えています。
1万文字超の長文noteですが、ぜひ最後までお読みください!
話題の動画「SaaSが死ぬ」
2024年11月、以下のポストが話題になりました。
累計約400億円調達のユニコーンChocoが、収益源をSaaS⇒AIに完全移行。CEO Danの「SaaS is Dead」の議論が興味深かったので備忘メモ。#20VC からの学び… pic.twitter.com/eICWheMZug
— 坂本 祥二|HQ CEO (@shoji_hq) November 4, 2024
実際の動画はこちら
Geminiの要約はこちら
SaaS 企業が AI ファーストに移行しなければならない理由
従来の競争優位性の喪失: 従来の SaaS は、独自の技術や機能によって競争優位性を築いてきました。しかし、AI の進化により、これらの技術や機能は容易に複製され、差別化が困難になっています。Khachab 氏は、GPT のような AI がコードを学習し、既存の SaaS 製品を短期間で複製できるようになると予測しています。
AI による破壊的イノベーション: AI は、SaaS 製品そのものを根本的に変革する可能性を秘めています。例えば、従来の複雑な UI/UX は、AI を活用したシンプルなプロンプトベースのインターフェースに置き換えられる可能性があります。顧客は、AI によって提供されるよりパーソナライズされた、効率的なサービスを求めるようになり、従来型の SaaS は顧客の期待に応えられなくなる可能性があります。
人材の重要性: AI ファースト企業への転換には、AI スキルを持つ人材が不可欠です。Khachab 氏は、AI 人材の獲得競争を「冷戦」と表現し、その重要性を強調しています。また、既存の従業員に対しても、AI スキルを習得するための研修や教育プログラムを提供し、AI 時代に対応できる人材育成が急務であると述べています。
AI ファースト企業への転換
Khachab 氏は、SaaS 企業が生き残るためには、以下の3つのポイントを重視し、AI ファースト企業へと転換する必要があると主張しています。
AI を活用した製品開発: AI を製品開発に統合し、顧客に新たな価値を提供する。例えば、AI を活用した顧客サービスの自動化、パーソナライズされた製品レコメンデーション、予測分析による業務効率化などが考えられます。
AI スキルを持つ人材の育成: 従業員の AI スキル向上に投資し、AI 時代に対応できる組織を構築する。AI の基礎知識から、AI モデルの開発、実装、運用まで、幅広いスキルを習得するためのプログラムを提供する必要があります。
AI を活用した業務効率化: 社内業務に AI を導入し、効率化とコスト削減を図る。例えば、AI を活用したマーケティングオートメーション、営業活動の効率化、人事管理の自動化などが考えられます。
動画でいわれている「本当にSaaSは死ぬのか」という問いに対し、実務的な観点から考察していきます。
日本のDXはなぜ進まなかったのか
AIの影響を考える前に、まず現状を。
日本のデジタルトランスフォーメーション(DX)の進捗状況は、他国と比較して遅れていると指摘されています。たとえばPwCが実施した「日本企業のDX推進実態調査2024(速報版)」によると、全社的にDXに取り組む企業のうち、「十分な成果が出ている」と答えた企業は約9.2%にとどまっています。
(ちなみにここではデジタル化とDXを分けていません)
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DXが進まない理由は、「ITリテラシーと業務知識がないとDXが進まないから」だといえるでしょう。
ITリテラシーの必要性
そもそもSaaSなどのサービスは、ログインしてシステムの使い方を覚えないと使えません。当たり前のことかもしれませんが、使う側にITリテラシーを求めざるを得ないため、習得コストが高く、使いこなすまでには時間がかかります。
しかも日本は海外と違いシステムエンジニアが社内にいないことが多く(システム会社に集中している)、DXの推進者がいないことも原因です。
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専門知識の必要性
さらに、SaaSを使いこなすためにはITリテラシーだけではなく、専門知識を持ち、明確な指示を出すというスキルが必要です。
たとえば、HRテックの各サービスでは最近UIUXが大幅に改善されていますが、専門知識が不足していると操作を誤ったり、手順が分からなくなって作業が滞ることがあります。
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労務テックを例にしてみますが、皆さんは「扶養」という言葉の定義が、税法と社会保険で違うことをご存じでしょうか?
給与収入だけ考えると、
税法上は103万円以下、社会保険は130万未満
と条件が違います。
さらに収入の判定期間についても
税法上はその年の1月1日から12月31日までの1年間、社会保険は今後1年間の収入見込み
と違います。
上記を理解してSaaSを操作しなければ、SaaS側がどんなに正しいプログラム、わかりやすいUIを組んだとしても結果は間違います。しかし、どれだけの人がここまでちゃんと理解し、労務管理SaaSを操作しているでしょうか?
現在のSaaSはそもそも、使いこなすのが難しいものなのです。
生成AIはITリテラシーが「必要なくなる」テクノロジーである
ここからいよいよAIについて。
まずテクノロジーには、「ITリテラシーが必要になるもの」と「ITリテラシーが必要なくなるもの」があります。
たとえば、スマートフォン。
これはITリテラシーが必要なくなるテクノロジーの代表例です。スマホ以前は、何かのサービスを使うためにはパソコンにソフトをダウンロード、インストールし、特有の操作を覚え、さまざまなエラーを潜り抜けて使う必要があり、パソコンに慣れていないとかなり大変でした。
しかしスマホはアプリをダウンロードするだけで、多くの機能を使うことができ、さらにスワイプなど直感的な操作で消費者のできることを幅を広げました。だからこそ、スマートフォンは爆発的な広がりを見せたのです。
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これはいわゆるテクノロジーの民主化です。スマホのようなITリテラシーが必要なくなるテクノロジーは、爆発的に広がる可能性が高いのです。
そして、生成AIはまさにITリテラシーが必要なくなるテクノロジーです。
AIはすでにしゃべることができるようになっており、対話の中で相手の意図をくみ取り、相手の求めている回答を行うことができます。
「会話」は人間にとって一番自然なUXといえますから、ITリテラシーが低い層にも受け入れられ、一気に広まっていく可能性があるのです。
ただ、2024年年末の段階では「そこまで広がってなくない?」と思われる方も多いのではないでしょうか。
ITリテラシーが不要な技術であるにもかかわらずAIが広まっていないのは、AI側がまだ受け身の仕組みであり、人間側が専門知識を持ち、明確な指示を出さないと動かないからです。
つまり「AIは話題だけど何に使えばいいかわからない」問題です。
これは数年以内に解決します。AI側が専門知識を持ち、人間側が細かな指示をせずにも要望に応えるようなサービスが続々と登場するからです。
AIエージェントなどのサービスが主流になるのは間違いない
最近注目されている「AIエージェント」という言葉はご存じでしょうか?
定義はさまざまですが、以下の説明がとても分かりやすいです。
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私は、この「AIエージェント」がユーザー側にITリテラシーや専門知識、明確な指示を求めずにタスクをこなしてくれる存在になると確信しています。
これまでのSaaSなどのサービスはユーザーの操作に依存し、タスクを効率化するものでしたが、AIエージェントでは「AIがタスク自体を行う、タスクを提供する」のが基本的な考え方になります。それには上記にある通り、自立性、目標志向、高度な推論が必要なのです。
AIエージェントの対応範囲もどんどん広がっています。特に最近は操作系のAIも出始めており、パソコン上の操作まで代替できるようになってきています(まだまだ精度は低いですが・・・)
ちなみにこれが本当にできるようなってくると、システムの使い方を覚えなくても操作することができるようになり、システムの使い方に革命が起こります。
Anthropic PCを人間のように操作可能(スクショからピクセル単位でマウスを動かす)な初のAIモデル Claude3.5 Sonnetの更新されたver.リリース!!!これは歴史的な瞬間だ。GUIからAI主導のPC操作への転換点となる。あらゆる意味でこれは産業革命への一歩となるだろう。
— bioshok(INFJ) (@bioshok3) October 22, 2024
API… https://t.co/PPegXQmpmA pic.twitter.com/HflEQzJALN
AIエージェントの領域では、すでにいくつかのサービスがリリースされ始めています。(AIエージェントの定義はバラバラですが)
GoogleやOpenAIなどのAI企業を除くと、SalesforceはAIエージェントにかなり力を入れています。
Agentforceにより、企業は数回のクリックで必要な時にすぐに労働力を拡張することができます。AgentforceのAIエージェントによる制限の無いデジタルワークフォースは、データの分析、意思決定、顧客サービスに関する問い合わせへの回答や見込み顧客の選別、マーケティングキャンペーンの最適化などのタスクに対して行動を起こすことができます。
AIエージェントの世界市場規模は2023年に38億6,000万米ドルとなり、2024年から2030年にかけてCAGR 45.1%で成長すると予測されています。
SaaSの行方は、「ドメインマスターが誰なのか?」で決まる
動画でいわれていた「SaaSが死ぬ」というテーマの中には、ここまで書いてきた「AIサービスによって代替されるのでは?」とは違う文脈があります。それは「AIがコーディングを担うことで、各企業が自社専用のシステムを安価に開発でき、SaaSが不要になるのではないか」という議論です。
ソフトウェアの終わり
— 久保田 雅也@Coalis (@kubotamas) November 12, 2024
ソーシャルによってコンテンツ制作コストがゼロになり、メディアがインフルエンサーにとって代わられた様に
AIによってソフトウェア作成コストがゼロになり、SaaSは無数の無料ツールに取って代わられる
By Chris Paikhttps://t.co/PfWEfBVmgj
確かに、SaaSは汎用的な機能を広く提供する一方で、最大公約数的な機能をつくっていくしかなく、個別企業の事情に完全には寄り添えないという課題があります。
では各会社が自社システムを開発する方が最適なのでしょうか。それに対して私は、「ドメインマスターが誰なのか」が判断の分かれ目になっていくと考えています。
たとえばタスク管理や営業プロセス効率化の分野では、「社内特有の事情やノウハウ」があり、それらの専門的な知見を持つドメインマスターは社内にいることが一般的です。このようなケースでは、自社特有の事情やノウハウを反映させたシステムを内製化する方が、よりフィットする仕組みを構築できる可能性があります。
自社最適な「謎に複雑なエクセル」が多用されている会社では、自社システムをつくる方が向いているかも知れません。
実際、アメリカではSalesforceを解約して自社でシステムを開発する事例も出てきているようです。(ただし日本では前記の通りエンジニアやシステム思考ができる人が社内にいないことも多く、そこまで促進されないかもしれませんが)
一方で法律や規制が絡む分野は状況が異なります。これらの分野では、社内に十分な専門知識を持つ人材がいないケースが多いため、専門家のいる外部サービスのベンダーの方が正確で効率的なシステムを設計できるケースがほとんどです。
給与計算システムを例にしましょう。自社開発で個別の手当には対応できたとしても、残業代の端数処理などの複雑な法律要件を正確に設計することは容易ではありません。(残業単価の時点で四捨五入した方がよいのか、残業代計算の時点で四捨五入した方がよいのか、そもそも四捨五入でよいのかなど実はミスの温床がたくさんある)
下手をすると、誤ったシステムを開発することで、かえってコストや時間がかかる結果になるかもしれません。
こうした背景から、比較的シンプルな仕組みで企業特有の事情が大きく影響する分野のSaaSは競争にさらされ、生き残りが難しくなるでしょう。一方、複雑な仕組みが求められ、法律や外部要因が絡む分野のSaaSは引き続き必要とされる可能性が高いといえます。
今からは新興のSaaS企業がAIを活用し、既存のプロダクトを低コストで模倣して安価に提供する動きも予測されます。
しかしHRテックのようにすでにレッドオーシャン化している分野には、多くのビッグプレイヤーが存在するため、単なる低価格戦略で市場シェアを取るのは難しいでしょう。
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このような流れの中で、SaaS業界は今まさに転換期を迎えています。各企業が自社の強みを再定義し、AI時代に何を提供していくか、どのようにAIエージェント化していくかが、今後の生存戦略として求められています。
AIエージェント構築に必要なケイパビリティは
AIエージェントはユーザーの指示を待つことなく、独立して行動し、特定の目標やタスクの達成を行います。当然ながら開発は簡単ではなく、今までのSaaS構築とは違うケイパビリティが必要になります。
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私はこのAIエージェントのサービスには、以下の4つの要素を満たすケイパビリティが必要になると考えています。
①AIのテクノロジー、ノウハウ
AIは日々進化を遂げており、その変化を迅速にキャッチアップすることが求められます(私も毎日のように情報収集していますが、それでも全然間に合わない)。
さらにAIの設計は領域ごとに異なるため、「正解」が何かを見極めるには、実際に試してみなければ分からないという現状もあります。
たとえば当社(株式会社HRbase)ではRAG(Retrieval-Augmented Generation)を基本に据えたアルゴリズム設計を行っていますが、労務分野におけるデータ整備の方法や、質問への適切な文章読解の実現など、最適解を見つけるまでに1年もの実験期間を要しました。試行錯誤を繰り返し、ようやく現在のシステムを構築するに至っています。
AIの構築についてはAIの専門会社に丸投げするのではなく、組織としてこの試行錯誤を行うことが重要であり、回答の精度が低いことがあっても、自社内で原因を特定することができ、素早い改善をすることができています。
②カバー範囲の広さ
AIエージェントがユーザーのタスクをほぼすべて代行することを前提とするなら、従来のHRテックのように「保険手続き」「給与計算」といった個別のセグメントに留まらず、幅広い専門知識を持ち、包括的に対応する必要があります。
労務分野を例に挙げると、労務管理の業務のうち、現在のHRテックがカバーしている範囲は全体の半分程度に過ぎません。
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これだと、何らかのサービスを利用していても、カバーされていない部分は労務担当者がタスク立案し、処理をしなければいけません(専門知識が必要になってしまう)。
フレックスタイム制を導入する際、勤怠管理システムで清算期間などを設定すれば残業時間を自動計算することは可能です。しかしフレックスタイム制には「就業規則の明記と労使協定の締結が必要」という重要な要件があり、これは現状のHRテックでは提示されません。しかし見落とすと法的なリスクに直結します。
さらに、タスクを行う上での疑問解消の機能も必要です。
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これからは、このような細かな法対応や専門知識まで網羅できるようなAIエージェントが求められていきます。単に作業を効率化するだけでなく、ユーザーが気付いていない潜在的な課題までフォローできる、広範なカバー力を持つソリューションの提供が必要にるのです。
③思考プロセスの構築
AIエージェントなどのサービスでは、知識量の豊富さが注目されがちですが、専門家の思考プロセスを再現することが重要です。単なる知識の蓄積では対応できない複雑な状況や、文脈に応じた判断が求められるケースにこそ、このアプローチが力を発揮します。
AI自体の思考力はすでに向上しており、o1-previewではIQ120を超えています。一般的な思考プロセスではすでに人間以上の思考ができるようになっていますが、いわゆる経験に裏打ちされたような専門家の思考は行うことができません。だからこそ各会社で実装していく必要があります。
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あなたの会社で無断欠勤が発生した場合を考えてみましょう。単にAIが就業規則を参照するだけでは、「解雇」や「自然退職」の手続きを案内することになるでしょう。しかし社会保険労務士などの専門家であれば、まず会社の意向を確認しますし、その欠勤がうつ病などの精神的な健康問題に関連している場合、安易なアプローチは従業員の命に関わることもあるため個別対応を行います。
この場合、就業規則に従うだけではなく、社員への配慮や会社としてのリスク管理が求められるのです。
このように専門家は状況を多角的に捉え、場合分けや注意すべき点を考慮しながら最善の対応を導き出します。AIエージェントにおいても、ただ知識を詰め込むだけでなく、専門家特有の判断基準や思考プロセスを設計に組み込むことが必要になってきます。
④ユーザーとのコミュニケーション設計
AIエージェントの設計は、もはや「システムをつくる」というより「人をつくる」に近い作業です。
AIエージェントはただ受動的に動くだけではなく、能動的にユーザーとかかわり、ユーザーと実際に会話をする存在であるため、ユーザーとの接し方、ユーザーとの関係性まで設計することが重要になります。
従来のUI/UX設計では、操作しやすいアイコンや配置といった部分が重視されてきました。AIエージェントにはそれに加えて、ユーザーとの「気持ちのよいコミュニケーション」を生み出す設計が求められます。
AIエージェントのサービスでは、単にユーザーの指示待ちではなく、定期的に情報を提供したり、状況確認を行ったりすることで信頼を獲得し、ユーザーが「相談したい」と思える環境と関係性を築くことが求められます。そしてそこからさらに、タスクの実行へとつなげていく流れをつくり出します。
とはいえ、これは0→1でつくるというよりは、まさに社労士が顧問業務で行っているコミュニケーションの形そのものであり、それをサービスに落とし込むことで実現できると考えています。
こうしたコミュニケーション設計には、ロジックや構造の構築が不可欠である一方で、特に職人が持つ「感性」や「感覚」も必要になります。たとえば、どのタイミングで、どのような内容を、どのようなトーンで伝えるべきかといった部分は、計算だけでは補いきれない部分なのです。
平田オリザさんという劇作家がロボットに指導を行った事例などは非常に参考になります。これはまさに、職人が持つ感性や感覚をテクノロジーに落とし込んだ事例です。
平田:どうすれば「ロボットを人間らしく見せられるか」ということですね。そのため僕はロボットに演出を施していったんです。
まず2分くらいの台本を用意し、ロボットに動きと台詞を入力し性能を確認しました。そして、その場でダメ出しをしたんです。プログラマーに「こことここの台詞を0.5秒あけてください」「ここで右手を30度あげてください」といった指示を出してもう一度動かした。
すると、そこにいた約20人のロボット研究者たちがため息をつくほど、ロボットの動きがナチュラルになったんです。
─演技指導はロボットにも通用したと。
平田:そう。でもそれは当たり前なんですよ。ロボット学者はロボットの性能を良くすれば人間に近づくと思っていましたが、演劇人は2500年も前から「人間はどうすれば人間らしく見えるか」を考えてきたので、人間でないものでも人間らしく見せることに長けているんです。
この4点の要素から導き出される結論は、「専門知識(ドメイン知識)」と「AI知識」を併せ持つ人が、これからの世界を一気に変えていくということです。
特に、専門家しか持ち得ない深い知識やスキル、独自のケイパビリティがますます重要になります。そうした背景から、単なる技術者やデータサイエンティストだけでなく、特定の分野に精通した「ドメインマスター」と呼ばれる専門家が、その知見をAIの設計・運用に活かし、活躍する時代に突入しているともいえるでしょう。
AIエージェントへの山の登り方は3種類ある
多くのケイパビリティが必要となるAIエージェントですが、現状の組織のケイパビリティによって3種類の登り方があると考えています。
①専門家×AI
②BPaaS
③SaaS→AI
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①専門家×AI
特定領域の専門家が知識やノウハウを活かし、AIを使ったサービスを構築します。
チームとしても専門知識や専門的なノウハウを持つ人員を多く雇用し、AIとユーザーが理解しやすい資料づくりやノウハウのロジック化を進めます。特に専門家の思考プロセスはインターネットなどに公開されているものではないため、専門家とAIチームとの共同で作る必要があります。
(当社はこの山の登り方をしています)
メリット
・専門家の考え方や知識をシステムに素早く反映することができる。
・専門家ゆえに業務範囲やカバー範囲を拡大しやすい。
・AIのコミュニケーションに対して社内でフィードバックができる。
デメリット
・サービスができるまで売上が上がりにくい。
・専門家のAI知識やITリテラシーが低いケースが多い。
②BPaaS
AIエージェントはユーザーのタスクをほぼすべて代行することを前提としているため、AIより先に人の手で代行を行い、そこから徐々にAI化を進めていくという方法です。
ユーザー体験としてはAIでも人の手でも代行さえしてくれればよいので、早くユーザーに価値あるものを提供することができます。
BPaaSという言葉に聞きなじみがない方は、以下のnoteがとても参考になるのでご覧ください。
メリット
・ユーザーに実際に業務を提供するので、解像度高く業務を理解できる。
・実際に「タスク」を提供しながら一部分ずつAIやシステムに変更できる。
・BPaaSとして料金をもらえるので、開発費を回収しやすい。
デメリット
・BPO部隊をつくるまでが大変で、人のマネジメントに大きな工数がかかる。
・AIエージェントになった際、ユーザー側の業務フローを変える必要があり、そこに労力がかかる。
③SaaS→AI
「SaaSが死ぬ」という動画から始まった記事ですが、当然ながらSaaS企業がAI時代に何もしないわけがありません(特に今のSaaSはパッケージソフトを代替してきたプレイヤーばかりで、時代の変化に強い企業が揃っています)。
今のSaaSのロジックや機能性は拡充しつつ、チャットや会話で操作できるようになったり、指示待ちではなく、SaaS側から提案が行われるようになります。
(マネーフォワード様のAI活用例)
メリット
・自社SaaSをもとにAIを作成できるため、AI機能をシームレスに構築できる。
・すでにエンジニア部隊があり、実装スピードが速い。
・顧客基盤があるため、他社の対応や技術進化を確認してから対応方法を決定できる。
デメリット
・自社SaaS以外の対応ができない。(できないわけではないが、ビジネス上やらない)
・エンジニア&ビジネス職が多い中で専門領域のケイパビリティをつくる必要がある。
登り方自体に正解はない
ただし、今後の展開は「誰が勝つか」というゼロサムゲームではなく、共存の方向に向かう可能性も高いでしょう。
たとえば、①専門家×AIはそのカバー範囲の広さが強みとなる一方で、SaaSが提供する操作の品質やカスタマイズに劣る可能性があります。しかし、この課題は③SaaS→AIと協業することで解決できます。
具体的には、①のAIが「何をすべきか」を指示し、その指示を元にSaaS側のAIが具体的なアクションを実行する、という形です(「AI to AI」と表現することもあるらしい)。
このようにAI同士が連携して最適な結果を導き出す仕組みが今後の主流になるかもしれません。
AIエージェント+専門家ネットワークがサービスのゴールになる
AIエージェントがタスクをこなすという話をしていますが、もちろんAIにもできないことや、AIだけでは解決できない課題があります。AIエージェントが万能ではなく、人間の介在が「いい感じ」で必要になる場面も多いのです。
特に次のようなケースでは、人間、特に専門家の関与が欠かせません。
・技術的には可能でも、価値を生まないこと
AIが技術的には対応可能でも、そのタスク自体が付加価値を生まない場合があります。相手が弱っているときに寄り添うこと、元気づけること。そのような言葉を生成することはできますが、それ自体に効力はありません。
・情報さえあればできるけれど、情報が集まらないこと
AIが高度な処理を行うためには、正確で十分な情報が必要です。相談されるときには、相手の背景や今までの行動や想い、相談しているときの表情などが必要になりますが、そのような情報をインプットしていくのはとても手間です。しかもそのようなデータは過去蓄積されていないので、そもそもAIの精度が上がっていません。
・技術的には可能でも、コンプライアンス的にやってはいけないこと
AIサービス提供者はコンプライアンスを守る必要があります。労務の世界では、中小企業の完全なホワイト企業化はコスト的にも厳しく、グレーゾーンを通らないといけないときもあります。ただし、このあたりはAIで言及することができません。
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やはり、ユーザーの課題解決を行うためにはAIエージェントと専門家が協働する必要があるのです。すべてをAIに任せるのではなく、人間が適切に介入し補完する仕組みをつくることが重要です。
私たち「HRbase」がやっていること
私たちHRbaseは、労務管理領域のAIエージェント構築を目指しています。
(ICCでのプレゼン動画が一番わかりやすいです)
私たちは6年前から労務管理領域のSaaSの開発に着手し、4年前からは多くの労務資料を作成し、ChatGPTが世に出た2年前からAIに舵を切り、今までの労務資料やノウハウとAIを掛け合わせて成長してきました。
おかげさまで労務管理領域のAIエージェント分野では、かなり実現に近い位置にいることができています。
山の登り方は「専門家×AI」。
ケイパビリティとしても、以下のように他社にはない組織づくりやパートナーシップがつくれています。
①AIのテクノロジー、ノウハウ
・2年間、労務領域に絞ってAIの研究を進めており、実際どの会社よりも早く労務相談AIをリリースできました。
・2024年9月には資金調達を行い、サイボウズ株式会社様、RICOH Innovation Fund様、株式会社テラスカイベンチャーズ様、弁護士ドットコム株式会社様など、AI領域に強い企業からのサポートを受けられています。(最新情報や世に出ない情報を得られる環境です)
②カバー範囲の広さ
・現在の主力サービス「HRbase PRO」は、質の高い労務関連の資料を提供するサービスで、4年前から資料をつくり続けてきました。
・他社にはない労務の専門部隊(労務開発)を有しており、国の資料がない部分でも自社でQ&Aなどの資料を作成し、AIの精度向上ができています。
③思考プロセスの構築
・代表の私自身が社会保険労務士であり、AI、労務管理ともに解像度高く事業に反映できており、専門家の考え方を要件定義に落とし込めています。
・社内にも、トラブル対応が得意な人から丁寧な顧客対応ができる人まで多様な強みを持つ労務の専門家がおり、最適な思考プロセスを設計しやすい組織です。
④ユーザーとのコミュニケーション設計
・HRbase PROは社労士向けのサービスで、既に数千人の社労士とのネットワークを築いています。
・業界の著名な専門家とのパートナーシップも築けています。
一緒にAIエージェントを開発してくれるCTO候補を募集中
AIエージェントを構築すること自体が目的化してはいけませんが、AIエージェントを実現するためには、AIに関するテクノロジーの専門知識が必要です。
当社では、さまざまな技術を活用しながらAIサービスを作り上げているのですが、実はCTOがおりません・・・
これから技術的にもとても面白いチャレンジをしていくため、一緒にやっていただけるCTOの方を募集しています。もしくはCOOとして事業全体に関与してくださる方も大歓迎です。
下記の資料のように、検証していかないといけないこと、実装しないといけないことが盛りだくさんです。
このビジョンに関心を持ってくださった方は、一度ご連絡ください。新しい価値を一緒に創造し、AIの可能性をさらに広げていきましょう。
労務というジャンルには大きな可能性があります。技術や知識を、「働く」という分野で活かし、社会課題を解決してください。
以下に株式会社HRbaseのコーポレートサイトと、採用ページを貼らせていただきます。ご連絡、お待ちしています!