見出し画像

【FLSG】ニュースレター「Weekly Report 9/4号」


ジャクソンホール通過で小康、薄商い下の買い戻し相場
先週の週明け相場はジャクソンホール会合前のリスクヘッジの買い戻し、中国政府の市場テコ入れが重なり、小康相場となった。「先進国で強まる利上げ打ち止めムード」と報じられ、米債券相場が小康状態となった。植田日銀総裁が緩和姿勢を維持したことで円がジワリ売られ、米ゴールドマンサックスは「今後6ヵ月で155円を付ける可能性がある」とした。日米ともイベント通過後の週初の株式市場の出来高は薄く、インデックスの買い戻し基調が目立った。

会合での議論の中心は、生産性やイノベーション(具体的にはAIやエヌビディアの行方か)、債券市場の構造(長短金利逆転の構図か)、世界のサプライチェーン(主に中国情勢や拡大BRICSの動きなどか)、増大する公的債務レベルなどと伝えられた。

中国情勢は懸念材料として大きいが、正確なデータがなく習近平政権の政策動向も不透明で議論の方向性は得難いものと思われる。利上げに向けてのインフレ懸念やタカ派姿勢は示されたが、隠れた要素として、量的引き締め策が議論されなかった(したがって流動性相場の基調不変との見方)ことも安心材料と見られる。債券か、株式か、の議論があるが、金利低下は株高要因になると見られ、運用姿勢の積極化を睨む局面と考えられる。

中国は一斉に株式市場テコ入れ策を打ってきた。ただ、5%高で始まった先週の上海総合指数は1.13%高に押し戻され、困難はさらに強まる恐れがある。先々週末に打ち出した政策は、印紙税引き下げ、需給改善へIPO(新規株式公開)抑制、主要株主の株式保有削減規制、個人向け37本のファンド新設認可など。中国証券報は「当局の決意を示すもの」と主張した。おそらく、国家隊(年金、保険などの機関投資家)も出動したものと見られる。ただ、ストックコネクト(株式相互取引)を通じて、この日の外国人投資家は11.2億ドルの売り越し。海外勢の目線を変えるには至っていない。

香港で取引再開の「中国恒大」株、売り殺到で一時87%の急落…時価総額はピーク時の85分の1(読売新聞より)

売買再開の中国恒大株は87%安で寄り付いた後79%安(0.35香港ドル)。28日開催予定だった債権者会合は9月26日に延期(1ヵ月ほど延命か)された。香港の不動産仲介大手中原集団は中国本土部門が巨額の未払い手数料を抱え、従業員への支払いができない状況と発表した。詳細不明ながら、未払いには恒大が含まれると報道されている。
ドイツのIFO経済研究所が28日、「8月の国内輸出企業の業況は一段と悪化した」と発表。8月経済統計に関心が移るものと思われる。

中国情勢睨みつつ、混乱リスク注視
一般論として、中国は米国が対中強硬姿勢を取る時は対日宥和姿勢、米国が対中宥和の時は対日強硬姿勢を取ると言われる。背景に”日米分断”の考えがあるとされ、周恩来-田中角栄・大平正芳の日中国交回復以来の政治的力関係があるともされる。岸田首相、林外相、茂木幹事長はその系譜であり、日本の姿勢は脆弱に見える。

フクシマ処理水での異例の対日攻撃は、レモンド米商務長官訪中でのバイデン政権の宥和姿勢転換を示唆している可能性があるが、常軌を逸した行動に見える。北京の日本大使館がいち早く在留邦人に注意喚起を行っており、不測の事態に警戒感が続こう。なお、全面的に対中輸出禁止となった水産物輸出関連で、食品輸出企業は727社、うち水産物関連164社と帝国データバンクが発表している。

ジャクソンホール会合より驚きのニュースになったのは「28日から中国恒大株売買再開」(結局前述のように大幅安で再開)。1‐6月330億元(約6600億円)の赤字決算を発表し、準備を整えたとしているが、米破産法申請企業の株価がどうなるのか、これも常軌を逸している。

半ば強制的に海外投資家に投げ売りさせる狙いか、ロシアが外国企業撤退でほぼ資産没収状況にあることに続こうとしているのか注目される。他の不動産開発企業では、碧桂園の債務再編は難航し、龍湖集団はムーディーズが格下げ。中国当局は住宅ローン規制緩和などを打ち出しているが、焼け石に水状態と見られている。

ジャクソンホールでパウエルFRB議長は中国情勢に言及しなかった様で、植田日銀総裁の「生産拠点の脱中国、世界経済に不確実性」との発言が伝えられた。直截的発言の植田総裁らしいが、欧米金利上昇圧力抑制に働くのか、ドル高基調を強めてしまうのか、当面は中国情勢を睨みつつの展開になると想定される。なお、米GSはMSCIアジア太平洋株指数(除く日本)の12ヵ月目標を580から555に引き下げ(現在504ポイント前後、年初来0.3%下落)、モルガン・スタンレーはMSCI中国株指数の24年6月目標を70→60に引き下げた(24日59.072,年初来8%下落)。率先して暴落論を唱えると当局から非難されるので後追い的に引き下げている。海外投資マネーが再び中国株に向かうとは考え難い状況が続こう。
日本株ではNT(日経平均/TOPIX)倍率が5月11日以来となる14倍割れ(9月1日は13.92倍)が続いている。日経平均の寄与度が高いハイテク値嵩株に警戒売りが出ていたようだ。

碧桂園決算真価問う、対策続く公算
中国のフクシマ処理水攻撃は、事実に基付かず民衆を煽る手法として「義和団の乱」(1900年)以来、権力者の手法として変わっていない。1980年代から使ってきた”日本の戦争責任”が、韓国の「慰安婦」、「徴用工」運動破綻で威力を失ったため、新しいネタに飛びついたと受け止められている。無理な論調は国際的に通用しないとの見方がある。

中国の態度が変わるとは思い難いが、レモンド米商務長官が伝えたと言う「中国はますますリスクが高過ぎて”投資できない”国になりつつある」との主張に習政権がどう反応するか注目される。具体的には、反スパイ法、知的財産窃盗、補助金問題などの諸問題で、インテル、マイクロン、ボーイングなどが受けた多くの問題を中国側に提起したと言う。習政権の理不尽な圧力が緩和されれば、中国ビジネスを維持できるとの期待がある。

29日の中国株は機関投資家の売り越し禁止が効いているのか、ほぼ全面高。30日は恒大と並ぶ経営危機企業・碧桂園(カントリー・ガーデン)の上半期決算が発表され約1兆円の赤字となった。今月、既に2本のドル建て債の利払いを行えず、人民元建て私募債の返済延期(9/2期限)を求めている。22年末負債総額は1940億ドル、上半期純損失予想は75.5億ドル(550億元、前年同期は19億元の黒字)、国内社債の60%程度が年内償還期限のため、キャッシュフローと返済期限延長交渉が注目されている。ただし、1日のロイターによると、一部国内の債権者に利払いが実施されたようだ。それにしてもどうなっているのだろうか。

世界の企業配当過去最高、日本は半数で2桁の伸び
先進国を中心とした株高要因には、企業の積極的な増配、高配当姿勢がある。30日、資産運用会社ジャナス・ヘンダーソンは「世界の企業の23年配当支払い総額が過去最高の1兆6400億ドルに達する見通し」と発表した。第2四半期に6%超増やし、上期配当総額は5681億ドル。欧州(英国除く)が約10%増と最も積極的で、業種では金利上昇を受けた銀行が増額分の半分を占めた。米国は4.6%増と低く、インテルやブラックストーンなどの減配が足を引張った。日本は集計対象の半数以上で2ケタ台の伸びを示した。

中国は減配企業が続出。これから中国事業の真価が問われる。一気にバブル崩壊型の調整に突入する可能性もなくはないが、数値的判定が難しく、中国政府の強引な手法も予想されるので、業種ごと、企業ごとの差が大きくなる可能性がある。「脱中国」を進めている企業もあり、短期的な収益だけでなく中長期戦略が投影される配当政策が焦点になると考えられる。

29日、ブラジル・中国ビジネス委員会が「22年の中国のブラジル向け直接投資は前年比78%減の13億ドルにとどまった」と発表。中国が発表した投資計画の28%の実行にとどまったと言う。中国のブラジル投資は資源プロジェクトで、ロシアのウクライナ侵攻、環境規制問題、ブラジルが含まれない「一帯一路」取り組み優先などが指摘されている。

中国の事情から類推すると、萎縮する事業は資源関連、海外投資、高級ブランド消費などが考えられる。メタ(フェイスブック)が中国の世論操作活動「スパモフラージュ」アカウント約7700件を削除したことで、IT関連の駆け引きも激しくなる可能性がある。

月初は恒例の重要経済指標発表
重要な経済指標が発表された1日、まず8月の米雇用統計では、非農業部門雇用者数は18.7万人、予想は17万人増、前月は15.7万人と速報値の18.7万人から下方修正。なお失業率は3.8%。予想は3.5%。平均時給は前月比0.2%上昇と、昨年初め以来の低い伸び。前年同月比では4.3%上昇だが、賃金の伸びは鈍化している。労働市場の底堅さと鈍化の両方を示す強弱まちまちの内容となったもう一つの重要な経済指標である8月のサプライマネジメント協会(ISM)製造業景況感指数は47.6と、市場予想(46.9)を上回り、7月(46.4)からも改善した。市場では「インフレ圧力のしつこさが意識された」との受け止めがあったことも相場の重荷だった。なお、9月の金利据え置きの確率は93%、11月利上げは36%の確率とみている。


■レポート著者 プロフィール
氏名:太田光則
早稲田大学卒業後、ジュネーブ大学経済社会学部にてマクロ経済を専攻。
帰国後、和光証券(現みずほ証券)国際部入社。
スイス(ジュネーブ、チューリッヒ)、ロンドン、バーレーンにて一貫して海外の 機関投資家を担当。
現在、通信制大学にて「個人の資産運用」についての非常勤講師を務める。証券経済学会会員。

■■■ 公式LINE ■■■
https://em-tr811.com/L17976/c622/23771

■■■ Instagram ■■■
https://em-tr811.com/L17976/c622/33771

■■■ TikTok ■■■
https://em-tr811.com/L17976/c622/43771

■■■
  X(旧Twitter) ■■■
https://em-tr811.com/L17976/c622/63771