【FLSG】ニュースレター「Weekly Report 6/17号」
欧州懸念続き、株価続落
14日はメジャーSQ。比較対象の3月SQ値は3万9863円、5月は3万8509円。買い方、売り方の攻防は5月S比横ばい(実際は3万8535円)だった。SQ通過後、上値の壁となっている3万9000円を抜けるか、どうかが焦点になる。新たに欧州政治リスクが強まっており、五十歩百歩の岸田政権の迷走も問題視されるかも知れない。
13日の欧州株は続落。仏-1.99%、伊-2.18%、独-1.97%、英-0.66%など。7月4日総選挙の英国世論調査で、支持率は労働党37%、二位は右派政党「リフォームUK」19%、スナク保守党は18%で3位に転落した。仏では社会党、碧の党など左派勢力が結集、マクロン与党も第三勢力に後退の恐れ。14日も欧州株は軒並み続落。なかでも仏株は2.65%の下落。
マクロン仏大統領が表明した総選挙実施に対して、投資家は即座に厳しく反応している。同国の財政が一段と悪化する恐れがあるだけでなく、新たなユーロ危機の懸念さえ持ち上がっている。特に打撃を受けているのが仏国債だ。仏10年債と同年限独国債とのスプレッドは週間ベースでの拡大幅が2011年以降で最大となる勢いだ。フランス国債を大量保有するソシエテ・ジェネラルやBNPパリバ、クレディ・アグリコルの株価はいずれも今週に入り10%余り下落している。結局、仏株価指数CAC40指数は年初来の上げを失った。
脱炭素、SDGs(持続可能な開発目標)、移民、人権、グローバル化など欧州リベラルが推進してきた施策が音を立てて総崩れになるのか、歴史的転換局面になるか、市場は様子見ムード、リスク回避姿勢を強めていると思われる。ただ、英右派「リフォームUK」を率いるナイジェル・ファラージ氏はブレグジットを主導した人物の一人。欧州には政治混乱経験のしたたかさがある。
今のところ大きな混乱になっていない様だが、12日「モスクワ取引所は新たなロシア制裁を受け、ドル建てとユーロ建て取引を停止」した。米政府が中国などの第三国を含む300兆の団体・個人を対象に制裁措置を発表した。既に5割を超えている人民元取引への傾斜が進むものと見られる。ロシア経済が何処まで悪化するかは不透明だが、少なからず欧州経済にもダメージが広がる公算大。
13日の米株はナスダック、S&P500指数が揃って4日連続最高値更新。この日発表の5月PPI(卸売物価指数)が前月比-0.2%と予想外に下落(昨年10月以降で最大)、週間新規失業保険申請件数が10か月ぶりの高水準となり、ディスインフレムードが追い風となった。買われたのはハイテク株中心で、取引所合算出来高は101.4億株(20日間平均124.9億株)と薄商い。12日現在、米投資信託協会が発表したMMF(マネー・マーケット・ファンド)資産残高は6兆1200億ドル、4月の過去最高を更新した。
日銀は具体策見送り、円安対策ナシ
14日は日銀金融政策決定会合の発表。「保有国債残高圧縮検討、事前に買い入れ額減額の公算」と観測報道が出ていた。膠着状態のドル円相場への影響が注目されていた。
今回の会合で月間6兆円程度としている長期国債の買い入れを減額する方針を決定した。具体策は次回の7月会合(30~31日)で決めるが、今後1-2年程度の具体的な計画を決めた上で、金融市場で長期金利がより自由な形で形成されるように減額していく。政策金利を0-0.1%程度に誘導する金融市場調節方針は維持した。
7月会合での利上げの可能性を問われ、「その時までに出てくる経済・物価情勢に関するデータないし情報次第で、短期金利を引き上げて金融緩和度合いを調整することは当然あり得る」と植野総裁は語った。一時158.26円と4月29日以来の水準まで円が下落した後、利上げの可能性を示唆した総裁の発言で157円台に戻した。
日銀は国債減額を先送りして完全に市場の期待を裏切った。これは当然すでにある円安圧力をさらに増加させると指摘する声もある。そうなると7月には円安への対応をさらに迫られる可能性もあり「7月の利上げはありうる」と述べたのだろう。個人的には、日銀の具体策の見送りは、現在進行している円安の悪影響に無策と受け止めている。
米緩やかなインフレ減速観、S&P500指数最高値
12日発表の米5月CPI(消費者物価指数)発表でハト派的動き、同じ日のFOMC発表でタカ派的となり、市場は乱高下したが、大きな動きにはならず、待機勢が押し上げたと見られるナスダック指数、S&P500指数が最高値更新で戻ってきた。S&P500指数は初の5400ポイント乗せ、エコノミストなど市場参加者の多くが年末目標に掲げている5400ポイントに到達、目標観が喪失している。
CPIは前月比変わらず、前年比+3.3%。市場予想の+0.1%、+3.4%を下回り、安心感が広がった。抑制的に作用したのはガソリン価格で、住居費は高止まり。原油相場、ドライブシーズン需要など敏感な状況が続くと見られる。
一方、FOMCでは「年内利下げ1回(3月は3回)、25年4回」見通しに修正されたが、市場の「9月利下げ確率」は63%とあまり変わらず、年2回は有り得るとのスタンス。手前味噌だが、FOMCは弱いCPIを織り込んでいないとの見方。
10年債利回りは4.2%台に急低下した後、4.318%。これに合わせドル円は157円台から155円台に急伸した後156円台半ばの揉み合い。この時点では円安観はやや遠のいた印象だが、カギは日銀に渡った(決定会合の内容は前述)。
株高はオラクル13%急伸、アップル2.9%高とハイテク株が牽引。アップルは一時6%ほど上昇し、5か月ぶりに時価総額でマイクロソフトを抜いた。エヌビディアを含め、時価総額3兆ドルトリオを形成している。ただ、300ドル高で寄り付いたNYダウはマイナス圏に沈み、米取引所合算出来高は118億株と20営業日平均124.9億株を下回った。6月末に向け、上げ賛成局面だが、それほど活況感は出ないイメージだ。
個人的に最も嫌なニュースは「中国河北省北部で気温42℃」。このところ中国北部や中部で異常高温を記録しており、日本にもジワリ押し寄せている感じだ。健康被害や深刻な干ばつが警告されている。その中国の5月CPIは前年同月比+0.3%、PPI(生産者物価指数)はマイナス4%。中国発デフレが懸念されているが、CPIプラスでやや遠のいた。
ただ、地方政府の苦境で公共料金の値上げラッシュとなっている公算があり、生活困窮度は深まっている可能性がある。先週の中国株は軟調だったが、5月に打ち出した不動産・住宅対策が上手くいっていないとの見方が燻る。EUが中国製EVに最高38.1%’(現行10%を加え48%)の高関税を発表した。中国情勢にも目配りが必要だ。
政治リスク、欧州に飛び火、国内経済に不満
欧州議会選挙の後、政治(選挙)リスクが欧州に飛び火した。
欧州議会選では右派が躍進、緑の党が惨敗したものの親EUの中道派が過半数を占め、EU委員長などは続投の方向。
ただ、マクロン仏大統領の下院解散がサプライズとなり、仏市場を中心に荒れた。週明けから仏株は前述した様に仏国債を多量に保有する銀行株中心に売られ、一時2.4%安、終値は1.3%安、仏10年債利回りは10bp跳ね3.19%(昨年11月以来)。ルペン氏率いる極右政党の支持率は34%、マクロン与党は19%に止まり、劇的な政権転換リスクがある。
断片的に報道されるフランスの状況は悲惨。パリには不法移民ホームレスが溢れ、ワイン農家はコーラ飲料並み価格のスペインワインに追い込まれている。都市も農村も不満が充満している。
ドイツでも「ドイツのための選択肢(AfD)が勢力を拡大している。環境対策の崩れ方や不法移民対策などが当面の焦点となる可能性がある。
先々週に崩れたインド、メキシコ株は戻している(メキシコの戻りは鈍い)ので、大崩れには至らないと見られるものの、当面、頭の重い展開になると考えられる。
日本の政治リスクが直ちに高まるとは思われないが、地方選で負けるたびに自公内で「岸田のせい」との声が高まっていると言う。円安メリットを活かせず、国内経済に停滞感が強まっている。
10日発表の5月景気ウォッチャー調査は現状判断DIが45.7,コロナ禍の22年8月以来の低水準に落ち込んだ。先行き判断DIは46.3,3ヵ月連続悪化。統計は異なるが、4月の対個人サービス売上高を見ると、マイナスは結婚式10.6%、外国語10.1%、ゴルフ練習場3.4%、プラスは葬儀5.3%、フィットネス3.0%,ボウリング2.0%など。少子化対策は入り口から間違っている印象だし、消費者の防衛姿勢が伺える。
NHK世論調査で岸田内閣支持率が21%に沈んだ。昨年末辺りから23~26%程度で安定していたが、ジワリ低下、不支持率は60%に乗せた。仏マクロンも英スナクも20%程度なので、今のところ突出してはいないが回復材料が見当たらない。
4月経常収支は2兆505億円の黒字、第一次所得収支3兆8328億円の黒字が押し上げており、マクロ経済的には円安効果大。外為特会の巨額含み益と言い、円安活用論が出て来ないのが不思議なぐらいだ。
岸田おろし始まる。政治的不透明感が見送りムード要因か
6月6日夜、菅前首相が自民党幹部と会食したことをNHKなどが一斉に報じ、「岸田おろし」が始まったとの見方が急速に広がっている。集まったメンバーは、HKTと呼ばれる萩生田光一氏、加藤勝信氏、武田良太氏、それに小泉進次郎氏が加わった(政治的に河野太郎氏、石破茂氏は後退。岸田派だった上川外相も失速・後退)。
衆目の一致する所、ポスト岸田に加藤氏を担ぐ動きと見られている。背景に、4月の衆院3補選以降も地方選での敗北が続いており、小田原市長選(河野、小泉氏応援)に続いて昨日は栃木・鹿沼市長選(茂木氏地元)で敗北した。横浜、青森、長野などの自民地方団体から岸田退陣要求が出されており、森内閣退陣要求に近い情勢が出来つつある。
加藤氏は”敵がいない”と言われており、バラバラになった旧安倍派、二階派などを取りまとめるのにうってつけと見られている。財務省出身で経済政策の大きな変更はないと見られる。情勢次第では宏池会の方が解体される怨念攻防に向かう可能性がある。
岸田首相が、あまりにもバイデンの言いなりと言われる状況も要因。歴史的に、自民党は宏池会が米民主党対応、清和会が共和党対応と言われてきたが、11月米大統領選でトランプ再登板となった時の対応の意味合いもあろう。また、宏池会政権で二度(宮沢ークリントン、麻生ーオバマ)、自民党は下野している。岸田ーバイデンにも、その恐れがある。
おそらく、新政権で10~11月に解散総選挙、出来るだけ負けを小幅にし、維新、国民民主を加えた新しい連立を目指すものと考えられる。その分、不安定化するものと見られる。
政策的には流動的。欧米は欧州議会選や米大統領選などでリベラル衰退、保守派台頭の流れと見られている。脱炭素や不法移民問題などで批判が強く、政策混在状態。その分、技術革新的要素が強いAI関連に集中する流れにある。したがって、大きなトレンドを作る相場は期待し難く、金融情勢、経済情勢の小刻み変化に合わせた目まぐるしい攻防が続くと想定される。
■レポート著者 プロフィール
氏名:太田光則
早稲田大学卒業後、ジュネーブ大学経済社会学部にてマクロ経済を専攻。
帰国後、和光証券(現みずほ証券)国際部入社。
スイス(ジュネーブ、チューリッヒ)、ロンドン、バーレーンにて一貫して海外の 機関投資家を担当。
現在、通信制大学にて「個人の資産運用」についての非常勤講師を務める。証券経済学会会員。
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