【FLSG】ニュースレター「Weekly Report 9/9号
荒れる9月相場が始まった
商品相場では荒れるといわれる「2日新甫」(市場の月のスタートが2日のこと)の9月が始まった。日米の株価はともに1年間の月間騰落率をみると9月は12カ月の中で最悪だ。日本株に関しては、9月は、3月期本決算の多い日本企業が第2四半期末(中間決算)をまとめる月であり、アナリストの業績予想の見直しが影響しているのかもしれない。米株に関してはファンドの解約などを見越した換金売りが出やすいからだともいわれているが、決定的な理由は見当たらない。
「Sell in May, and go away, don't come back until St Leger day.」という相場格言がある。直訳すると「5月に売って去れ、そしてセントレジャー・デーまで戻ってくるな」、つまり「株式は9月に買って5月に売れ」となる。セントレジャー・デーとは、イギリスで毎年9月の第2土曜日に行われる競馬のレース「セントレジャー・ステークス(St Leger Stakes)」が開催される日のことだ(つまり今週)。さらに米国株は大統領選の年で9月は最も悪い。これは選挙の結果を見極めたいための様子見が関係しているのだろう。
そして、米市場は”レイバーデー(9月2日は休場)明けは弱い”のジンクス通り、米株の秋相場は下落から始まった。3日のNYダウは626ドル安(1.51%下落)、ナスダックは3.26%安。8月下旬の上げた分だけ下落幅が大きくなったと思われる。米司法省がエヌビディアに独禁法調査で文書提出命令書を出したとの報が伝わり、ハイテク大手の下落が大きくなった。ウェルズ・ファーゴが投資判断を引き下げたボーイングが急落。VIX(恐怖)指数は一気に20.72に撥ね上がった。
先々週の初のCNNインタビューで、カマラ・ハリス氏が軌道修正し始めたことが話題だ。「移民流入に厳しい対応を取る」、「イスラエルへの兵器供与を控えることはしない」など。左派・リベラルが進めてきた移民寛容策の軌道修正、パレスチナ寄りの姿勢に反発が強いためと思われる。シェール生産のフラッキング(水圧破砕法)も禁止しない意向を示した。何処まで、政策がグダグダになるか分からなくなった。
9月10日にトランプ氏とのTV討論会が予定されている。トランプ氏はハリス氏を「同志」(マルクス主義者の意)と呼び、「詐欺師であることを暴くのが楽しみだ」と相変わらず過激表現。民主党バックの外交問題評議会(CFR:グローバリストの本丸とされる)が”トランプ容認”に傾いていると言った話も流れるようになった。レイバーデー明け後は2か月後に迫った大統領選の行方を睨みながらの展開が想定される。
世界経済はデフレを懸念する段階に入ったか?
市場コメントには出て来ないが、商品相場が底割れしてきたことが景気懸念を強めていると思われる。3日のS&P GSCI商品指数は524.79、前日比2.23%安。昨年12月の538ポイントを割り込み、21年秋以来の低水準。同指数はコロナショックの20年4月258ポイントから22年6月774ポイントに高騰し、高インフレ局面をリードした。なお、雇用統計が発表された6日には511.06まで下落、週間で4.78%の下げとなった。
報道が無いのでよく分からないが、北海ブレント75ドル/バレル割れなどの原油安、NY銅在庫が20年ぶりの大幅増など需給悪化懸念が強まっていると見られる。ディス・インフレどころかデフレ懸念が出てきてもおかしくないレベルと思われる。
さらに、最も大きな要因は中国需要不振と見られる。2日ブルームバーグは「中国で爆発的に膨らむ商品在庫、景気不振の深刻さ表す」との記事を配信。在庫急増はコロナ禍後の景気不振によって一部トレーダーが窮地に陥っていることを示唆している可能性がある、としている。
JPモルガンによると、中国は世界の銅在庫の9割強、原油の25%近く、トウモロコシや小麦など食糧在庫の半分余りを保有する商品輸入大国。在庫を自分の資金繰りに使ったりするので経済法則に沿って動く訳ではないので、透明性、方向性はない。それでも、昨今の経済事情悪化で換金売り圧力を強める、あるいは買い手控えを強めるのではないかと警戒されているようだ。
今春ごろから、中国の安値輸出への警戒ムードが強まっている。代表は鉄鋼。30日、日本製鉄の森高弘副会長はロイターインタビューで中国の過剰生産・輸出増に強い懸念を表明した。1-6月の中国鋼材輸出量は5340万トン、前年同期比24%増、年1億トンペース。米国は輸入をシャットアウトし、欧州や韓国が反ダンピング措置を打ち出しているので、日本や東南アジアが狙われやすい。森副会長は「日本だけ裸、非常に危ない状況にある」。政府に働き掛けをおこなっているようだが、自民総裁選候補者で危機を訴えているのは高市氏ぐらいか。
中国国家統計局によると、中国鉄鋼業界の1-7月累積損失は28億元(約569億円)。景気不振から雪だるま式に悪化する恐れがある。鉄鋼業界からも、08年(リーマン・ショック)や15年(チャイナ・ショック)の危機よりも悪い状況との警告が出されている。
9月の世界株式市場は、中国発、世界経済デフレ化が相場を押し下げたと思われる。この先、中国景気動向を睨みながらの展開を余儀なくされよう。
レイバーデー明けの米株の下げはISM 製造業景況感指数が景気の拡大、縮小の分岐点である50を5か月連続で50を下回った。その経済指標と中国の膨らむ在庫から、インフレ警戒どころか、デフレ経済への警戒を株価は繁栄したと思っている。
9月の日本株下げの特徴
8月初めの暴落劇から立ち直ったかに見えた日本株が、9月に入って再び波乱の様相を呈している。日経平均株価は5日までの3営業日で5%超下落。海外では米国経済の先行き不安が再び台頭している。ただ、相場の実態はいくつかの点で1カ月前とは明確に異なり、こうした懸念は杞憂(きゆう)に終わる可能性がある。
8月の相場波乱時は日本が世界の中でも最大の下げを記録し、世界的株安の震源地だとみる向きもあった。しかし、今月に入ってからの下げ局面では日本株の下落率は他の市場と比べて今のところ際立って大きくはない。
足元の下げ相場の特徴として海外要因の大きさが挙げられる。東証33業種の下落率上位は半導体関連銘柄を含む精密機器や電機、機械などのテクノロジー関連、石油・石炭製品などのコモディティー関連だ。半導体は米エヌビディア株が決算発表後に下落基調となり、人工知能(AI)ブームの行き過ぎに対する警戒感が影響した。コモディティー関連は軟調な国際原油市況が売り材料となった(前述のデフレ懸念か)。
これに対し、8月初めの暴落を主導したのは国内独自の要因で年始から買われてきた業種群。日銀による金融政策の正常化期待で買われてきた銀行や保険などの金融セクターを筆頭に、商社など卸売り、円安の恩恵を受けてきた輸送用機器が下落セクターの上位に並んで日本株市場全体に対する売り圧力が小さい点も8月とは異なる。これは東証プライム市場の売買代金に反映されており、今月に入ってからの1日当たりの平均売買代金は4兆円を下回る日もあった。8月の暴落時と比べ4割以上少ない。
8月の下げを増幅させた主犯格とみられるのが、大量にたまっていた信用買い残の投げ売りだ。急落直前の買い残は18年ぶりの高水準に膨らんでいた。こうしたポジションは先月の暴落で「既にふるい落とされており、この先パニック的なことは起こらないだろう」との見方がある。しかし、6日の米市場の下落を見ていると、景気後退もソフトランディングより、むしろハードランディングを市場は想定しているように思える。
ドイツも景気悪化、苦境の企業増える
4日、独VWは本社ウォルフスブルグで、国内工場閉鎖を含むコスト削減計画の従業員説明会を開催した。1.6万人の従業員が集まり、会場外にも5千人がスクリーンを見守ったと言う。CEOは欧州自動車販売でVWが約50万台の需要不足に直面しているなどと説明、10月に賃金交渉に向かう予定。コスト削減に迅速に動けるかが焦点になっている。
自動車不振でIfW(キール世界経済研究所)は今年の独経済成長率見通しを+0.2%から-0.1%に下方修正した。25年は+1.1%から+0.5%。1日のドイツ東部での地方選挙で、右派「AfD(ドイツのための選択肢)」が第一党に躍進見通し。反移民や難民排斥を掲げる。ドイツでも東部は不景気色が強く、移民流入に反発が強まっている。
苦境の米インテルはNYダウ採用銘柄から外される可能性があると伝えられた。ダウ採用は1999年11月。現在、配当停止、人員15%削減中だが、”小さ過ぎる”との批判が出ている。新たに、受託生産事業で顧客ブロードコムの基準満たせず、と報じられた。バイデン政権の200億ドル支援策もグラついている。
バイデン政権が日本製鉄のUSスチール買収阻止で最終調整に入ったと伝えられた。大統領選での組合迎合で、ハリス氏、トランプ氏も反対姿勢。USスチール経営陣は、買収不成立なら、数千人の雇用削減、複数の製鉄所閉鎖、ヒューストンからの本社移転に迫られると訴えている。高炉撤退を念頭に置いているようだ。経営不振銘柄は徹底的に売り込まれ、全体地合いを悪化させている様だ。
日本市場は自民党総裁選が序盤で、手掛かり材料を得難い。海外勢が見送ればストンと下げる。Youtubeなどで出回っている総裁選状況は、第1ラウンドの推薦人20人確保競争で、20人以上確保は小林、林、小泉氏の3人、15-16名程度が石破、河野、高市、茂木氏、12名程度が上川、加藤氏、数名程度が斎藤、野田、青山氏の状況。第2ラウンドの1回目投票に向けての駆け引きが始まっているようだ。第3ラウンドの決選投票の読み合いも盛ん。
シナリオを組み立てるまでには至っておらず、市場も手掛かり難と見られる。
カナダ中銀が3会合連続0.25%利下げ。週末米雇用統計に向け、再び0.5%利下げシナリオが戻ってきており、軟弱地合いになっている様だ。
米、追加関税延期、中国経済事情は悪化か
30日、USTR(米通商代表部)は中国製EV、電池、半導体、太陽光パネルなどの追加関税の最終決定を延期した。当初は8月1日から、EV100%、太陽光パネル50&、その他25%の追加関税が科される予定だった。7月末に9月実施に先送りしていた。当局は「詰めの作業を行っている」と手続き上の問題としているが、サリバン大統領補佐官が訪中した直後だけに、思惑を誘う。
バイデン政権の狙いは、中国のロシア経済支援から手を引かせることとの見方がある。建前上は武器・弾薬など軍事支援は行っていないことになっている。ロシアは表面上、経済好調と宣伝しているが、30日付ロイターは「一部ロシア企業が中国貿易決済問題で数百億元の取引が滞っている」と報じた。中国国有銀行が一斉にロシア取引を停止した可能性があると言う。
中国が日本に対し、「半導体輸出規制強化すれば報復と日本に警告」とブルームバーグが伝えたことが日本株、特に半導体関連銘柄の重石になったと見られる。トヨタが「中国政府が報復として自動車生産に必要な鉱物への日本のアクセスを制限する可能性があると日本政府に伝えた」とも報じられている。米中攻防、日本へのトバッチリに注意する展開の可能性がある。
■レポート著者 プロフィール
氏名:太田光則
早稲田大学卒業後、ジュネーブ大学経済社会学部にてマクロ経済を専攻。
帰国後、和光証券(現みずほ証券)国際部入社。
スイス(ジュネーブ、チューリッヒ)、ロンドン、バーレーンにて一貫して海外の 機関投資家を担当。
現在、通信制大学にて「個人の資産運用」についての非常勤講師を務める。証券経済学会会員。
一般社団法人FLSG
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