社会のゴミ 社会の穴
俺は優秀な人物だ。
そして周りの人間なんてとるにたらないゴミだ。
昔からなんでもそつなくこなすタイプで、運動も勉強も人付き合いも、頭ひとつ分抜けて上手かった。自信過剰だと罵るかもしれないが、そういえるだけの努力をしてきたし、必要とあらば他人を蹴落とすこともしてきた。
社会は落とし穴だらけだ、深く深く、小石を落としても反響がないほどの穴。
自分の行きたい道を歩むために俺は、他者をその穴に突き落としながら進んできたのだ。
社会は良い椅子を人数分用意してくれるほど甘くはない。今日こそその顕著な例だろう。俺が第一に志望する会社の面接があるのだ。そして銀行に立ち寄っていた俺はどうしてかピンチを迎えていた。
ロビーに集められた人々の前には、黒地で目と口の周りだけ赤い目出し帽に拳銃を持った男が立っていた。そういう教科書があるのだろうかと思えるほどのステレオタイプだ。この目出し帽はどうやら立て篭もるつもりらしい。しかし人質が多いと邪魔だと気づいたようで1人以外解放することにしたという。そうして俺はこの目出し帽に後ろからハグされて銃を向けられたのだった。
まずい、面接に行かなければ。
こんな時に命より社会的地位を優先してしまうのだから現代社会は恐ろしい。咄嗟に俺は言った。
俺は隙を見せたら抵抗するかもしれないぞ!
そこの爺さんなら足腰も悪くなさそうだし人質に最適だろ!
ガタイの良い俺に説得力があったのか目出し帽は爺さんを人質にし、俺を解放した。
これが俺の生き方だ。自分を優先してなにが悪い。大体おい先短い老人なんて社会のゴミ同然だ。絶望で虚な目を向ける爺さんを社会の穴に蹴落とした形で、そそくさと銀行を出て面接会場へと足を運んだ。
遅刻するかと思ったがなんとか間に合った。会社側も面接官の到着が遅れるトラブルがあり開始時間をずらしたので、俺に対する悪い印象は無いだろう。ここまでくれば安心だ、このときのための準備は万端、臨機応変に対応する能力も秀でた俺はまず間違いなく採用される。扉を開くとすぐに面接官が口を開く。
君はあの時の…
そこには俺が目出し帽を押し付けた爺さんがいた。
「おーい、でてこーい」
そんな声が聞こえた気がした。