教科書の落書き

「人民の」

黒板の消し残しにどうしても目をやってしまう。
先生は気にならないのだろうか。しかし、ノートが汚いことを咎めないのだから、僕もここは目を瞑ってやらねばなるまい。

それにしても退屈だ。

テスト前日の一夜漬けでなんとかなってしまっている現状、普段の授業に身が入らない。余計なことを考えてるうちにもう残り10分。しかしこの10分が長い。気づいてしまうと長く感じるのでいつもは時計を見ないように努めているのだが、例の「人民の」が黒板からはみ出さんばかりに上の方に書いてあったために目に入ってしまった。

トイレにも行きたいし早く終わらないだろうか。

残り時間を有効に活用すべく、僕はかの大統領の顔に髭を書き足すことにした。もみあげから顎にかけては立派な髭が生えてるのに人中あたりには髭がないことがずっと気になっていたのだ。
これですっきりした。似合ってるぞ。

ポン

先生が教科書で僕の頭を軽くこづいた。真剣に落書きしていて気づかなかったが近くに来ていたらしい。先生を見上げたと同時に視界に入った長針に思わずニヤついてしまう。先生が黒板の方を振り返ると、終了を告げるチャイムがなった。

やっと終わったか。

今日一日の間日直という大役を任せられている僕は黒板を消しに向かう。

人という字の二股の間にれっか

変な字があるもんだな。
見たこともない字を腕を上げて消し、思い出したようにトイレに向かった。

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