オマージュ詩小説 『白くない靴』 #シロクマ文芸部
白い靴を履いているぼくは
運動場を走り回るみんなの靴が
少しずつ汚れていくのを
なんとはなしにながめていた。
ぼくの靴は
いつまで経っても白いままだから
ちょっとだけうらやましいんだ
きっとね。
「いっしょにあそぼ!」
「うん!」
でもだれもそんなことは気にしない。
ぼくが車椅子に座っていようと関係なく
ぼくも楽しめるあそびにさそってくれる。
それは担任の小林先生が
「柳瀬さんは事故にあって
車椅子に乗ることになったけど
車椅子は歩行者といっしょなんだ。
どういう意味かわかるかな?」
とクラスメイトに
問いかけてくれたからだ。
「歩行者ってことは
歩いてる人と同じってこと?」
ちょうど交通安全教室に
参加したばかりだったから
歩行者の意味をみんなよく知っていた。
「そうだ。だから柳瀬さんにとって
車椅子はみんなの足と同じなんだよ」
それ以来
「柳瀬の足ってかっこいいよな」
と車椅子をまじまじと見つめて
ほめてくれる男子もいれば
「トイレに行きたくなったら
いつでも言ってね! 手伝ってあげるから」
「わたしも!」
と声をかけてくれた学級委員と
保健委員の女子もいた。
みんなでおにごっこをしていた時に
「ずりぃよ、おまえの足速すぎ!」
と文句をつけられることもあったけれど
ちゃんとぼくの“足”だと
理解してくれているのがわかったから
腹も立たなかった。
それにぼくも
慣れない車椅子を操作するのに
苦戦していたから“速い”と言われるのは
むしろうれしかった。
でも……もうすぐ運動会だ。
ぼくに参加できる競技はあるのかな?
リレーはバトンが渡せない。
つな引きはつなを握れない。
玉入れは玉が拾えないし
投げた玉をネットに入れられる
自信もない。
どれもこれもむずかしいことばかりで
運動会の日が憂うつになっていた。
そんなぼくに気づいた小林先生が
「よかったらでいいんだけど
柳瀬さんも参加できる競技を
クラスのみんなといっしょに
話し合ってみてもいいかな?」
と言ってくれたけれど
本当はちょっとこわかった。
ふだんは優しいクラスメイトも
運動会となると
イヤな顔をされるような気がして。
でも実際に話し合いを始めると
そんな不安は吹き飛んだ。
「バトンが渡せないなら
たすきにしたらどうかな?」
「それなら借り物競走の方が
良さそうじゃない?」
「つな引きは応援役をしてもらって
代わりに長縄を回してもらうのは?」
「玉入れの時は柳瀬さんに
かごを持ってもらって
そこに落ちた玉入れてくれる人を
一人増やしたらダメかな?」
「それより上から落ちてきた玉を
柳瀬さんにキャッチしてもらおうよ」
「じゃあさ
車椅子に紐つけて大玉を
引っ張ってもらおうぜ!」
「それは車椅子がこわれちゃうってば!」
ぼく一人では思いつかない案が
笑い声とともにポンポンと飛び交う。
もちろん全部叶えられるわけじゃない。
ぼく以外のクラスメイトも
活躍できる場がないと公平じゃなくなる。
それはぼくだってイヤだ。
でも小林先生はこのアイデアを
校長や他の先生と相談すると
約束してくれた。
その後、いくつかの競技を
変えてもらう代わりに
今のぼくにしかできない
大きな仕事を任された。
🌞
運動会当日。ピカピカに晴れた空の下。
校長先生と児童会長の開会宣言の後に
ぼくは体育委員の上級生とともに
全校生の前に出る。
ぼくは座ったままできる
ラジオ体操を任されていたのだ。
そのために自主練を重ねたくらい
ぼくにとっては大役で
本番ギリギリまで
お腹がいたくてたまらなかった。
でも、いざやってみると地区ごとで
競技に参加するおじいさんやおばあさん
小学校の隣から来た幼稚園児も
いっしょに座ったまま体操をしていて
不思議と勇気がわいてきた。
だってみんな、ぼくの体操と左右どころか
全くちがう動きをしていたり
「イテテ……」
と声が伝わってきそうなほど
腕が上がらなくなったりしても
楽しそうにニコニコ笑っていたから。
そうだ。
上手くできなくたっていいんだ。
楽しむことが一番大事なことなんだ。
そうして、ぼくはみんなといっしょに
長縄を回す役と玉入れに参加した。
長縄は練習のかいあって
最高記録を叩き出した。
玉入れも練習していたけれど
本番の雰囲気に圧倒されて
思うようにはいかなかった。
でもきっとまたチャンスがあるはずだ。
それから個人レースとして
借り物競走にもチャレンジした。
ぼくが引いた紙には
『一番大切な人』
と書かれていた。
「お父さん、お母さん……
それからお兄ちゃんも!」
ぼくは大声を上げながら
車椅子で家族を見つけ出す。
持っていたカメラを
どうしようかあたふたするお父さん
目を真っ赤にして泣いているお母さん
そして別の学年にいるお兄ちゃんを
無理やり引き連れてゴールした。
結果としては
「一番って書いてあるから一人にしぼってね」
と判定する上級生に言われたけれど
ぼくにとっては家族みんなが一番だ。
「だから言ったじゃん。一人にしぼれって」
お兄ちゃんがふてくされたように言うと
「いいじゃないか、お父さん、お母さん、
おまえ、美雲の四人で家族なんだから」
とお父さん。
「ったく、娘にだけ甘すぎ」
「そんなことないわよ。
今日はあなたの好きなからあげも
お弁当に入れてるわよ」
「そうだよ、美雲にとっては
みんな一番だからえらべないの!」
家での末っ子感あふれる口調で
“ぼく”はお兄ちゃんにうったえる。
反抗期真っ只中のお兄ちゃんに
どこまで響いたのかはわからないけれど。
それにね、家族だけじゃないんだよ。
クラスメイトも小林先生も
みんなみんなこの世界にたった一人の
ぼくの一番大事な人なんだ。
そう思ったのは、ふと見た白い靴が
いつの間にか砂ぼこりでよごれていること
に気づいたからかもしれない。
このテーマを見て、パッと思い出したのは『冬の運動会』というドラマでした。ただ靴屋が関係していたことと感動して泣いたことしか思い出せなくて……(あらすじも読んだけれど、はっきりとは思い出せなかった😢)
そしてWi-Fi事情でみなさんの作品を読みにいけないこともあり、今回はお題だけお借りする形となりました🙇<すみません💦)
どうしてこのような作品にしたのかはこちらをご覧下さい🙋
イメージソングは私の好きなこちら♪
(前にも紹介した気がしなくもない……🙈)