安上がり
久しぶりに冷凍の鶏つくね串を食べた。あまり食欲のなさそうな私の様子を見かねた母親が、「アンタはこれなら好きだし食べられるでしょ」とレンジで温めてくれた冷凍食品だった。
私は確かにそれが好きだった。高校の時、お弁当に鶏つくね串が入っているだけで勝ち誇ったような気分になっていたのを覚えている。手を汚さず、一口で食べることが出来て、美味しい。ワープロ部に入っていた私は、嫌味な副顧問の同調圧力によって大半を奪われることになった休憩時間で手軽に食べることが出来た鶏つくね串が好きだった。
閑話休題。食欲のない人でも好きなものなら食べられるかどうか。これは人によるとしか言いようがないけれど、今日の私はNoだった。それでも、せっかく準備してくれたものに手をつけないのはいかがなものかと思い直して1本だけ食べた。変わらず鶏つくね串は美味しかった。
「アンタは安上がりで助かるわ」と私の母親は言った。安上がり。どういう意味でそれを言ったのかは私には分からない。手間がかからないとか、そういう意味だとは思う。私がそこでそんな風に言われた理由は、多分妹に冷凍食品嫌いなところがあるからだ。
妹は高級な食材には基本目を向けない割に、ちょっと割高なものを好む傾向にある。ハンバーグは牛肉100%がいいとか、オムライスの中身はケチャップライスじゃないと嫌だとか、そういう。対して私は、豆腐ハンバーグも好きな方だしオムライスの中身にもこだわりが無い。チャーハンでもいいし白米だって構わないといった具合に。そんな感じだから、ちょっとこだわりの強い妹の方が色々と手間がかかる印象がある。だから、母親は私と妹を比較して安上がりで済むなんてことを言ったのだと思う。
良い返し方が思いつかなかった私は、母親には曖昧に笑い返して、「最近の冷凍食品は美味しいものばかりだから」なんて言って誤魔化した。母親はその返事を大して気にする素振りもなく、つくしの佃煮にみりんを足していた。普段通りの様子に私は安堵したが、気分が落ち込んでいるせいか、私は母親の言葉があまり嬉しく思えなかった。こういう所で気にしすぎるあまりに損を積み重ねているんだろうかと思ったけれど、それを考えるのも無駄な気がするから今日は書くのを止める。
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