理不尽な怒り

部屋の中に響いた特徴的な羽音。これはヤツだ。存在を瞬時に判断して、辺りを見回すも姿の無い音の主。床を怪しく這い回る音ではない。高速で飛んでいるが故に生じる振動音。低く鋭く響き渡る音は人間の耳では拾いやすい。黄色と黒の派手派手しい体色がチャームポイントの、出来たら鉢合わせたくないアイツ。

恐らくは家の外の換気口が侵入経路。そしてヤツがたどり着いたのはキッチンの換気扇。荒々しい羽音は鳴り止まない。閉じ込められたことに対する怒りのせいなのか。そんなに怒られても困ってしまう。私だって会いたくなかった。

怯える身体を何とか動かして様子を伺った。音の聞こえる方向はやっぱり換気扇。何ならその姿すら視認できた。間違いなく怒っていた。人の家に勝手に上がっておいて怒鳴り散らすとは何事か。正面切って入り込まれても嫌だけど。

換気扇のフィルターをガジガジと噛むアレ。私はどうするべきだったのだろう。常備している電撃ラケットは念の為にと構えていた。ヤツを一撃で仕留めきれなかった場合は私が殺られるのだろう。痛いのは嫌だ。

理不尽な怒りに対する苦肉の策として、換気扇の外側から殺虫剤を振りかけた。アリアースだったけど。よく買うそれはなぜか他の虫の命も奪う。クモやら小バエやら。ハチにまで効くかどうかは分からなかった。それでも直撃する位置でプッシュした。しばらくの間荒んだ羽音が響き、数分後には止んでいた。それきり激情の音は聞こえなかった。

いいなと思ったら応援しよう!