被災地6

「御手の中で」〜とある老司祭の生涯‥14

〈2011年3月の終わり、西日本のとある市で一人“孤独死”を遂げていた実在した老司祭が書き残していた回顧録を基に、イメージを膨らませたフィクションの14回目。一人玄関で死んでいたはずの彼はなぜか東日本大震災の直後と思われる東北の被災地で、傷付いた一人の女性と青年に出会う。14回目は、その被災地で出会った女性の、いなくなった娘をなんとか3人で探し出そうと、娘が通っていた中学校を捜索する場面から始まります〉

「さあ、どこから探そうか」

「確か、この玄関を入って、階段を上がってすぐの右手が保健室で、梨子は最近、そこで過ごすことが多いように聞いてました。それと、すぐ左側の職員室の横の空き部屋。そこは幾つものパーテーションで区切られていて、教室に入れない子達が、お互いに顔も見ないで一人だけのスペースで時間をつぶせるよう、工夫されてて、梨子もそこに一日いることもあったみたい」

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