【感想】諸星モヨヨ『薔薇のカルペディエム』第三話―第四話
現在「カクヨム」で連載されている、諸星モヨヨ氏による『薔薇のカルペディエム』の第三話から第四話までが更新された。私は以前から読んでいるのでここからの感想になるが、その前に、この小説の梗概を述べておく必要はあるだろう。
とはいえ短く設定をまとめることは難しい。ごく搔い摘んで言えば、貴族の少女たちが「アイアンメイデン」なる鋼鉄の巨人に乗り、宇宙から飛来した怪獣と戦うという物語である。詳しくはリンク先の用語集を参照して貰いたい。令嬢たちと鋼鉄の巨人、怪獣という組み合せ……、非常に斬新な設定の物語であると言えるであろう。
続いて、第三話から第四話までの、短い感想を記したいと思う。
それぞれの話の軸を見てみると、第三話は郎蘭土カノンとの対戦、第四話は新たな怪獣「メトロノーマ」との対戦である。新たに登場したこのカノンという少女はヴァイオリンの天才であり、3-3話でイオはカノンを「才能の人だ」と思う。世の中には才能のない人間とそうでない人間の二種類がいるという、半ば諦念のようなイオの考えがここで説明される。そしてジェミナスとしての才があった姉のことをふと思い返す。姉を想起するのは何気ない描写ではあるが、読み返してみると中々に重要な場面である。
その後、イオは戦闘経験のないカノンとアイアンメイデンで対決することになる。しかしここで、予想もしなかった凄まじい超音波攻撃を受け、ブラッディローズの人工筋肉が破壊され敗北する。ここで超音波に苦しむイオとアンヌの描写は実に痛々しく、読んでいるほうも耳鳴りの錯覚を覚えそうになるほどである。
3-9話でアンヌが気付くことだが、カノンとの戦いでイオは自らの才能を証明しようとしていた。それだけに敗北の衝撃は大きく、一時はジェミナス解散の危機にまで陥るのである。ここでイオは「性能の差」として、今度はブラッディローズへの責任転嫁ともとれる発言をしている。しかしその直後に現れたメイデンシュミットが、ブラッディローズを万能と褒めたたえ、「お姉様も数々の敵をこの機体で倒しました」と告げる。イオにとっても最早既知の事柄ではあるだろうが、ここでまた一つ、言い訳の逃げ道を封じられたわけである。今は亡き姉の影は前話に比べれば薄いものの、まだイオを導く見えざる影として、常に存在し続けているようだ。
この後、鬼教師である大門がイオへ、カノンによるヴァイオリンの練習風景を見せる。カノンは手から血を流しながら練習をしていた。何故才能のある人がここまで、とイオは思い、大門は「情熱」を伝えろとイオに迫りながら特訓を開始する。
その後、怪獣「メトロノーマ」と対決するわけであるが、この怪獣は三角錐を逆様にしたような、つまりその名の通りメトロノームのような姿をしていて、超音波で攻撃してくるというのが面白い。音楽を絡めた今回の話に相応しい、極めて特殊な怪獣である。
超音波攻撃により窮地に追い詰められたイオに対しての、アンヌの叫びが非常に大切な役割を果し、且つ印象に残るものだ。イオは「自分には才能もなければ、怪獣を倒す情熱《ボルテージ》も無い。」と半ば諦めかけており、まだこの段階では心情に変化は来していない様子である。つまりここでの、「私が信じているのは、強くて才能にあふれたイオじゃあない。私が信じているのは、どんな時にでも再び立ち上がれるイオなのよッ!」という言葉が決定的であったと言えるであろう。
今回、イオを変化させ再起させるために、大門、メイデンシュミット、カノン、亡き姉などの多くの人物が役割を果しているが、このアンヌの一言がなければ、或いはイオは何も変らなかったかもしれない。しかし同時に大門の言った「情熱」の意味を示してくれるものでもあり、アンヌのこの発言も大門による忠告――平手打ちは余りに乱暴過ぎはしないかと思うのだが――がなければ為され得なかった可能性もある。大門の役割も同時にアンヌと同等に重要であったと言える。
最後に怪獣を倒す手段が、ブラッディメアリーを利用して即席で作ったエレキギターであるというのは、イオらしくて面白かった。お嬢様学校であるアポロン女学院では、誰もエレキギターを知らないらしい。演奏できる楽器があるのなら、イオも充分に才のある人物ではないかとは思うのだが、歌のほうはジャイアン並の音痴であるらしい。しかしこれも怪獣を倒すのに有効に作用しており、ユーモアを感じさせると共に設定が無駄なく利用されていて見事である。
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