小学館「P+D BOOKS」に於ける大量の校正ミス

 小学館の「P+D BOOKS」は、絶版となっていた昭和の文学作品を電子版とペーパーバックで復刊するという試みのシリーズである。この叢書のことを知って私もこの仕事に大いに意義を感じたから、先日、福永武彦の『廃市』と『夢見る少年の昼と夜』を購入して読んだ。しかし読み始めてすぐに、校正がきちんとなされていないのではないかと思うに至った。
 というのもこれら二冊は、旧字旧仮名で刊行されていた単行本を底本として新字新仮名に直されたものであったのだが(末尾にその旨について記されている)、旧仮名が修正されずに残っている箇所が大量に見つかったからである。読んでいる最中、そうした箇所にぶつかる度に私はがっかりせざるを得ず、充分に没入できなかった。余りにも多いので、明らかなミス、またはミスと思われる部分を逐一メモし、まとめたのが以下の一覧である。
 御覧の通り、明らかなものだけでも、尋常ではない量の校正ミスが認められる。到底まともに校正がなされているとは言えない状況である。しかも実は、修正すべきであるのは以下に示した部分だけではない。漢字に関しては、何故か本文は旧字体や拡張新字体が混在して使用されており、最早列挙に暇がないほどの量であるのである(例・『廃市』27頁13行 衞生設備→衛生設備)。まるで確たる基準もなく、気まぐれに漢字の字体をいじくり廻し、そのまま放置したといったような様相を呈している。
 「P+D BOOKS」の企画自体は素晴らしいものと思っていただけに、このことに関しては落胆の念を禁じ得ない。一読してわかるものだけでもこれほどの量があるのだから、念入りに底本と照合しなければわからないミスはどれほどあるか知れない。もう「P+D BOOKS」を購入することはないだろう。今は小学館本社へ連絡・抗議することを検討しているが、ひとまず注意喚起のために本記事をここに公開する。

 『廃市』は二〇二〇年四月十三日発行の第四刷、『夢見る少年の昼と夜』は初版第一刷である。

『廃市』
92頁10・11行 何トイフ生キ物ダ、人間トイフ奴ハ→何トイウ生キ物ダ、人間トイウ奴ハ
94頁2行 捕ヘラレタ→捕エラレタ
105頁13行 何トイフ→何トイウ
151頁10行 逆らはなかった→逆らわなかった
179頁7行 そはそは→そわそわ
199頁2行 ありあはせ→ありあわせ

『夢見る少年の昼と夜』
15頁5・6行 似合ハナイ→似合ワナイ
17頁15行 称えテ→称エテ
45頁17行 言フ→言ウ
55頁16行 シマフ→シマウ
70頁10行 書の間→昼の間
70頁14行 言っちぁ→(「言っちゃあ」、又は「言っちゃ」か? 要原文確認)
111頁5・6行 ふさはしい→ふさわしい
200頁13行 窺ひみて→窺いみて
208頁56行 もらはなくては→もらわなくては
216頁12行 なにゆゑ→なにゆえ(「何故」のルビ)
251頁2行 「感情なのだ」に傍点が振られているが「情」のみ抜けている。要原文確認。
286頁17行 思はなかった→思わなかった
296頁10行 かなはない→かなわない
333頁8行 扱はれ→扱われ
338頁11行 とつさに→とっさに
405頁12行 憤概→憤慨
422頁4行 シヤルル→シャルル
477頁4行・7行 伝はる→伝わる せはしない→せわしない

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