日本の最初期ハードコア・ドラムンベース/クロスブリード
Nagazaki、Iridium、Double Kといった次世代ハードコア・プロデューサーの作品を発表しているフランスのPrototypes Recordsから日本のクロスブリード・プロデューサーQuarkのシングル『Duality』がリリースされた。
『Duality』はメインストリーム・ハードコアを自身のクロスブリード・スタイルに巧みに取り込んだアグレッシブかつメロディアスなトラックとなっていて、Quarkの優れた技術と分析力によってクロスブリードの領域を広げた素晴らしいシングルであった。『Duality』には、Prototypes Recordsからシングルをリリースしている日本のHollyとの合作「Amalgam」も収録されており、両者のコアな部分が重なった良質なコラボレーションを披露している。
今年2月には日本のハードコア・ドラムンベース/クロスブロード・レーベルAggression Audioの新作コンピレーション『Forbidden Materials』がリリースされたのも記憶に新しく、リリース時の反応をみるに国内でのハードコア・ドラムンベース/クロスブリードの根強い人気が感じられた。
去年7月に開催したMURDER CHANNEL VOL.28にAggression AudioからPemcy、Takeru、Colonに出演していただいたのだが、ハードコア・ドラムンベース/クロスブリードのクラシックから最新のトラックまで網羅したセットを披露してくれて流石であった。ハードコア・ドラムンベース/クロスブリードがダンスミュージックであり、クラブでプレイされることによって本質を発揮するジャンルであるのを改めて気づけた貴重な体験をさせてくれた。
今年1月にD&B SHOW-Localize!!-に出演させていただいたときにクロスブリードについてはトークさせていただいたのだが、日本のハードコア・ドラムンベース/クロスブリードについては触れられていなかったので、今回は自分の知る限りで日本のハードコア・ドラムンベース/クロスブリードの歴史を辿ってみよう。
まず、クロスブリードの始祖であるハードコア・ドラムンベースとカテゴライズできるものを日本でクリエイトしていたのはAnodeとEKOTEEのユニットGravity Zeroが最初に思い浮かぶ。
Gravity Zeroのスタイルはテクノイドを主体としていたが、RaidenやThe Panacea、Propagandaと同じ方向性を追求している部分があり、それによってハードコア・ドラムンベースとカテゴライズできるトラックをリリースしていた。Gravity Zeroのアグレッシブなサウンドの核には、Anodeがデスメタル~ブラックメタルを音楽的ルーツに持っているのが多少なりとも反映されているように思える。
Gravity ZeroはイギリスのVenom Incからシングル『Life / Minds Eye』、ドイツのTilt-RecordingsのサブレーベルT-FREEからシングル『Where Is Here』を発表。クオリティは申し分なく完璧であるが、独特のグルーブ感とアイディアを活かしたオリジナリティのあるトラックを生み出しており、彼等のトラックは時代性に囚われず今も新鮮なままである。
活動歴は短かったが、Gravity Zeroはテクノイド史だけではなく日本の最初期ハードコア・ドラムンベースにとっても欠かせない重要な存在だ。
Gravity Zeroと同時期に東京からはハード/ダーク・ドラムンベースに特化したイベントSproutのメンバーであったMedicoがオーストラリアのHell's Bassment Recordsから12"レコード『Substance Dependence / Bi-Polar Disorder』を発表。テクノイドにスカルステップやハード・ドラムンベースの要素を交えたインテリジェンスさとブルータリティが同居した非常に個性的なトラックであった。
2008年12月に中野heavysick ZEROで開催したMURDER CHANNELにSproutのYOSHさんがMedico君を連れてきてくれて紹介してくれたのが最初の出会いであった。
以前、自分のブログでハードコア・ドラムンベースに関する記事を書いたのをYOSHさんが見つけてくれて交流が始まり、チャートを提供して貰ったり、Medico君にはMURDER CHANNELで何回かプレイしていただいた。Sproutを通じてハード・ドラムンベース~ダークステップとの関係を深めていけたのは有難いことであった。
Medico君の12"レコードも日本の最初期ハードコア・ドラムンベースにおいて重要作であり、現在の日本のハードコア・ドラムンベース/クロスブリードの基盤を作っていると思う。
2010年にThe Outside Agencyがスタートさせた『Crossbreed Definition Series』によってクロスブリードはドラムンベース/ハードコア・シーンを巻き込んで急成長し、2013年頃にはムーブメント化していた。
日本ではドラムンベース・シーンよりもハードコア・シーンでのほうがクロスブリードは受け入れられていたように思う。REDALiCE Vs DJ Technorch「Return To Mars」(2012)、かめりあ「reach the deepest one」「Mithril」(2013)、DJ Myosuke「Danzetsu」「Secondary Effects」(2013)、
RoughSketch「Jingi」(2012)「Memory」(2014)など、国内ではJ-Core的文脈からもクロスブリードは広がっていった。
J-Core的文脈以外では、ブレイクコアをクリエイトしていたUNURAMENURAはハード・ドラムンベースに影響を受けた『RAZOR FIST EP』にてブレイクコアとドラムンベースにハードコアのエッセンスもミックスさせた独自のハイブリッド・ドラムンベース・スタイルを開発。以降、ドラムンベースのプロダクションを研究し、精度を上げたハードコア・ドラムンベース・トラックを作っていた。
Sproutの3x6は自主レーベルSubroc RecordingsからダークステップをメインとしたEPをリリースし、2013年には『Collaborations I』にてハードコア/ブレイクコア・プロデューサーを招いてクロスブリード的なアプローチの作品を発表。Iconoclast Recordingsからリリースした『Enfants Terribles』も重要な内容であり、Sproutのオーガナイズだけではなくアーティスト/DJとしても3x6はハードコア・ドラムンベース/クロスブリードを日本に広め続けていた。
2015年以降になっていくと新たな世代の登場によって国内でもハードコア・ドラムンベース/クロスブリードは新たな方向へと歩み始めていくことになり、今に続く流れが出来上がっていったと思われる。
日本でのハードコア・ドラムンベース/クロスブリードの歴史も長くなってきており、今後さらに進化して拡大していく希望のあるジャンルである。これからの展開が非常に楽しみだ。