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DJ Mad Dog『Downtempo』特集企画第二弾 / Conversation with DJ Mad Dog
イタリアのハードコア・テクノ・プロデューサーDJ Mad Dogが提示する新たなハードコア・スタイル/ムーブメント「Downtempo」にフォーカスした特集記事の第二弾。
今回は「Downtempo」が生まれた背景とMad Dogのビジョンを別角度から掘り下げるべく、Mad Dodと同じくハードコア・シーンで活躍するプロデューサー達の視点からMad Dogに質問をして貰い、それに本人が答えるという対談形式なインタビュー記事を公開。こちらの記事も2023年3月に作られたもので、この度やっと公開することが出来ました。
質問を寄せてくれたのは『Downtempo The Album』にも参加しているポスト・レイヴの代表格でありNever SleepのオーナーであるGabber Eleganza、Perc Traxからのリリースなどでインダストリアル・ハードコアとテクノのクロスオーバーを推し進めるSomniac One、テラーコア~ハード・テクノ~インダストリアル・ハードコアを縦横無尽に繋ぎ合わせるKilbourne、日本のハードコア・シーンのトップ・アーティストとして海外からも高い評価を受けているRoughSketch、現代的な感覚を持ってしてハードコア・ガバを再構築しリバイバルへと結びつけたイタリアのコレクティブCasual Gabberzの5組。
それぞれがMad Dogに対するリスペクトを込めてユニークな視点から興味深い質問をしてくれており、通常のインタビューでは掘り下げられない部分が形となった非常に読み応えのある記事となりました。
第一弾特集記事と合わせて今回の記事もチェックしていただき、これからも進化して発展するであろう「Downtempo」のムーブメントを是非体験してみて欲しいです。
Conversation with DJ Mad Dog
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Gabber Eleganza
https://www.gabbereleganza.com/
Q. あなたはローマ出身で、ローマはイタリアのレイブ文化発祥の地として知られています。あなたのキャリアのスタートの地であるローマは、レイバーやDJとして、そしてあなたの創造性にとってどんな影響がありましたか?
ローマに生を受けた事はオレにとって幸運なことだった。彫刻、建築、グルメ、映画などあらゆる芸術に囲まれて育ったから、生まれてから毎日、そういった美に囲まれて、いつの間にか自分の芸術的な感性が育まれたんだ。この街の芸術的な美しさはいつも、驚き、壮大さ、未知の感覚を伝えてきた。オレは音楽でそれを再現しようとしているんだ。リスナーがこれまで聴いた事のないものを作り、初体験の驚きをもたらす事を目標に。いつも上手くいくとは限らないけど、それがオレにとっての何よりのゴールなんだ。
街の美しさは間違いなくオレ達のレイブカルチャーに影響を与えている。真新しい地下鉄の駅での秘密の違法レイブから数千年の歴史があるコロッセオの周りのストリートパレードまで、伝説的なレイブがこの街で開催されてきたんだ。素晴らしいロケーションの数々がずっと記憶に残り続けていて、最近の2つのライブでそれを再現しようと試みたよ。(NDSM[※1]とWesterkerk[※2]での”Downtempo”のライブ)
※1 アムステルダムの旧造船所を再活用した巨大アートスペース
※2 アムステルダムの中心部にあるプロテスタント教会
レイブ文化のパイオニアでありAphex TwinのレーベルからレコードをリリースしていたLory DやLeo Annibaldi、あとレイブミュージックを毎日24時間放送するFMラジオもあった。Freddy Kの”Il Virus”とかね。オレがプロデューサー兼DJとして今こうしていられるのは、彼らのお手本のおかげだよ。彼らのギグでDJのやり方を教わり、ラジオ番組は絶妙な選曲だった。当時13才だったオレは、プロデューサー兼DJになるために、毎日、毎週末、彼らが提供してくれたツールから学んでいたんだ。そのツールは今でも使っている。
Q. イタリア人はオランダのシーンに革新性、独創性、そしてクオリティーをもたらしました。あなたはそう思いますか?どうでしょうか?
もちろん、少し名前を挙げるなら、Doris NortonとZenithは外せない。イタリアのシステムはクラブ/レイブシーンの経済的なポテンシャルを全く理解していなかったと思うよ。オレ達は国、警察、教会から絶えず禁止されてきたけど、片やオランダのシーンは億万長者のビジネスになり、多くの若い才能にチャンスと希望を与えたんだ。オランダ人は賢く、レイブシーンに対してよりオープンで、若者のニーズを理解し、あらゆる形で自分を表現する機会を生み出してきた。
オレ達は同じ機会がなかったから、独自の道を切り開き、独自のオリジナリティーとクオリティーを築かなければならなかった。彼らの国とシーンで頭角を現すためには、独創的で革新的にならざるを得なかったんだ。
Q. ハードコアは私たちの心の奥底にある感情だと誰もが言いますが、今このように構造化されたエンターテイメントシステムではメッセージを伝えることが難しくなっています。最大の推進者の1人であるあなたは、シーンを改善するために何を変えたいですか?
ハードコアはレイブシーンで最も古いジャンルの1つで、今年(2023年)で30周年を迎えた。この年月にこれまでオレ達が開催してきた全てのパーティーやリリースしてきた全ての音楽を考えれば、マンネリな時期を過ごすのも普通のことだけど、オレはこれを新たな事を試すいい機会だと考えているよ。
個人的な意見だけど、オレ達は様々なジャンルのアーティスト達に門戸を開き、交流し、様々なBPMや音楽のテイストを受け入れるべきだと思う。しかしその前に、旧来のやり方のいくつかを捨て、音楽、コンテンツ、ショーにおけるコミュニケーション、自己表現の方法を刷新する必要がある。
世界は我々のハードコアシーンよりはるかに広いし、より多くのオーディエンスを取り込むためには、もっとおおらかになるべきだよね。
Q. あなたの音楽的影響は?どんな音楽を聴いて育ち、最近はどんな音楽を聴いていますか?オススメのレコードを教えてください。
オレは主にMarc Acardipaneのディスコグラフィーを聴いて育ったけど、当時はエレクトロニックミュージックのシーン全体がブームを迎えていた。Daft Punkのアルバム’’Homework’’もプロデューサーとしての自分のキャリアを形成する上で重要な一枚だった。
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Somniac One
https://soundcloud.com/somniac_one
Q. いわゆる「主流」のハードコア・シーンに属する様々なアーティスト達から、シーンとファン/観客から、それっぽい音楽を作り、それっぽいパフォーマンスをして、(より)頻繁なリリースを期待されるといったプレッシャーを頻繁に受けると聞きました。あなたもこうしたプレッシャーを感じますか?もしそうならあなたの音楽活動の歳月でどう変化していきましたか?そういったプレッシャーにどう対処していますか?
チャオ、クリスティーナ!
オレはシーンからそういった類いのプレッシャーを一切受けたことはないよ。自分のキャリアを通じて、より注目され、より多くのギグにブッキングされるために、より多くのトラックをリリースし、ソーシャルメディアてもっと存在感を示す様にと、エージェンシーからアドバイスを受けてきたけど。でも、2000年から2005年まで、個人的なプレッシャーを感じていたよ。その頃、オレは必死にシーンでの存在感をキープしたくて、他のアーティストのヒット曲をコピーし始めたんだ。オレはウェブフォーラム(ソーシャルメディアが出る前)の否定的なコメントを素直に受け入れたよ。オレは友情と美しいラブストーリーを台無しにしたんだ、毎日スタジオに閉じこもってたから、人生を何も楽しめていなかった(オレは25歳だった)。
そして、2005年に、オレはDJ/プロデューサーとしてのキャリアを中断し、サウンドエンジニアリングの学校に1年間通うことを決意したんだ。その1年間で、オレは学位を取得し、暇な時に自分自身を喜ばせ、楽しむためのハードコアトラックを数多く制作した。
それらのトラックのいくつかはその後オレの最大のヒット曲となり、プレッシャーを感じないようにする唯一の方法は、プロモーターやライブ、またはアンチのためではなく、自分のために音楽を作ることだと気づいたんだ。
これはオレが長年続けてきたアプローチで、これまでのところうまくいっているよ。
Q. もしあなたが今突然、何の責任も義務もなく、物質的に完全に恵まれた生活を与えられたとしたら、どのように時間を過ごすと思いますか?来年は何をしますか?そして、今後5年間であなたはどうなっていると思いますか? 今後30年間ではどうでしょうか(もちろん何もする義務がないと仮定した場合)?
正直に言うと、オレはこれまでずっと責任も義務もない人生を送ってきたんだ。16才で初めてギャラの出るギグを得て、13才の頃からの夢を実現した。やりたい音楽をプレイし、今もやりたい音楽をリリースしている。もちろん24時間365日働いて苦労したことはあるけど、それを責任とは考えていない。今とまったく同じ人生を、今後5年、15年と送るつもりだよ。70歳になったら演奏はできないかもしれないけど、大好きな音楽をリリースし続けることは間違いないね。100億ドルあったら何をするか自問自答すると、スタジオで一番好きなことをしている自分の姿が目に浮かぶよ(笑)。
Q. 完璧で、世界最高のハードコアパーティーを想像してみてください。すべてのパーティーを終わらせるパーティー、究極のハードコア体験。そこではどんな (またはどの) アーティストがプレイするでしょうか? 大規模でしょうか、それとも小規模でしょうか?どれくらい大きい (または小さい) でしょうか?イベントにはどのようなエリアが含まれますか?それとも1つだけでしょうか?あなたがプレイしたり参加したりしたイベントで、あなたが理想とする完璧なハードコアパーティーに近いものはありましたか?
ローマの血がまた疼いてきたよ。知ってのとおり、ローマにはバチカンという小さな独立国家がある。バチカンは世界に大きな影響を与えてきたんだ。イタリア、特にローマに与えた影響を想像してみてほしい。イタリアではレイブを含め、バチカンのせいで多くのことが禁止されているとオレは今でも思ってる。だから、オレの理想のハードコアパーティーはサンピエトロ大聖堂の一角で開催するよ。もちろん、DJ ブースはベルニーニ大天蓋の下に設置する必要があるね。The Mover、Aphex Twin、Lory D、Freddy K、Speedy J、Kotzak Klan、Dr.Macabre、Zenith、Marushaのライブを聴きたいな。
オレが初めて行った違法レイブは、1990年のFIFAワールドカップのために市役所が建設した、使われなくなった地下鉄の駅の下で行われた。スタジアムの隣にあるその美しい地下鉄駅は、何百万ドルもかけて建てられたけど、購入した新しい列車には線路(の幅)が小さすぎたため、一度も使われなかった。そこで伝説的なレイブが一度だけ開催され、列車のギャラリーの下の線路で踊ったんだ...本当に本物のレイブの雰囲気だったよ。
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Kilbourne
https://soundcloud.com/kilbourne
Q. 最近の作品の多くは初期ハードコアのサウンドとストラクチャーを取り入れていますが、単なる焼き直しという感じではなく、何か新しくてエキサイティングなものがあります。どうやってそれを実現したのですか?
ありがとう!気に入ってもらえて嬉しいよ。
オレがやっているのは、喜び、熱意、エネルギーを感じるまで、サウンド、キック、メロディー、ストラクチャーの実験をしてそういった感情を呼び起こすことだ。その後、その感覚をトラック全体に渡って維持するよう努める。何ヶ月も作業した後でも同じ熱意を感じられたら、それはそのトラックが良いということを意味する...少なくともオレにとっては。
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RoughSketch
https://soundcloud.com/roughsketch87
Q. キック以外で最も重要なパートは何だと考えていますか?
グルーヴだね、それは推進力を与え、エネルギーを伝えるから。
Q. Traxtormを離れDogfightを立ち上げた時、自分の音楽スタイルや心境にどのような変化がありましたか?
それはたぶんオレのキャリアの中で最も大変な時期だった。新しいレーベルを押し進め、アーティスト達をフォローし、アルバムを作り、Dominatorの アンセムを制作し、ミキシングとマスタリングを完全に自力で手掛けなければならなかった。その年月の間にオレは多くのことを学んだよ。それは、困難な時期はストレスがたまることもあるけど、新たなことを学び、人として成長するチャンスでもあることを証明している。
Q. Downtempoに共感し、制作したいと思ったトラックメイカーに向けてアドバイスはありますか?DowntempoのトラックメイカーやDJが増える事を望みますか?
オレからのアドバイスは、強固なアイデアやコンセプトを念頭に置いて音楽を作ること。説得力のあるストーリーがあれば、技術的な側面は二の次になる。まちがいなくもっと遅いBPMのハードコアのいくつかが歓迎されるだろうね。
Q. TR-909のクローンや909以外のドラムマシンを使う事はありますか?もし使っているなら何を使っていますか?
様々なクローンを試したけど、このキック感を求めるならTR-909+Mackie 8Busの組み合わせに勝るものはないね。
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Casual Gabberz
https://soundcloud.com/casualgabberz
Q.今日、テクノ・シーン全体がどんどんハードになっていますが、これはハードコア・シーンにとって何を意味すると思いますか?テクノ好きの人たちが2年間歪んだキックに夢中になって、トレンドが別の何かに取って変わるのでしょうか?もしくは、これは真に受け入れられたということなのでしょうか?
やあみんな、質問ありがとう。
トレンドは予測不可能だよね。ハード・テクノ・シーンはとても素早く推移していて、新たな名称やサブジャンルはTikTokのトレンド動画と同じくらいの速さで変化している。個人的な意見では、これら2つは非常に関連している。近年、テンポの範囲はより速く推移していて、以前は標準範囲が128/130BPMだったのが、現在は160BPMまで上がり、キックもより激しくなっている。
新しいハードコアの作り方がいずれ登場するだろうけど、それはハードコアとは呼ばれないかもしれない。おそらく、ハードコア・テクノと名付けられるんじゃないかな。
Q. ハードコアの生態系がオランダ中心で、複数のフェスティバルやブッキングエージェンシーなどを所有する大手フランチャイズによって支配されていることについてどう思いますか?
それはオランダの歴史の結果だね。彼らは常に新しいトレンドにオープンであり、さらに音楽、チケット、商品などのマーケティング方法を知っている。彼らは何年も前からこれが巨大なビジネスになることを理解していて、政府がマーケットの改善を支援した。このため、彼らの会社が最大手であり、必然的に完全なコントロールを掌握している。オランダのような国がもっと増えて、異なる現実を生み出し、アーティストやプロデューサーの需要が高まってほしいと思うよ。オレはこの面で明るい未来を感じている。週末にプレイすると、オランダ国外でより大きなイベントやクラブを目にすることが増えているからね。
Q. あなたのキックのレシピを教えてください。
新たなキックごとに異なるアプローチを採用しているから、レシピはないんだ。現在は、2000年代初頭に使用していたアナログ方式に回帰しているよ。キックは曲を作るのと同じで、独自のストーリーを含んでいる必要がある。
Q.音楽的に、文化的に、オリジナルのガバムーブメントを定義するものは何でしょうか?あなたの見解をお聞かせください。
あなたの問いには、96年から00年にかけて自分が経験したガバに基づいたことしか答えられない。オレは個人的に、歪んだキックドラムに心を動かされてきた。
909のキック + ディストーション = ハードコアガバ
その特有の歪んだサウンドは、ガバ文化、DJ、プロデューサー、レイブ、レイバー、それに多くの夢を生み出した。
翻訳:L?K?O