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Outer Wildsのはなし⑧「グラビティとベロシティ」

注意:”Outer Wilds”未プレイの方へ

この記事には超名作ゲーム”Outer Wilds”のネタバレが含まれています。
DLCのネタバレは無いつもりです。
(そもそも未プレイの人がこの記事にたどり着く可能性は低いと思うけど)未プレイの方は読まないでください。

前回⑦の続きです。

今回はちょっと閑話休題。脆い空洞に通う中でこのゲームに慣れてきて感じたアクション面などについて。

ついげきの無重力でさらにハーシアンは加速した

いろいろな重力下でのアクションもOuter Wildsの特徴の一つだと思うけど、探査艇と宇宙服の両方のアクションに共通して、他のゲームではなかなか感じることは少ない「無重力」×「相対速度」というのがキモになっていると思う。OuterWildsのアクションの操作性は「クセがある」と評されることが多い印象だけど、その原因はこの二つな気がする。
個人的にはこのアクションの操作性も楽しくて、あえてマニュアル操作ばかりしていて、自動操縦はほとんど使わなかった。

まず「無重力」について。マリオなど一般的なアクションゲームでは、移動ボタンを押すと操作キャラは一定速度でその方向に移動し、ボタンから手を離すと(多少の慣性はありながら)速度はゼロになりキャラは停止する。またジャンプをすれば一定の高さに達すると、地面に落下していく。
これはそのゲームの世界に、重力の大きさのパラメータや、地面との摩擦のパラメータが設定されていて、移動量の計算に使われているから。(例外的に、全く慣性がなくてボタンを押した長さと移動量がきっちり比例するゲームもある) 「ジャンプ」の実装は、重力パラメータの微調整具合によって、到達できる高さ、ふわふわ具合、空中制御のやりやすさ、などが大きく変わり、そのゲームの特徴にもなる。アクションゲームの水中ステージや宇宙ステージなどは、「重力」パラメータを地上ステージより小さい値にすることで表現できる。

ほとんどのゲームでは「宇宙」といっても重力はある。

OuterWildsでもこれらのパラメータはもちろん実装されているけど、無重力の宇宙ではプレイヤーが移動ボタン(ブースター)から手を放しても、速度はゼロにならず同じ速度で飛び続けるし、移動ボタンを押すと押した分だけ加速していく。探査艇でもジェットパックでもこれは同じ。
これはマリオで例えると、氷のつるつる床がさらにめちゃくちゃ滑るようになってずっと止まらなくなったような状態。前方向に十字キーを入れ続けると、マリオはどこまでも加速していくような感じ。最高速度の上限がないアクションゲームはなかなか珍しい気がする。

北極星 超新星 流星群にお願いよ

そこに加えてOuterWildsでは公転移動している天体への着陸など、動いている物体へのアクションが必須のため、「相対速度」への意識が必要になる。

相対速度(そうたいそくど、英語:relative velocity)とは、ある運動物体から見た他の運動物体の速度である

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9B%B8%E5%AF%BE%E9%80%9F%E5%BA%A6
相対速度

前述のとおり、OuterWildsでは無重力空間でどこまでも高速で移動できるので、主人公(探査艇)と天体や浮遊物との相対速度はどこまでも大きくなる。しかも宇宙は背景も真っ暗なので、なかなか自分の速度を感覚的に把握しづらい。(荒野で車の運転をすると周りの景色が動かないので、いつのまにかめちゃくちゃスピード出してしまうのと同じ)
そのため普通のゲームなら速度を表示するような場所に、相対速度が表示される。

ターゲットを指定するとHUD(ヘッドアップディスプレイ)に
「ターゲットとの距離」「ターゲットとの相対速度」が表示される

相対速度が大きいと、当然アクションの難易度も上がる。これはマリオが高速で転がっている亀の甲羅をドンピシャで踏むことの難しさを考えるとよくわかる。

これを簡単にする手段の一つが、マリオと甲羅の相対速度をゼロに近づける、という方法。転がってくる甲羅を真上ジャンプで踏むより、同じ方向に走りながらジャンプして甲羅を踏むほうが簡単というのは、なんとなく伝わる…かな?

ちょっと話がそれますが、たとえば複々線が走っている電車に乗っているときに、同じ方向に走る電車が並走するタイミングがあると、電車は走行しているのに向こうの車窓の中がはっきり見える不思議な眺めが子供のころから好きでした。「高速に移動しているものがゆっくり動いているように見える」とうところに妙な魅力がある。

物理で「速さ」と「速度」の違いを学んだり、数学でベクトルを勉強したりして、この不思議さを頭で理解して言葉で説明することができるようになっても、眼で見て感じる不思議さ、面白さはまだまだある。
(いよいよ全然関係ないけど「早すぎて逆にゆっくりに見える」ストロボ効果も好き。車のホイールとか、ヘリコプターのプロペラとか、レイザーラモンHGの腰振りとか)

相対速度がゲームの演出に使われることはよくある。たとえばスクロールシューティングゲームでは……と書き始めて長くなってしまったのでまた別の機会にします。

速度同調はすごいよ

で、さっき相対速度をゼロに近づけると書いたけど、移動がXY軸(左右と上下)だけのマリオと違ってOuterWildsはXYZ軸の向きがあるので、それが無茶苦茶ムズかしくなる。
そこで活躍するのがみんな大好き「速度同調」で、これはまさに対象物との相対速度をゼロにする機能。マリオが使えれば自動的に甲羅と同じ速度で走れることになります。

プレイ済みのみなさんがご存じのとおり、OuterWildsでのアクションの難易度はこの速度同調をどれだけ早く使いこなせるかが大事だと思う。とても便利なこの機能、nomaiではなくHearthianのテクノロジーなのかなと思うが、いったいどういう仕組みなのかも気になる。速度同調を実現するためには、
1. 対象物と自分の相対速度を計測する
2. 相対速度をゼロにするように、自分の速度を変化させる

の2ステップが必要だと思われる。

1.について、地球人の技術で一般的なのは、電波を動いている対象物に発射し、対象物に当たって跳ね返ってきた電波をキャッチする方法。反射してきた電波はぶつかった相手の速度に応じて周波数が変わっているので、その周波数の変化量から速度を計測する、というもの。
ピッチャーの球速を測るスピードガンや、警察が速度違反の取り締まりにつかうオービスなどに使われている。
別の速度を測るやり方として、同じ速さで並走するという方法もある。白バイに速度違反切符を切られたことがある人は分かると思うけど、白バイは速度違反してそうな車を見つけると(こっそり)その車と並走し、相対速度がゼロになったタイミングで、自分の速度(=相手の速度)を記録する。
言ってみればOuterWildsの「速度同調」と逆のアプローチですね。

Hearthianの「速度同調」技術のすごいところは、HUD上で対象となる天体や物体をターゲット指定すると、すぐに自分と対象の相対速度の計算が完了し、さらにそれを6方向のジェットの出力にフィードバックされる、というところ。それが1つのボタンを押しっぱなしにするだけという手軽さ。ひよっこ宇宙飛行士にも優しい優れたユーザビリティですね。(Fledsparは「こんな機能は邪魔だ」とか言いそう)
HUDでターゲット指定できるものとできないものがあるのはちょっと謎だけど…主人公のきまぐれかな。
この技術をリトルスカウトに応用してくれたら「自動追尾機能」として、公転する量子の月を追いかけて観測し続けたり、TPSみたいに常に主人公のちょっと後ろから俯瞰したり…もっと便利な使い方ができそう。

ちなみに天体と速度同調をする場合、速度同調が完了してもすぐにまた相対速度は0m/sから少しずつずれてしまう。これはその天体の重力に引っ張られていることもあるけど、天体が等速直線運動をしているのではなく、公転による円運動をしているので、天体の速度(ベクトルの向き)が常に変わっているためですね。

…そういえば主人公は手動操作のとき、実際にはどうやって操作しているんだろう?コックピックの右の方から生えている操縦桿かな?他のパイロットの探査艇のコックピックも見てみたいですねぇ。

分かりにくいけど右側にある90度に折れている白いのが操縦桿っぽい。
先端の黒い部分がジョイスティックになっていて左右と奥手前方向の移動に、
操縦桿自体が根元から上下に動いて高さ方向の移動に使える、みたいなかんじ?

このゲームに完全な静止はあるのか

ここからはさらに余談。
OuterWildsの舞台で「宇宙空間で静止」するためには太陽を選択して速度同調をするのが手っ取り早い。マニュアル操作でいつの間にかめちゃくちゃな速度でどっちに向かって飛んでいるのか分からない時は、とりあえず太陽をターゲット選択して速度同調をすると、いったん落ち着くことができる。
ところが太陽の近くで速度同調をしても、すぐに太陽との相対速度は0m/sから少しずつ早くなっていってしまう。
これは太陽の強力な引力に引き寄せられているから。
調べてみると、太陽から30km離れてやっと太陽の引力の呪縛から解き放たれることができた。

太陽の影響力は30km

と言いつつ、これでも厳密には完全な静止ではない。なぜなら我々の太陽系と同じく、このOuterWildsの舞台の星系全体も、すごい速度で動いている(と思われる)ためです。
以下の記事によれば我々地球のある太陽系は、天の川銀河の中心のまわりを秒速227 kmで動いているとされるとのこと。

さらにさらに、その天の川銀河自体も、宇宙の中を動いているわけで…。
「あらゆるものは 相対的に比べることができるだけで 絶対的なものなんか ないんだなぁ まちを」という気持ちになる。

そんなこんなで今回は全くの余談でしたが振り返るとダラダラ長い記事でした。次回は次の惑星の探索です。うーん、あと3回くらいで本編の話はおわるかな。

ゾンビのみなさまのお腹の足しにしていただければ幸いです。


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