馬本来の姿とは… カラ馬の走る姿は美しい【ショーモン考】
今、追いかけている馬がいる。
その名をショーモンという。
4歳のセン馬。2勝クラスの条件馬なので、メインレースにばかり気を取られていると、ショーモンは知らない間にレースに出走してしまっている。そんなことが無いように、逐一次走情報をチェックしているのが現状である。
なぜこのショーモンという馬を注視しているかと言うと、この春放馬したときの彼の走りっぷりに惚れ込んでしまったからである。
5月4日京都競馬場第9R鴨川特別。7頭立てと少頭数となったレース。各馬がゲートに収まりもう少しで発走という直前、ショーモンはゲートをこじ開けて飛び出し、鞍上のミルコ・デムーロを振り落としてそのまま走り始めてしまった。
誰も乗せず、ただひたすら疾駆するショーモンの姿が、実に美しい。
本来馬は誰を乗せて走るものでもない。そんな当たり前のことを、ショーモンの走りは気付かせてくれた。
どうも競馬ファンをはじめとしてわたし達は、背中に人間を乗せて走る馬の姿を当たり前に思い、それに慣れ過ぎていたのかもしれない。
動画のコメント欄にはこんな言葉が並ぶ。
やはりこの映像を見て、ショーモンが生き生きと走る姿に心惹かれた者は多かったようだ。
馬だって、走れば疲れる。
あたりまえのことだが。
だからてっきり馬というのは人が促さないとこんなには走らないものだと思っていたら、なんとショーモンは自ら4周も走ってしまった。
しかもその道中、制止しようとした係員が張ったロープを悠々と飛び越えて。
京都競馬場の芝内回りコースは、一周約1,800m。
つまり単純計算すると、ショーモンは7,200mもの距離を走ったことになる。
(現在日本最長のレースは、平地はステイヤーズS[3600m・G2]、障害では中山グランドJ[4250m・G1])
「無尽蔵のスタミナ」「これは生粋のステイヤー」「どう見ても障害向きの飛越のうまさ」。そんな声が飛び交った。
そんなショーモンが、今週日曜日9月29日中京第9R常滑特別(芝・2000m)に出走する。放馬によって競争除外になり、2か月半の休養を挟んだ前走は5着に敗れてしまったが、大幅な体重減が響いていたものと思われる。今回馬体が戻っているようなら、再度期待できる。
三戦連続して芝2000mに登録されているが、さて、この馬の適性はどこにあるのか。その答えはまだ誰も知らない。
ショーモンの父はマインドユアビスケッツという。まだまだ新顔の種牡馬である。自身はアメリカのダート血統で短距離を中心に活躍したが、2022年にデビューした産駒の傾向はいまだ定まっていない。
今までに送り出した活躍馬はデルマソトガケに代表されるダート馬が主だが、今年ホウオウビスケッツが函館記念を勝利したように、芝でも走る。
よく言えば、マインドユアビスケッツは芝・ダート兼用の種牡馬と言えるだろう。しかも産駒は芝・ダートともにマイルから中距離までをこなすようだ。
ショーモンにも、豊かなスタミナが備わっていて不思議ではない。
ショーモンの馬名の由来は「笑門福来」ということらしい。
なんとも縁起の良い名前ではないか。
放馬と言えば、つい先日も新潟記念に出走するはずだったライトバック(牝・3)が馬場入場後に坂井瑠星騎手を振り落して放馬し、外ラチに激突して転倒。しかし起き上がるとなおも走ることを止めず、柵を破壊し、制止しようとする係員を振り切ってコース外からさらに地下馬道にまで行ってしまった。
馬体へのダメージが心配されたライトバックだったが、幸い骨に異常はないとのことで、現在は一旦放牧に出されているという。
競走馬は、人の手を離れ、管理の行き届かない環境で走ってはいけない。それはもちろん人馬の安全を考えてのことだ。
だから放馬のハプニングは、ほんらいワクワクして見るようなものではないのかもしれない。
だが確かに、ショーモンが自由に走る姿は、われわれに馬本来の美しさを見せてくれたのである。
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