清水成駿◎ボールドエンペラー 1998年日本ダービー 成駿はホントは何と言っていたのか
今年もダービーウィークとなった。2022年5月29日、東京競馬場では第89回の東京優駿が開催される。
ダービーといえば、今でも語り草となっているのが1998年スペシャルウィークが優勝した第65回だ。1着こそ1番人気のスペシャルウィークだったものの、2着に14番人気のボールドエンペラー、3着に15番人気のダイワスペリアーが飛び込み、馬連は13,100円の万馬券となる大波乱となった。
当初スペシャルウィーク、セイウンスカイ、キングヘイローの三強による争いと見られていたこのダービーで、一人敢然とボールドエンペラーに◎を打ったのが当時専門紙『1馬』の評論家だった清水成駿だった。
この鮮烈な予想は、当時から現在に至るまで競馬ファンのあいだで知らない者はいないほどのインパクトを残し、ボールドエンペラーの名はニコニコ大百科の項目にも刻まれている。そして、その記事には件の清水成駿の予想が、当時のコメントとされるコピペとともに載せられている。
「ダービーくらい一点でしとめたいものである。たまには女房に帯の札束を渡すのも悪くはあるまい」という最後のフレーズは、いかにも成駿節、といったところで清水成駿本人が書いたかのように信じてしまうが、このコピペは、記事中にあるとおり2ちゃんねる上で創作されたものだとされている。そして競馬関連のインターネット上ではもはや知らない者はいないほど有名なコピペとなっている。
さて、ここで浮かび上がる疑問は二つである。
①清水成駿はほんとうにボールドエンペラーに◎を打っていたのか?そしてスペシャルウィークとの一点買いで勝負したのだろうか?
②清水成駿はこの予想の際にどんな文章を載せていたのか?東スポ誌上で長らく『馬単三国志』を連載し名文家として知られた成駿だけに、そこは気になる点である。
清水成駿はガンとの闘病の末に2016年に亡くなり、翌年になって彼の競馬記者、評論家としての足跡を辿った一冊の本が出版された。それが『成駿伝 孤独の◎は永遠に―』(KKベストセラーズ)である。
この本の冒頭に、例のボールドエンペラーに◎を打った1998年のダービーの予想が掲げられているのである。当時成駿は、競馬専門紙『1馬』で「スーパーショット」というコーナーを持っていた。
ちょっと文字が細かいので、あらためてここに引用して記す。
結論としては、確かに清水成駿はボールドエンペラーに◎を打っていた。
そして冒頭の疑問に対する答えとしては、こうなる。
① 成駿の印は◎ボールドエンペラー、○スペシャルウィークである。しかし、1点買いを推奨しているのではなく▲にエモシオンを推し、それ以外にもキングヘイローやセイウンスカイにも印を回していた。
② 「女房に帯の札束を~」というフレーズは成駿のものではないようだ。しかし、「VTRを50回も回しただろうか」というのは、テープが擦り切れるまで見た、というコピペの文章を思わせる。大胆な予想ながら、「自信はない」とも言っているが、「大事に膨らませてきた清水のシャボン玉なのだ」というのも、成駿節を感じさせる。
さて、結論として成駿の1998年ダービーの予想はボールドエンペラー‐スペシャルウィークの1点買いではなかったわけだが、それで成駿の予想の価値が削がれるということは決してない。やはりダービーという一年で最も重要なレースで14番人気のボールドエンペラーに◎を打ったという事実は、薄れることはないインパクトを残す。
試しに、上記の紙面から成駿の予想に乗っかって馬券を買うことを想定してみる。
上掲の紙面の中央やや下、9R 清水成駿「私の狙い」に記載された買い目のとおり、馬連を買ってみるとする。5-16、13-16、2-16(それぞれ相手はスペシャルウィーク、エモシオン、キングヘイロー)が本線であり、12-16、10-16、11-16、3-16(相手はセイウンスカイ、センターフレッシュ、ミツルリュウホウ、タヤスアゲイン)が押さえであろう。
本線の3通りに2000円ずつ、押さえの4通りに1000円ずつ、計10,000円というのが妥当なところか。
結果とすれば、本線◎ー○で的中。
2000円が馬連13,100円の配当で、払い戻しは262,000円となる。
つまり10,000円が262,000円になるという予想を、清水成駿は間違いなく披露していたことになる。
◎ボールドエンペラーという予想は、やはり清水成駿を競馬予想のカリスマとまで言わせた、鮮烈な予想だった。
昔から、皐月賞は最も速い馬が、ダービーは最も運の良い馬が、そして菊花賞は最も強い馬が勝つ、という格言がある。皐月賞と菊花賞については、現在でもうなずけるところがあるが、ダービーについてはあまり同意できる格言とはいえない。
出走馬が30頭を数えるまでに膨れ上がっていた昔のダービーとは違い、現在ではフルゲートは18頭にまで抑えられ、広く直線の長い府中の東京コースでは、紛れの起こる余地はかなり少なくなっている。つまり、ダービーは、3歳の若駒たちが思う存分に実力を発揮できるレースになっているのである。
2022年の日本ダービー、今年は主だった有力馬には故障するものもなく、ジオグリフ、イクイノックス、ダノンベルーガ、ドウデュースら間違いなく今の3歳世代の頂点を決めるにふさわしいメンバーが揃った。
久々に戻ってきたスタンドの大観衆の前で、最高の競馬の祭典が行われることを期待したい。
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