空振り

職場研修なる、効果を誰ひとりとして期待していないイベントがあったせいで、退社が遅くなった。
いつも捕まる暇人どもが今日に限って捕まらない。なんとなく、本当になんとなくの気持ちで、地元から少し遠い駅まで電車を降りずに進んだ。いくつか潰しが効く飲食店があるからだ。

ここで恒例の、黒烏龍茶を買った。黒烏龍茶はいつも不安な背中を押してくれる。
よく行くラーメン屋は、いつも閑散としているのに、20人を超える行列ができていた。なぜか。職場研修のせいで1時間出るのが遅くなったからだ。遅いというだけで混むなら、もはや遅い時間だけオープンして席を倍にしたらどうだろうか。

「潰しが効く」とはどういうことか。他にも候補があるということに他ならない。たまに行く、少し安心するお店がある。ここもラーメン屋だが、少人数で経営するカウンターのみのアットホームな店だ。
ここで、黒烏龍茶を完全に飲み干した。持ち込みができない可能性が高いからだ。
店内を見たら空席がある。これは、と思ったが、前にタッチの差で滑り込んだのは親子4人連れだった。まじか、と思いながら少し待つと、この親子の席を確保してからの案内になるから少しだけ待ってと言われる。この店に並んでまで入る意味はない。カウンターしかない店に家族で行くな。私が国政に出るならこれをマニフェストにする。カウンターしかない店に家族で行かせない、これで出る。アットホームを履き違えるな。ここは俺の家であって、お前たち家族の家は別にある。俺は知っている。

やぶれかぶれになってしまった。最後の候補の店があるからだ。ここに行けば、まあよしとしよう。通算２回目の訪問だ。

閉店していた。

今日はもう本当に日が悪い。帰ることにした。

しかし、いくらか交通費を払ってまできて、本当に何もせず帰るのか？それはしたくない。このままでは、黒烏龍茶を無意味に飲んだだけの油男(オイルマン)になってしまう。

暇人の一人をようやく確保したので、土産を買うことにする。紅茶にした。こういうときの土産は紅茶で、フレーバーティーと決まっている。

ご自宅用ですか？

はい。

袋にお入れしますか？

いいえ。

俺は行動に痕跡を残さない。ギフトラッピングや袋にかける時間と費用は、痕跡となる。そういうことではない。あくまで、ただ通りすがりに買った。その事実が良い。

間もなく待ち合わせ場所の駅に着く。しまった、黒烏龍茶のペットボトルを捨てなくては。