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「日本昔話再生機構」ものがたり 第6話 乙女の闘い 6. 打つ手なし?

『ヘルプデスク担当・乙女の闘い/5. 告 白』からつづく

 スリナリ医師に具体策があるのか不安に思った乙女は、彼女らしく短刀直入に質問した。
「具体的に、どうなさるのですか?」
「彼女に新しい情報を提供すると言って、接触します」
「接触して、それで?」
「正体と目的を明かさせます」
「どうやって?」
「それは、その……」
スリナリ医師が言葉に詰まった。

 乙女は容赦なくたたみかけた。
「相手は人を騙すプロだと思います。そういう人間は、めったなことでは真相を白状しないのではないですか?」
「自白剤を飲ませます」
スリナリ医師が答えた。
「本当に効果のある自白剤は、まだ開発されていないと聞きました」
乙女が返すと、スリナリ医師がため息をついた。
「よく知っていますね。現時点で最強の自白剤はラムネ星統合情報部が独占している『コロリハクジョー8989』と言われていますが、それでも尋問対象者の40パーセント程度にしか効果がないらしく、情報部ではその他の尋問手法と組み合わせて使っているという噂です」
「先生は、その薬は持っていらっしゃらないのですよね」
「持っていません」

「先生がおっしゃる『その他の尋問手法』は、暴力を含むのですか?」
「そうだと思います」
 乙女たちクローン・キャストは遺伝子工学で攻撃性と暴力性を抑制されている。それを裏返して言えば、乙女たちの元になったラムネ星人には攻撃性と暴力性があるということだ。だが、この温厚で正直な医師が他人に暴力をふるっている姿が、乙女には想像できなかった。
「先生は自白剤をお持ちでない。先生はあまり攻撃的にも暴力的にも見えない。つまり、先生が彼女に白状させることはできない。違いますか?」

 スリナリ医師がムキになって言い返してきた。
「なぜ、私に拷問ができないと言い切れるのですか? あなたも言ったではないですか。騙した方が悪いのだと。私は正義の側にいる。普段やらないことも正義のためなら出来るはずです。いえ、この場合、やるしかありません
 今度は、乙女がため息をつく番だった。
ラムネ星人も地球人も正義のためと言って戦争を始め、その結果、罪のない大勢の人を殺してきたと、クローン人間養育所で教わりました。先生に、そんな人間の一人になって欲しくないし、私がその片棒をかつぐ気にもなりません」
「では、どうすればいいのですか?」
と言われると、乙女にも具体案はないのだった。

〈『ヘルプデスク担当・乙女の闘い/7. 思いがけない助っ人』につづく〉