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「日本昔話再生機構」ものがたり 第6話 乙女の闘い 9. 明かされる真相

『第3話 産業医の闘い 9. 自 白』からつづく

『センセも、わしも、ひどいオンナに会ぉうてしまいましたなぁ」
ミラ・ジョモレの自白を聞き終えた育成部長がため息をついてスリナリ医師を見た。
「まったく」
スリナリ医師がうなずく。
 前回の呼吸困難――スリナリ医師に会うための仮病だが――の経過観察という名目で診療室を訪れていた乙女は、自分も性欲抑制の遺伝子操作を受けていなかったら、こういう泥沼にハマる可能性があったのだろうかと思い、背筋が寒くなった。

「お二人とも、ご自分を責めないでください。ミラ・ジョモレの邪気に刺激され、お二人の内奥のエネルギーが暴走しただけです。お二人の人格に関わるような重大事ではありません」
リンが鈴の音のように透き通った声で言った。
――この巫女さんには気休めを言っている感じはまったくない。
乙女は思った。
――セイレーンとして人間の内奥を見続けていた経験から、この人は人間の本質をつかんでいるのだろう。
乙女はリンに感服していた。

「これで、ジョモレが地球連邦政府のスパイで、『日本昔話再生機構』理事長の失脚を狙っておるっちゅうことが、わかった」
「『機構』と『再生審査会』の癒着を暴いて理事長を失脚させると言っていました。そうなったら、プロジェクト管理部長のクビも飛ぶでしょう」
期待をこめて言うスリナリ医師に、育成部長が答える。
「そぉなってくれるとエエんやが、あのプロジェクト管理部長は実にしぶといさかい、すべての責任を理事長に押し付けて自分は生き残りよるかもしれん」
乙女はぞっとした。
「理事長が地球人になったら、今まで以上に私たちクローン・キャストは、今まで以上に道具扱いされるのではないでしょうか? その上、今のプロジェクト管理部長が居すわるというのは、最悪の事態です」

「地球人は『日本昔話再生機構』は、ラムネ星が地球に差し出した人質やと考えとるから、クローン・キャストにきついことをさせよるかもしれん」
「人質? どういうことですか?」
乙女が問うと、育成部長がスリナリ医師に目を向け、医師がうなずいた。
「乙女はん、リンはん、これから話すことは、あんたらだけの胸にとどめといて欲しい。これは、クローン・キャストにはもちろん、一般のラムネ星人にも全く知らされとらん事実なんや。いつかは公開せなあかんこやと思ぅとるが、そのとき、どないな混乱がおこるか、予想ができへんのや」

育成部長は、次の5つの事実を乙女に語った。

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「こういう経緯で生まれたんが、クローン・キャストと『日本昔話再生機構』なんや」
 乙女は、クローン人間養育所でラムネ星と地球を結ぶ時空トンネルができた原因は最優秀の科学者と巫女にも解明できない謎だと教わっていた。それが、実は、ラムネ星が起こした事故のせいだったとは……
 乙女はひとつ大きく息をついて自分を落ち着かせてから、言った。
「賠償金を払う代わりに設立した組織だから、地球人にとっては、ラムネ星が地球に差し出した人質と同じ。そういうことですか?」
「そや。ラムネ星人の命を守るための組織でもあるんやが、地球側は、ラムネ星人が消えるのは自業自得や思ぅとるからな」

この真相は、私たち『機構』の幹部職員だけが知っている最高機密なのです」
スリナリ医師が付け加えた。
「なぜですか?」
と問う乙女に、スリナリ医師が答えた。
「『ダークエナジー・ジェネレーター』にはラムネ星内で反対意見が強く、当時のラムネ星統合政府は極秘でジェネレーターを建設し稼働させたのです。だから、公式にはジェネレーター爆発事故などなかったとされているのです」
「ラムネ星人も、私がクローン人間養育所で教えられたのと同じことを信じているということですか」
「そや。わしも、プロジェクト育成部長になる前は、時空トンネルが出来た原因は謎やと信じとった。部長になって、初めて知らされたんや」
「私も、産業医として雇われたときに知らされ、この真相は絶対に漏らさないという誓約書を書かされました」

「そんな秘密を、私たちに明かしていいのですか?」
「公式には、良くない。けど、あんたらには話しときたかった」
「ラムネ星統合政府のメンツのため極秘扱いされ、そのことを地球連邦政府も黙認していますが、本来なら、クローン・キャストも一般のラムネ星人も知らされるべき事実です」
そう言って、スリナリ医師が顔を曇らせた。

「そやけど、リンはん」
育成部長がリンに目を向けた。
「ひょっとして、あんさんは、このことを知っとったんやないか? あんさのお祖母さんは、ラムネ星と地球の未来予測をした巫女さんのひとりやった」
リンがきっぱりと首を横に振った。
「今日、初めて知りました。祖母もダークエナジー・ジェネレーター爆発事件は知らされていなかったと思います。日本人の昔話記憶が消えつつある事実だけ知っていれば未来予測はできますから」
 乙女は、自分が隠ぺいと虚偽のストーリーの上に存在していることに驚き呆れるのだった。

「第6話 乙女の闘い 10. 作戦』につづく