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「日本昔話再生機構」ものがたり 第4話 スパイたち 6. けがれたビジネス

『第4話 スパイたち 5. 癒着の状況証拠』からつづく

 朝8時半、カレリアをオフィスに閉じ込めたチーフが出勤してきた。
「昨夜は済まなかった。私も、君がスリナリのところに駆けつけかねないと思った」
チーフは、自分がジョモレと寝ていたことを悪びれずに認めている。
――さすが、私以外は海千山千のベテランたちのリーダーを任されているだけのことはある。
「スリナリは、大丈夫だ。ジョモレが言ったとおり、今どきの睡眠薬を、どれだけ飲んでも死にゃしない。奴はヤケクソになっただけだ」

 それならいいがと思いながら、カレリアは徹夜で調べ上げたことをリーダーに報告した。
審査会がAチームとBチームのときは、『機構』は、試行目標回数に達しても成立目標を達成できていない昔話を追加で試行しています」
「それで、成立しているのか?」
9割、成立しています
「9割だと! 通常の成立率が6割程度なのに。そんな異常な数字に、なぜ、連邦政府は気づいかなかったのだ」
「おそらく、連邦政府は年間を通した成立率しか確認していないのです。月ごとに確認していれば、年度末が近づくと成立率が跳ね上がっていることに気づいたはずです」
「それで、『審査会』がCチームのときは、どうなんだ」
「Cチームの時は、追加試行は行われていません」
「つまり、A、Bの2チームが『機構』と癒着しているということだな」
「Cチームは昨年加わったばかりなので、まだ『機構』に取り込まれていないのだと思います」

「よくやった」
カレリアがリーダーから褒められたのは、これが初めてだった。尊敬できるというには程遠い人間から褒められて喜んでいる自分に気づき、カレリアは苦笑した。
カレリアの表情に気づかなかったのか、気づいても無視したのか、リーダーは、次のステップに話を移した。
「これで『機構』から『審査会』への金の流れをつかめれば完璧なのだが」
「金で釣られているとは限らないのではないですか? 『機構』が審査員を脅迫している可能性もあります」
「Aチーム、Bチームを併せて審査員は地球人が8人、ラムネ星人が6人いる。この14名全員の弱みを握って脅すのは難しい。金が渡っていると考えて、間違いないだろう」

「カネの流れまでつかんで証拠固めをするなんて、それは警察のやり方でしょ」
背後からジョモレの声がし、カレリアが振り返るとジョモレが壁に身をもたせかけていた。短めのスカートからすらりと伸びた脚。サタリアは、私はとてもかなわないと思っている自分に舌打ちする。

 ジョモレが壁から身体を離し、近づいてきた。
「私たちは、警察でなく諜報機関です。サタリアがそこまで調べ上げたなら、あとはAチーム、Bチームの審査員を締め上げればいい。そう思いませんか?」
ジョモレがはサタリアのデスクに腰をのせ、脚を組む。その脚にリーダーがなめるような視線を投げる。
――ここは、臭い。
癒着の摘発に関心がなければ、この部屋から出て行きたいところだ。

「それはダメだ。本部から、我々は審査会には手を付けるなと言われている。サタリアが癒着の状況証拠を掴んだ。次は、『機構』から『審査会』に違法に働きかけたことの状況証拠をつかむ。我々の仕事はそこまでで、後は本部が引き取る」
「それなら仕方ないけど」
ジョモレの声には不満があらわだった。

【本部がサタリアたちに「審査会」には手をつけるなと命じた理由はこちら】


 ジョモレが自分のデスクに戻り、スリナリ医師の監視モニターのスイッチを入れた。
「あら、スリナリ先生が意識を取り戻したわ」
ジョモレが言った。
「サタリア、あなたの心配は杞憂だったわね」
サタリアはジョモレの横からモニターをのぞいた。そこには、スリナリ医師がふらふらした足取りで冷蔵庫から水を取り出している姿が映し出されていた。

『第5話 浦島太郎の苦悩 9.  タロー、突然死?』につづく