香料入門、フレーバーとは何か
香りと聞くと、一般的には化粧品やフレグランスなどをイメージされる方が多い方思います。
しかし私たちの生活には様々な香り・匂いが存在しています。
・森の香り、山の香りなど自然から感じる香りや匂い
・食品や体から出る香りや匂い
それぞれは人間の生活に密着しており切っても切れない存在になっています。
本日はその中でも食品に使われる香料について入門編を書いていきたいと思います。
フレーバー(食品用香料)の使用目的
大きく分けて3つほど存在します。
・嗜好性を上げるための香りの補強や増強
・不快な香りを抑制(マスキング)
・新しい味の創作・創造する香り
他にもスポーツドリンクの様に飲料を白濁させたり、熱が加わることで風味が落ちるのを抑制したりなど、様々な機能を持たせることができる香料も存在します。ただし香料の定義として「香料は、食品に香気を付与または増強するために使用されるもの」であることから、あまりに広げた機能をもたせると問題も起きると思われます。
いずれにしても香料は、食文化を豊かにするための存在するものです。
フレーバー原料はどのようなものなのか
大きく分けて原料には天然香料原料と合成香料原料が存在し、これらを組み合わせることでフレーバーは作られます。
天然香料原料:植物由来原料、動物由来原料
合成香料原料:石油化学原料、天然物の化学反応させた原料
天然香料原料は、植物由来と動物由来があり、その多くは草木や果皮・果実・果汁、花、葉などの植物由来です。動物由来は牛、鶏や鰹節や甲殻類などが中心であり、植物由来に比べるとバリエーションとしては限定的です。
これらの天然香料原料は、そのままフレーバー原料に使用するわけではありません。理由は簡単でそれぞれの原料が持つ香気成分を最大限に高めて使用することが、香料としての価値が高まるからです。そのための処理として抽出・濃縮を行います。
お茶やコーヒーを淹れる行為も、ある意味抽出ではありますが、香気成分を最大限高めるという意味においては、生かし切れていない状態と言えます。
抽出方法が変わることで、同じ原料であっても多様な風味となり、蒸留、圧搾、酵素処理、溶剤抽出などが代表的です。フレーバー開発の要となるのは、フレーバー原料の多様さが非常に重要となります。また蒸留で得られた原料であっても、フラクションを複数にすることで、質の異なるフレーバー原料を作り出すことができます。
合成香料原料は、石油化学工業などから得られる化合物で様々な香りがあります。呼称としてはケミカルや単品などと呼ばれてますが、1つの化合物だけで何らかの飲食物を想起させる香りを作り出すのは困難です。なぜなら食品中に含まれる量はppm、bpmのレベルで効く化合物のため、1つの化合物だけの香りでは異質で不快と感じるものが多いからです。
まとめます。
天然香料原料は自然のものから、食経験の安心感と自然さを香味に持つ代わりに、コストと供給安定性が低いことがあります。
反対に合成香料原料は化合物であることから、低コスト・安定品質を持つ代わりに、人工的な香味がネックになりうることがあります。
余談となりますが、バニラやレモン、グレープフルーツの不作・天候不順での原料不足、原料価格の高騰が有名なお話です。バニラはアイスクリームなどが天然香料が多く使用されていたこともあり、合成香料に置き換えることで低コスト化を進めようとしたものの、香味が悪化・低下することを懸念して食品メーカー・香料メーカーは四苦八苦して調整を繰り返しておりました。テレビなどのメディアではじめのころに取り上げられましたが、その後は全く取り上げられていませんでした。数年間にわたり各社必死になっていた模様です。
フレーバー開発は何をするのか
フレーバー開発は以下の組み合わせを認識した上で検討を進めていきます。
用途 × 商品形態 × 香味 × 価格
例えば、飲料500ml × ペットボトル × サイダー × 最終製品150円
より詳細な検討するときには、顧客が欲しているサイダーは「三ツ矢サイダー」なのか「スプライト」なのか。はたまたハーフ&ハーフのような味なのか。いずれでもないサイダーなのか。
これに対してフレーバー開発は以下の組み合わせ
フレーバー原料(天然香料原料+合成香料原料)× 製剤
製剤というのは、食品メーカーへ納品する香料製品が、水溶性・油溶性香料、乳化香料、粉末香料のいずれにするのかということです。飲料では油溶性を選ぶことはありませんが、乳化香料にすることで油成分を飲料中に含めることができるという利点があります。
このような点をひとつひとつ丹念に積み上げて作りこみ、食品メーカーへの提案を行います。そして顧客からここが違う、ここを直してという要望を受けてのトライ&エラーを繰り返します。
伝統的には、天然香料は特徴の自然な風味をいかしつつ、低コストで供給安定性の高い合成香料をどれだけ組み込めるかという点がわかりやすいです。もちろん合成のみで組み立てることも可能ではありますが、人工的な香味を嫌う日本での開発ではネックとなる機会が多いです。
日本と他の地域でのフレーバーの扱い
フレーバーのレギュレーションは食品衛生法に規制されています。そのうち天然香料と合成香料にわけて定められています。
天然香料:約600品目の天然香料基原物質リスト
天然香料は食品衛生法で「動植物より得られる物又はその混合物で、食品の着香の目的で使用される添加物」と定義され、使用できる約600品目の動植物名が例示として「天然香料基原物質リスト」(平成22年消食表第337号別添2)に記載されています。
合成香料:132品目と18類
「食品衛生法施行規則別表第1」の約400の指定添加物のなかで記載されております。
天然も合成もこれらを基準に添加物としての香料の安全を保っています。使用している原料はいずれもお国から認められているものだけを使用しております。
よく耳にする天然香料・合成香料というのは、業界内の基準としては存在します。ただ食品に使用した際に原材料表示を行う場合は、ほとんどが「香料」表示であり、「天然香料」と記載するのは不可です。
天然香料をめぐり良く勘違いされる事例
1.菓子類のパッケージ表面に「りんご香料使用」「ヨーグルト香料使用」と記載される事例
→食品衛生法の対象ではなく、天然香料である必要ありません。
2.裏面の原材料表示で「バニラ香料」と記載される事例
→これは天然香料ですが、「バニラ天然香料」とは記載できません。アイス商品のバニラを除いて、使用される機会の少ない事例ではあります。
アメリカなどでは「Natural Flavor」は記載できますが、日本ではできません。そんな中アサヒ飲料の三ツ矢サイダーはホームページで以下のような巧みな表現を行っています。
果実由来の香り
三ツ矢サイダーは、レモンやライムをはじめ、果実などから集めた香りを抽出して独自の配合をした「三ツ矢サイダーフレーバー」を生み出しました。
香りのヒミツは果実や植物。近年の技術革新により、果実や植物由来の原料などからできた香料のみを使用することを実現しました。
話はそれてしまいましたが、日本以外の地域においても各国レギュレーションがあり、それぞれの地域に合致した検討が行われます。米国ではFDAで規制。そして他は、EU、中国、韓国、台湾、ベトナム、シンガポールなど、各国がそれぞれレギュレーション設定されており、それぞれに対応するのが香料会社に求められておりますが、日々各国での情報が変わっていくため、これらをコントロールするのが非常に難しい状況となってきております。
以上で香料入門は完了です。