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ひと夏の恋

私のお気に入り日本酒をご紹介。

「ひと夏の恋」

キレ良く絶妙なバランスで酸味と甘味が組み合わさり、
まさに一夏の恋よろしく甘酸っぱさを感じさせてくれる日本酒です。

そしてこのタイトルで何杯もやれます。

みんなのひと夏の恋話で大いに盛り上がりながら。

誰もがあったひと夏の恋

ここで私のひと夏の恋エピソードを

高校時代、二年生から演劇部に所属しておりました。

(いや、なんで!?って思われそうだけど)

二年生の頃は先輩達にしごかれながらなんとか二公演を果たし、三年となった私達はいよいよこの代の公演を成功させなきゃいけないこととなりました。

正式な部員数、約7人!少ない!

約って言葉が当てはまるかどうか疑問ですが。

その7人と助っ人達数名で動かしていく舞台が

クエンティンタランティーノ監督の処女作

「レザボア ドッグス」

宝石強盗集団が早すぎる警報と警察の到着に翻弄され各々がうろたえながらアジトに到着する。

「この中に誰か警察のスパイがいる!」

そんな密室劇でした。

その映画を舞台にすべく、脚本から舞台の立ち回り、

衣装から照明から何からなにまで、

部員達が時に衝突しながらも何とか一つの演劇に作り上げました。


数ヶ月に及ぶ準備と稽古を経てきた甲斐があり、きたる静岡市民文化会館公演では大盛況でのフィナーレとなりました。

努力が実った仲間達はこれまで実感できぬほどの達成感に湧いては、喜んで、泣いてる部員もいたほどでありました。

しかしまだ仕事はある。 舞台装置や衣装もろもろチャーターしたトラックで学校まで運ばなければならないのだ。

で、ここからが「ひと夏の恋」

やはり、一つの物事(演劇)を共に追求し協力し合った仲間には特別な感情を抱きやすいのであろう。

無論、当時高校三年生、男女が集まる演劇部だ。 
お互いがお互いに何かしらの感情を覚えるには容易な環境だ。

そしてその通り、私にも何か特別な感情を抱いた人物がそこにいたのだ。

仮にその女性をAさんと呼称しよう。

あの素晴らしい公演が終わり、静岡市民文化会館の搬入口、いわゆる裏口ですね、そこにトラックが来るから待機せよ。

と部長からお願いが。

「FLATとAさんで。」と。

(今思うとさぁ、なんか気をつかってくれたのかなぁ?部長?)

七月だったか八月だったか、あの日の午後15時あたり、その季節では日が最も元気に輝いている時間だ。

搬入口はかろうじて日陰だが少し向こうは木の葉陰と木漏れ日がきらめいている。

表口の喧騒、それに反するような裏口の静けさ。

静か、なのに真夏の蝉の声が大音量でこだまする。

彼女と私は1メートルくらいの高さのコンクリートの上に2人横並びで座る。

「あのセリフよかったよね、あの立ち回り凄かったね!」とか

「あの時の悲鳴やばかった! あの時のアイツの演技1番だったよ、やられたわ」とか

疲労こんぱいだが舞台をやり切った2人は心地よい余韻とまだ残る興奮をおぼえながら話をする。

そして、2人の会話が止まったのです。

ほんの少し涼しい風が吹く中、数秒なのが数十秒なのか、

蝉のけたたましい鳴き声の中のなか、しかし無音とも呼べるあの場所で、
汗ばんだ制服、半袖ワイシャツ

「俺さ、Aさんのこと好きなんだよね」

そう口走ろうとした瞬間、静寂を破るように

ピー!ピー!ピー!

トラックが無機質なバック音を響かせながら搬入口に到着。

「あ…! トラック来たね!」

そしたらそのタイミングで他の部員も

「トラック来た?! おお、じゃあ搬入しちゃおうぜ!」

と。 最後の仕事に取り掛かったわけでした。

そのままAさんには想いを伝えることはせず。(できず?)

それから高校を卒業し、あれから25年会ってません。
(いや、一度同窓会で会ったけど当時とはまた環境も感情も別)

そんなあっけないものでした。

今思うとあれは「恋」であったのだろうか?
演劇の練習で長い期間共にしさも特別な感情を抱いていたように錯覚していたのではないか?

あの一大プロジェクトが終わった後の高揚感、そのテンションで何か特別な言葉を口走ろうとしてただけなのではないか?

そんな疑問も今になって感じたりします。

それとも恋愛なんてそんな曖昧な感情とタイミングで始まるものなのかもしれませんね。

しかしあの甘酸っぱさはこの日本酒「ひと夏の恋」が体現するものの一つであると確信しています。

ならばあの日の出来事がほんの一瞬の幻想であったにしろ

「一夏の恋」

であったのでしょう。

美化された思い出は美化されたまま胸にしまおう。

みなさま夏が終わる前にぜひ、

「一夏の恋」

を誰かと語り合ったらどうか。

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