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「Into The New World」に巡り会えたこと

 先日韓国の作家チョ・ナムジュ氏が書いた『彼女の名前は』という短編集を読みました。

 この本はベストセラーになった『82年生まれ、キム・ジヨン』の著者による、実際のインタビューが基になって書かれた作品です。日常生活の中に溢れている不条理に対して声を上げ、立ち向かっていく様々な年代の女性たちの話が描かれています。

 その中で特に印象に残っているのが「また巡り会えた世界」というタイトルで収録された、とあるデモに参加する女子学生に関する話です。大学総長の辞職を求めるデモに参加する女子学生たちが、動員された警察と衝突する中で恐怖を感じながらも、誰かが突然歌い出したとある曲を通して勇気をもらい、団結を強めたというエピソードが描かれています。

 作品の中には固有の大学名や曲名は出てきませんが、追って注書きもされている通り、これは梨花女子大学校(以下梨花女子大学)で2016年に起きた学生運動についての話で、登場する楽曲は2007年にリリースされた少女時代のデビュー曲「Into The New World(다시 만난 세계)」です。タイトル「また巡り会えた世界」もこの曲から取られています。

 この学生運動は、2016年韓国の名門大学である梨花女子大学に「未来ライフ大学」が新設されることに対して、「学びの場」である大学の質が損なわれるとして学生が反発し起こりました。鎮圧にはなんと1600人もの警官が動員され、その過剰鎮圧によって運動はより一層加熱し、世間からの注目を集めました。最終的には大学総長が辞任し、「未来ライフ大学」の設立も中止となりました。

 「Into The New World」は少女時代のデビュー曲としてはもちろん、この学生運動で歌われたことを契機として、プロテストソングとしても愛されるようになりました。実際の現場で学生たちが「Into The New World」を歌う様子は、YouTubeに残っているいくつかのニュース映像などで今でも観ることができます。


 私自身が初めて少女時代の存在を知ったのは、彼女たちが「GENIE」や「Gee」「MR.TAXI」「Run Devil Run」をリリースし、日本でも精力的に活躍していた頃だったので、リアルタイムで「Into The New World」を味わうことはできなかったのですが、当時の映像や、他のアーティストによるカバーを通してこの曲に触れるたびに、デビュー曲以上の「力」を持つ特別な曲であるとしみじみ感じています。 

특별한 기적을 기다리지 마(特別な奇跡を待たないで)
눈앞에선 우리의 거친 길은 (私たちの目の前の険しい道は)
알 수 없는 미래와 벽 바꾸지 않아(分からない未来と壁 変わらないけれど)
포기할 수 없어(諦められない)

수많은 알 수 없는 길 속에(数多くの先が見えない道の中に)
희미한 빛을 난 쫓아가(かすかな光を私は追いかけている)

널 생각만 해도 난 강해져(あなたのことを考えるだけで私は強くなる)
울지 않게 나를 도와 줘(泣かないように私を助けて)
이 순간의 느낌 함께하는 거야 (この瞬間の感覚 一緒に感じよう)
다시 만난 우리의(また巡り会えた私たちの)

Melonより

 上記はほんの一部ですが、ところどころから垣間見える、決して楽しいことや楽なことばかりではない未来に足を踏み入れる時の不安な気持ち、その思いを抱えながら立ち向かっていく、という強い意志が感じられる歌詞に初めて触れた時心が震えました。そして何より、「少女時代」という、現在でも多くのアーティストたちのロールモデルとなるグループのデビュー曲として、この世に放たれたことでより一層輝きを放っている一曲です。このような自分の心の中でずっと大切にしていたい楽曲に、自分の母国語ではないにもかかわらず出会えたことに感謝したいです。

 今回たまたま読んだ書籍の中で、自身の心の支えとなっている「Into The New World」に出会うことになり、読みながら涙が出てきました。「Into The New World」と同じようにこの書籍には、未来をより良いものに変えるため立ち上がった女性たちのエピソードがたくさん詰まっています。読みながら悲しい気持ちややるせない気持ちになりながらも、最終的にはじっと耐えているだけでなくて何か行動を起こしてみよう!と背中を押してくれるような書籍です。もし興味を持たれた方はぜひお手に取って読んでみてください。最後まで読んでくださりありがとうございました!

(追記) ちなみにこの書籍に収録されているエピソードは元々京郷新聞にて連載されていた記事が再編成されたものです。こちら↓が「また巡り会えた世界」に関連する記事です。ぜひチェックしてください!

(参考資料)
「連帯の歌」としての少女時代『また巡り逢えた世界』(朝日出版社ウェブマガジン)
‘다시 만난 세계’와 함께 여성들의 시대가 시작되다(IZE)

サムネイル:筆者撮影


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