オペレーティング・システムから、オペレーティング・エージェントへ

OpenAIの11月6日のDevDayでの発表に関するメモ。

https://dev.classmethod.jp/articles/openai-devday-release-note/

今回の発表で強く感じたことは、やはりOpenAIの目指すChatGPTが単なるチャットアプリケーションではないということだ。

従来のオペレーティングシステム(OS)はハードウェアとアプリケーションの架け橋である。だがOpenAIはChatGPTを「言語で命令できるオペレーティングエージェント」と位置付け、人生のあらゆるタッチポイントで新たなゲートキーパーとなろうとしているように思える。


IT競争は手前の取り合い

歴史を振り返れば、IT競争の常道とは、ゲートウェイを手前に築くことにあったようだ。PCの争いをOSが無意味化し、OSの争いをブラウザが、ブラウザの争いを検索エンジンがと、そしてそれをスマホとアプリが…このようにITの争いは常に手前を争うものだった。こうして一番手前を抑えた企業は、大きな利益を手に入れた。

今、OpenAIの動きは、このメタゲームに大きな変化を加えつつある。

OpenAIは、人生のあらゆる点で人々が最初にアクセスする「ゲート」としてAIを位置づけようとしている。スマホやOSによらず、あらゆる問は「AIにきけば解決する」。AIをそんな集積ハブへと変化させようとしている。

初見では今回の発表は散発的かつ多方向的に映る。だが統合してみればOpenAIは「ChatGPT」ではなく、「あらゆるタッチポイントの入り口をおさえる総合エージェント」を作ろうとしてることがわかる。

・音声認識、音声合成
・ロール毎の多様なエージェント
・画像の理解と生成を含むマルチモーダル
・様々な外部サービスとの連係ハブ

などは、明快に「統合会話形エージェント」を作るためのパーツだ。これらを組み上げて完成するもの、OpenAIが目指すものがあくまで汎用統合型のAIだということが推察できる。


Operating Agentの世界

では、この進化は実際にどのような形を取り、私たちの生活にどのような影響を及ぼすのか?

AIマーケットプレイスの構想からAssistive APIの展開に至るまで、OpenAIの戦略は、言語を介した命令システム全体をとることを狙っているように見える。これは、モデルやサブスクリプションによる収益を超える、より大きな野心の現れではないか。

たとえばAssistive APIは、小売業から健康管理に至り、個人のタスク管理にまで及ぶ。あらゆる業界のアプリケーションにおいて、言語による直感的な操作性を提供することを目指すものだ。OpenAIが目指すべき場所は、ユーザーが特定のプログラムやアプリを開くことなく、「AIにこれをやって」と言えばそれが行われるという日常に他ならない。

ユーザーがオペレーティング・システムを使う時代から、オペレーティング・エージェントを雇う時代へ。そしてオペレーティング・エージェントがサービスを使う時代になる。

誰もが、電通のような代理店、あるいは執事として、AIを利用する時代になる。様々なサービスは、電通や執事が使うものであり、ユーザーは直接触ることもなくなってしまう。

サムアルトマンとジョナサン・アイヴが考えるデバイスは、そういった「既存デバイス、サービスをすべて飛び越える 、すべての手前に位置するなにか」ではないだろうか。例えば、あらゆることを質問すれば、すべて答えてくれるイヤホン、そんなようなものだ。

そして、経営者やビジネスリーダーは、この変化に対し今すぐにでも対策を講じるべき未来である。


社会やビジネスはどう変化するか?

OSがOA(オペレーティングエージェント)に代わることで、どのような変化が生じるだろうか?

IT産業自体の構造変化はもちろんのこと、既存の社会のビジネスモデルへの影響は計り知れない。人々がAIに質問し、AIがシステムを操作する世界では、企業は製品やサービスの提供方法を根本から見直さなければならなくなる。従来の顧客サービスやマーケティング戦略は、大幅な再考を迫られるだろう。

企業は消費者とのやりとりを、よりパーソナライズされた方法で行う必要がある。従来の一斉送信型のメールマーケティングや広告ではなく、AIによって一人ひとりの消費者のニーズに合わせたコミュニケーションが可能になる。一方で、全ユーザに向けた画一的な広告は意味を失うだろう。

労働においても、多くの人間は自分の下に擬似的な労働者(AI Agent)を雇用することになる。労働や経営の概念は大きく変化するだろう。

またこの変革の波は、あらゆる知的活動のコンタクトポイントがOpenAIとGPTによって独占される可能性を示す。仮に多くのインタラクションがこのAIを通して行われるようになれば、OpenAIは今までにないレベルでの情報集約と影響力を持つことになる。そして、これは企業や個人が新たに直面する重要な問題である。私たちはどのようにしてこの新しい現実に適応し、またその中で競争し、成功を収めることができるだろうか?

実際、OpenAIの最新の発表は、このコンセプトを具現化しているものと見ることができる。GPTと各種サービスのAPI連係、そしてそこから生まれる豊富なアプリケーション、サービス、そしてデータは、それ自体が新たな基盤となり得る。こうした環境下では、伝統的な検索エンジンやアプリケーションのプラットフォームの役割が縮小し、OpenAIが提供する直感的でシームレスな統合体験が前面に出ることになる。

GoogleはChatが検索を置き換える未来を警戒していた。だが真に警戒すべきはエージェントがOSを置き換える未来ではないだろうか?

この一連の動きを通じて、OpenAIはチャットボットの枠を超え、生活のあらゆる領域にわたる情報アクセスのゲートキーパーへと変貌を遂げるだろう。GPTのオペレーティングエージェントとしてのポテンシャルは、まさに企業と個人が自らの情報やサービスにどのようにアクセスするか、さらにはこれをどのように配信するかに関する基本的なパラダイムを変える。

従って、我々はこの技術が提供する利便性を享受する一方で、その集約された力の前に自己のポジションをどう保つか、そして自己の価値とサービスをどのように市場に提供し続けるかを深く考えなければならない。


付録: 各プレイヤーのポジショニングの違い


OpenAIは全てのフロントを
GPTに置き換えるたい。


Google, Apple, MSはOSやデバイスに、アシスタントAIを入れてフロントにしたい。
ChatGPTはここかと思ったら、ここではなさそう。


クラウドコンピューティング事業は、サービスプレイヤーにツルハシを売りたい。
OpenAIはここかと思ったら、ここでなさそう。



Nvidiaは全プレイヤーにツルハシを売りたい


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深津 貴之 (fladdict)
いただいたサポートは、コロナでオフィスいけてないので、コロナあけにnoteチームにピザおごったり、サービス設計の参考書籍代にします。