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「欲望のオブジェ」 要約 2章: 最初の工業デザイナー

欲望のオブジェ」を紹介し、なんとかKindle化してもらうための、布教活動その2。

第二章は、産業の必要性が工業デザイナーを生み出すまでを論じる。

産業におけるデザインの仕事は、「生産工程の事情」と「顧客の嗜好」を両立させることだった。初期の工業製品の形態や表現は、「大量生産性」を進化圧として受けながら、変遷していく。


第2章:最初の工業デザイナー

商業製品としてのウェッジウッドは、利益の最大化のために、生産性、販売量、利益率の増加を必要とした。

ウェッジウッドは、在庫を無くし、生産数を予測可能とするため、従来の「納品型販売モデル」をやめ、カタログやショールームを主軸に工場直販をする「見本品販売モデル」発明する。

見本品販売は、前提としてカタログ商品と、実際の製品が均一であることを必須とした。

均一の必須性は、生産工程が複雑な主力製品グリーンウェアを廃盤にし、単純工程でつくれるクリームウェアへと、商品ラインナップを変化させた。装飾模様の書き込みも、職人への技術依存を起こすため、プリンティングによる転写法へと切り替えられた。

均一化のために、さらなる分業が進み、お手本となる指示書や原型が必要になる。これにより大量生産する職人と別に、「優れた原型を作る仕事」が産まれ、もっとも給料が高く、ビジネス上の価値のある仕事になった。

同時に、コントロールのしづらい個性的なアーティストが、大量生産の工程から排除され出す。結果、産業におけるアーティストの仕事は、「商品の原型」を作ることに限定されていく。

こうして、職人という一つの職業は、個性を発揮して原型を作る工業デザイナと、個性を殺して大量生産に従事する工場員に分離された。


同様に、形状に対しても経済性により進化圧がかかっていく。

大量生産に向かない立体装飾は排除され、シンプルな形状に集約された。一方で、装飾は転写されることで応用が広がることになった。逆に一つの形状に対し、無数のバリエーションが選択可能となったのだ。少ない原型パターンを少なくし、大量のプリントバリエーションを設けることが、もっとも効率よく多くの製品を作れたからだ。

デザインの方向性は、「大量生産性」、「品質の均質化」、「コストの低下」、「バリエーション展開の容易さ」、「市場の嗜好を満足させる」といった諸条件によって、規定されることになった。

このように工業デザイナという職種と、モダンというデザイン様式は、思想ではなく経済原則の要請から産まれた。


個人的なメモ

産業が成長に入ったフェーズでは、デザインはグロース のための道具として扱われます。

この段階でデザインに求められることは、大量生産性、グループワークでの取り回し効率、スケール性、横展開性などが、優先度No1のプライオリティになります。これを達成しつつ、顧客が欲しがるもの、美しいものを追求しなければなりません。

逆に、産業や技術レベルが停滞飽和し、どんぐりの背比べになるほど、デザインは意味や美にリソースを割り振りやすくなります(ツールとしての価値が、差別化にシフトするため)。

インターネットやスタートアップで求められるデザインは、まさにこの「産業が成長に入ったフェーズ」のデザインです。

デザインシステムや、ブートストラップ、オブジェクト指向デザイン、あるいはデザインスプリントなど、デザイン手法の議論の多くは、グループワークにおける生産性や、再利用性を主軸に語られます。Appleのインターフェースガイドラインも、Google の Material Design ガイドラインも、商業的な観点からみれば、まさしく「全体品質の底上げと標準化、効率化」が主軸であり、個のクリエイティヴィティを否定するものとなっています。

このように、産業の勃興期という特性上、1900年代前半を舞台に論じられた多くの物事は、2010年代のインターネットのデザインと相似形を描きます。

技術優位性がある程度飽和し一周した印刷や、建築などでは、自由な造形が試される一方、WEBやアプリにおいて、そのような時代の到来はまだ当面先になりそうです。


繰り返しになりますが、はやくKindle化されて欲しい本です。


いただいたサポートは、コロナでオフィスいけてないので、コロナあけにnoteチームにピザおごったり、サービス設計の参考書籍代にします。