書評 「悲劇的なデザイン」
BNNさんから、「悲劇的なデザイン」をご恵投いただきました。
デザインで人が死ぬ
本書はデザインの「倫理」と、「間違った使われ方の影響」について語った本だ。今年のアタリ本の一つ。
ひどいデザインの影響力は、一般に想像されるよりはるかに大きい。
医療ミスが発生して患者が死ぬ。フェリーが衝突し、飛行機が墜落する。選挙の結果で、特定の候補者が有利になる。さらには悪意あるデザインによって、ユーザーは騙され間違った選択を行わされる。
著者は、このような問題の原因を「ユーザー不在のデザイン」に置く。クリエイター(あるいはスポンサー)のプライオリティが、ユーザーよりも高くなったとき、ひどいデザインは生まれる。目先の指標の追求が強くなりすぎ、そのサービスが行うべき真の価値は、たやすく捨て置かれてしまうのだ。
しかし、目先の指標(利益)を安直に追い求めた場合、企業は大きな代償を支払うことになる。顧客の流出、事故、訴訟など、手に入れた目先の利益とは比べ物にならない損失。場合によっては、サービスそのものの存続が潰えることも珍しくはない。
一方で、「良かれと思って」作られたデザインも、ときとして「悲劇的なデザイン」になり得る。Facebookが行った「今年を振り返ろう」という写真の掘り起こし仕組みは、完全に「善意」から生まれたデザインだった。
しかし、家族を失った人々は、その悲しみをもう一度突きつけられれた。踊る人々と風船のイラストに囲まれて、亡くなった子供の写真がログインをするたびに表示されるのだ。
このような問題に対応するために、著者はデザイナーとして「共感」する能力の重要性を説く。それは、ユーザーと「共感」し、彼らが望むものを作るためであり、同時にクライアントやチームメイトと「共感」し、彼らにユーザードリブンなデザインの重要性を伝えるためでもある。
また、デザイナーは自らの製作物がどう動くのかを理解し、責任を持たなければならない。上から与えられた施策が間違ったものならば、NOと言わなければならない。
このとき、ただ指示を受け入れてアプリの体裁を整えるだけで影響を考えない人間、つまり言われたことをこなすだけの人間は、自分をデザイナーと思ってはいけない。こうしたやり方を無意識に続けると、ひどいデザインが生まれる。
悲劇的なデザイン、P203
昨今、倫理や司法的な問題によって、閉鎖をするサービス事例が多くなったように思える。どれも目先の利益を最大化するために、倫理的なラインを踏み越えたり、ギリギリを走ったサービスだ。目先の利益に踊らされて、彼らが支払った損失は、あまりに大きすぎたと言って良い。
医療業界、金融、果ては政府まで。様々なものが「悲劇的なデザイン」をほどこされ、社会に大きな悲劇を振りまいている。
この本をオススメしたいのは、デザイナだけではない。全てのサービス開発に携わる人に読んでもらいたい良本。
悲劇的なデザイン
ジョナサン・シャリアート, 高崎拓哉