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タイムラインが闇堕ちする仕組み

SNSであれニュースサイトであれ、タイムラインは自然状態で放置をすると、どんどんネガティヴに闇堕ちしていく。

これはnoteにおいても、つねに注意を払っている課題だ。なぜ多くのサービスでタイムラインが闇落ちするのか、チームと共有するためのメモ。


人間の脳は、ネガティヴな情報に積極的に注目する

人間の脳は、原始時代に基礎設計されてから、ほとんど進歩していない。このため現代の人間の意思決定は、しばしば原始時代の生存戦略に引っ張られて判断を誤る。

判断ミスが死を意味するような環境で、長く生き抜いてきた私たち人類は、基本的に保守的だ。生存を優先し、損失の回避を優先するようにできている。5年後の穀物よりも、この瞬間に猛獣に襲われて死なないことを優先する。そういうコンセプトで進化をしてきた。

目前の危機回避を優先するなら、重要なのは危険の兆候を捉え、即座に解消することだ。かくして、ネコジャラシに弄ばれるネコのように、人類は直近の不安に翻弄されるようにチューニングされた。バグではないけど、もはや時代遅れな仕様で人間は動いている。


恐怖訴求マーケティングの台頭

広告やメディア業界の頭のよい人々の中に、「この脳の特性を利用すれば、もっと効率的に注目を集められる(そして商品が売れる)のではないか?」と思いついた人がいた。

「体臭がきついことは、恥ずかしいこと」として消臭剤を売ったり、 「不衛生への恐怖を過剰に煽り」として、キッチンを金属と白いプラスチックとガラスで覆ったり、「滅多に発生しないリスク」を過剰に喧伝して保険商品を売ったり、試してみると実際これがよく売れた。

同じように、世界の危機や、凶悪犯罪、対立構造、悪い政府なども、世間の耳目を強く集めることが発見された。メディア、政治家、宗教家などはこの特性を大きく利用して力をつけていった。

こうやって恐怖やコンプレックス、危機感で売り上げや視聴率を伸ばすことを、恐怖マーケティング(フィア・アピール)という。危機回避を優先する僕らの脳は、危険な情報を周囲に拡散しやすい傾向もある。

別に悪意があったわけではない。ただ、シンプルに売り上げや注目を最大化しようとすると、必然的に恐怖やコンプレックス、対立を煽ることが最適戦略になってしまうのだ。こうして資本市場の合理的な理由で、ネガティヴな情報は戦略的に拡散されていくようになった。


パーソナライズは闇も加速させる

この構造に、昨今のIT業界のパーソナライズ思想が加速をかける。

パーソナライズは、ユーザーに合わせてコンテンツを切り替えるようなことだ。リンゴが好きなユーザーに、リンゴを出したらもっと売れる。漫画が好きな人に、他の漫画を紹介したら売れる。そういった思想からはじまった機能だ。

「ユーザーが望むものが、どんどん紹介されるならいい機能じゃないか!」ほとんどの人はそう思うはずだ。実際、たいはんのケースではパーソナライズはうまく働く。問題は、パーソナライズされすぎてしまうケースだ。

不安や不幸を煽ったコンテンツはクリックされやすいことを思い出してほしい。似たような記事や商品がブーストされる…ということは、ネガティヴなニュースを読めば、さらなるネガティヴなニュースがオススメされる。好奇心でスキャンダルを見れば、さらにスキャンダルが押し寄せてくる。

年収を嘆く広告、対立を煽る記事、悲惨な事件、そういったものが多く流通する以上、パーソナライズはネガティブさを増強するマシーンになりやすい特徴を持っている。

また過剰なパーソナライズは、あなたのタイムラインの方向性をジャンル特化させ、意見や思想、情報の多様性を失わせてしまう。


言論は極端化する

方向性が同質化したコミュニティや言論は、どんどんと極端化する性質がある。みんなが賛成し、あえて意を唱える人がいないからだ(意を唱える人は、すでに排除されてしまっている)。

パーソナライズで、意見が一色に統一された空間では、意見がどんどんと過激化していく。

たとえば、「ある人種とのトラブルがおきた」という個別エピソードがよせられると、自分も似たような体験をしたという声が寄せられる。類似エピソードが集積し、多く見られると「その人種は危険」という過剰な一般化が生まれる。

このような言論は止めるもののいない中、さらにヒートアップしいく。そのような人種は劣ってる、排除すべきと加速していくのだ。外部観測する第三者からみれば、あきらかに異常な言論も、同質化したコミュニティーの中では異常性を観測できない。

不安で注目をあおる記事や広告は、場の中で突出するためにより強い不安を押し出していく。

このような増幅現象を、音の反響になぞらえて、エコーチャンバー現象といいう。閉塞的なコミュニティでは、過激な意見が、過激な意見を呼んで加速していくわけだ。

かくして、みるもの全てが不幸や不満や怒りに満ちた、闇落ちしたタイムラインが完成する。


そして地獄へ

タイムラインが完全に闇落ちすると、ユーザーが離脱をしていく。結果的に、残るユーザーは「闇と親和性がある人」と「闇に耐性がある人」だけになる。

そうすると何が起こるか? サービスはマスユーザーに向けて最適化される。この場合マスユーザーは「闇OKユーザー」である。結果、究極的には、サービスそのものが、喧嘩や対立やスキャンダルを積極的にフィーチャーする方向へと進化する。これがインターネットで末法が出現する仕組みだ。SNSではまだ少なめだが、掲示板やニュースサイトではすでに陥ったサービスも多い。


健全なタイムラインを作るために、僕たちはどうすればいいのか?

このように、人間の脳の特性上、自然状態や経済原理にまかせてしまうと、タイムラインはネガティヴになる可能性が高い。

インセンティヴ設計やナッジを用いた、プラットフォーマーによる政策介入が必要になってくる。個人的には、ネガティヴを廃絶する…というよりは、比率に対して干渉をしていく方向が望ましい。

対策まで書いていくと、長くなってしまうので、ここから先は別の機会に続く。noteチームは常に、この問題をやっつけるために頑張っていく所存です。


まとめ

・本能レベルで人間はネガティヴな方向に反応しやすい
・メディアやマーケターは数値のために、脳特性を利用しがち
・パーソナライズは、特定意見が集約する空間をつくる
・極端な意見は、閉塞空間において増強される







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深津 貴之 (fladdict)
いただいたサポートは、コロナでオフィスいけてないので、コロナあけにnoteチームにピザおごったり、サービス設計の参考書籍代にします。