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果実

それはどんな果実でもいい。
あなたが大切に育てた果実。

いつか、あの人にあげたい。いつか、渡したい。思ったよりも大きく育ったの。実がぎゅっとつまって、瑞々しくて、甘い。きっと美味しいから、あの人に。

おはよう、おつかれさま、こんばんは。ねむれない?すこしつかれた?そんな今ならこの果実も少しは役に立つのかもしれない。今日はゆっくり時を過して、良ければ週末はどこかでかけませんか?とりとめのないことを話しませんか?ただそばに在るから、そんな果実。

さあ手渡して。少しでも元気になってくれたら、少しでも笑ってくれたら。喜んでくれたらいいな。ちょっと重たかったかな。少し量が多いかな。困らせちゃうかな。今は気分じゃなかったら持ち帰ろう。

育みました、心に実った果実。
あなたを想った時間だけ、すくすくと。


「どう受け取ったらいいかわからない」

果実は落ちた。
あなたの手から転がり落ちた。

床に落ちた果実は、へこんだ。
潰れた傷から、果汁が飛んだ。

たいせつに、そだった かじつ。

そう、別にね、あなたのために育てたんじゃない。
私の心にただ実って、あなたを想う程に膨らんでいった。あなたのためじゃない。

落ちた果実から目が離せない。
あなたを困らせたことを謝ればいいのか。
あなたがどんな顔をしているのか見ることが出来ない。
私はまた、間違えたのかもしれない。

落ちた果実を拾った。
強く握った。
もぎ取ってしまったから、木には戻せない。
強く握った。

大切に育てたから、大切に握り潰した。


人との繋がりなど、こんなことの繰り返しのように思う。勝手に育てて、勝手に送り付けて、「要らない」と言われるならまだしも、「どうしたらいいか分からない」とその手から落ちてしまう。

知っている。
受け取る価値が自分にあるのかと、
問う時間を。
受け取ったその果実をどう扱えばいいのか、心のどこに置けばいいのか、わからなくて怖くなる。
それを知っている。

価値なんかない。
愛される理由など見当たらない。
きっと呆れて居なくなる。
今が楽しいだけで明日のことはわからない。
今一度受け取ってもらえたとて、きっと食べたら嫌になる。胸糞悪い甘さにもう要らなくなってしまう。

それを知っている。


私の果実は落ちた。


私は人の果実を落とさない。
落とされた時の気持ちを知っているからだ。
私はその果実を受け取る。
受け取って貰えないさみしさを知っているからだ。
私は
あなたを悲しませない。
そんな価値がないからだ。

自己肯定感という言葉がへばりついている。
肯定するだけの材料がいつも無い。
見つけられない。
でも私は他人にそれを見せない。
己からも見えなくなるまで、
大切なおまじない。
私はあなたに何もさせない。
励まさなくていい。
心配しなくていい。
愛さなくていい。

喜んで、震える唇で
果実を食べる。

それしか道はないのだから。

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