230611新国 白鳥の湖
新国立バレエ 新制作の白鳥の湖を観た。
備忘録まで。
今回のピーター・ライト版は、バーミンガム・ロイヤル・バレエで踊られている版だそう。ジゼルといい、ピーター・ライトの明解な作品解釈と展開は日本人に相性が良いように感じた。
まずキャストを見たときに、パ・ド・トロワがクルティザンヌ、高級娼婦として踊られることに驚いた。まあ確かに、ジークフリートの妹とベンノでは文脈が無いに等しいので、物語的な展開を期待する観客にはこれでよいのだろう。
また全体にジークフリートの陰鬱がテーマとなる以上、高級娼婦にも慰められない心と、その心を突き動かすオデットの対比は効果的に思う。
中略のち、ラストシーンはベンノの悲しみで終幕。分からないでもないが、それまでのシーンでベンノとジークフリートの関係性をそこまで深くは描かれていないため、なぜベンノなのか、やや唐突な終わりに見える。対して、例えばパリオペのヌレエフ版ではロットバルトの陰謀が明確に観て取れる。またブルメイステル版は見た目とオデット・ジークフリートの恋物語にに全振りしている分、解釈の余地はあまりない。これらに比べると、物語と演出の両立を図ったピーター・ライト版がやや中途半端に感じてしまった。
おっ、と思った点として、1幕では男性コールドによる群舞が多く差し込まれていた。古典ほど、どうしても男性コールドは出番が少なくなりがちではあるので、その対応だろうか。よく揃っていて気持ちのよい群舞だった。
オデット/オディールの柴山さんはやはり繊細で良かった。弱すぎないオデット、愉しそうなオディール、安定したバリエーション。席が遠く仔細を感じ取れなかったのは残念だが、遠目でも感情が分かる踊りであった。
今回非常にいい踊りをしたのがベンノであった。それはもうよく飛ぶ。そんなに飛ぶか?というくらいよく飛ぶ。期待である。
ところで、日曜マチネということもあろうか、全体にやや調子の上がらない公演であった。ダンサーもキレを欠いていたように思うし、オケも特に管が惜しい場面が時折生じていた。以前観たジゼルの完璧なコールドと東フィルを思い返すと何とも言えない。
これはこれで、舞台とは生き物であることを実感できて面白い回ではあったが。
いい加減、ちゃんとしたオペラグラスを買うことを決意した日曜日であった。
(完)