如月かずさ『給食アンサンブル』光村図書〔2020年首都圏中学入試頻出作品/背景説明+あらすじ×6/無料/話がすべて分かるから自分でゆっくり読みたい子は読まないように。
如月かずさ『給食アンサンブル』光村図書2018年
この作品集は2020年に
・鷗友学園女子中学校
・女子美術大学付属中学校
で出題されました。
★背景説明
この本は短編集です。一冊の本のなかに六つの短いお話が入っています。どのお話ももともとは『飛ぶ教室』という雑誌にのせられていたものです。お話の中心にあるのはいつも給食のメニュー。それぞれの主人公は違いますが、みんな同じ学校に通う中学一年生です。前の話にわき役として出てきた子が次の話の主人公になっていますから、2話目からはまるで知り合いに会えたような親しみを感じられるはずです。この「わたし」はだれなのだろう? この「おれ」はだれなのだろう? と考えながら読んでいきましょう。
★あらすじ×6
1話 七夕ゼリー
小学校までお嬢様学校に通っていた美貴は、父親の会社がつぶれたために普通の公立中学校に通うことになりました。そこで料理好きな梢〔こずえ〕や本好きな桃と仲良くなります。期末テストの勉強のために公民館に集まったとき、美貴は高級スイーツの写真の載った本を見て前の学校を思い出します。ちょうど七夕の前で、公民館の玄関に笹の飾りがありました。美貴はこっそり「前の学校に帰りたい」と書いた短冊をつるします。期末テストの翌日から梢が美貴によそよそしくなり、給食を食べ残すと、前の学校のごうかな給食を食べなれているからだろうとにらみつけてきました。梢は美貴の短冊を見てしまい、仲良くなったつもりなのに美貴が帰りたがっていることに傷ついていたのでした。美貴と梢たちは話をしなくなります。しかし、七夕の日、給食にゼリーが出たとき、梢が「それ、くれない?」と話しかけてきました。美貴はあきれながらあげます。すると梢たちは、給食に出たジャムを使ってゼリーをきれいにかざりつけてくれました。それは勉強会のときに見た高級スイーツと同じかざりつけでした。
2話 マーボー豆腐
桃は本格的な中華料理店で出てきたマーボー豆腐が辛すぎておいしく食べられませんでした。そのことで自分が子供っぽすぎると感じたため、好きな童話を読むのを止めて、大人向けの本を読み始めます。しかし、あまり面白いと思えません。ふだんも大人っぽくふるまおうと無理をしても不機嫌そうにしか見えず、仲良しの友だちの美貴から、「桃のこと何か傷つけた?」と心配されてしまいます。その日の給食にマーボー豆腐が出ました。小学生のころと同じ甘口のマーボー豆腐をおいしく食べるうちに、桃は無理をして大人っぽくするのはやめようと思い始めます。放課後、桃が大人向けの本を図書館へ返しにいくと、幼なじみの満〔みつる〕が桃の好きな童話の新作を熱心に立ち読みしていました。桃は満と久しぶりに楽しく童話の話をします。
3話 黒糖パン
満は友だちの雅人〔まさと〕の姉の詩織さんが好きです。三歳年上の詩織さんは読書好きの満にいろいろな本をくれました。あるとき満は雅人から、高校生になった詩織さんが半月以上前から学校へ行っていないと聞きます。期末テストの最後の日、満は図書館の近くの公園で本を読んでいる詩織さんに会います。詩織さんは学校に行かない理由を何もかも面倒でたいくつだからだと言います。満は信じられませんでした。期末テストが終わったあと、給食に黒糖パンが出ます。それは詩織さんの好物でした。満は空腹をがまんして自分の分のパンを詩織さんにとどけにいきます。
4話 ABCスープ
雅人は運動が得意で食べることが大好きなクラスの人気者です。しかし、中学校に入ってから、テストの成績が悪い上に部活のバスケットでもよい結果が出せずにいるため、このままでは人気者ではなくなってしまうのではないかと不安に思っています。とりわけ苦手なのは英語ですが、面白いことをしようと思ってよく発言をしていたため、アメリカ人の先生のラミレスには気に入られています。あるとき左手首を骨折した雅人は、けがをしていれば部活の練習に出なくてすむと思ってしまい、そんな自分がいやになります。はげましてくれたラミレスに不安を打ち明けると、ラミレスは「ユー・キャン・チェンジ」と言います。君は変われるという意味です。それからしばらくして、給食に雅人の好物のABCスープがでました。アルファベット型のマカロニが入ったコンソメスープです。雅人はマカロニがぐうぜん「CHANGE/チェンジ」の順に並んでいるのを見つけて元気を取り戻します。
5話 ミルメーク
清野〔きよの〕は真面目な優等生で、明るく元気な雅人や梢のことをひそかに苦手に思っています。あるとき給食にミルメークがでます。牛乳に混ぜるとコーヒー牛乳になる、黒い液状の調味料です。清野はこれが大好きでした。雅人は友だちからもらったミルメーク十人分をすべて牛乳にいれて一気飲みをして見せます。清野は友だちのいない自分にはできないことだと感じます。その日の放課後、梢が清野に百人一首の特訓に付き合って欲しいと頼みます。清野は塾が忙しいからと断ってしまいます。それからしばらくして、清野は塾で雅人と話をします。清野が、雅人の作っていた濃いコーヒー牛乳の味は自分には一生分からないだろうというと、雅人は、「牛乳の量を減らせばいい」と答えました。清野ははっとします。翌日、梢がまた清野に特訓に付き合って欲しいと頼んできました。じつは梢は三月の末に転校することが決まっていたため、最後の思い出のために百人一首大会で優勝したかったのです。清野は特訓に付き合うことにしました。
6話 卒業メニュー
梢は三月に転校することが決まっていますが、それまで明るくすごしたくて、美貴や桃たち仲のいい友だちにそのことを話せていません。ある日の昼休み、梢は転校のことを知っている雅人から、友だちに隠しているのはよくないとたしなめられます。その会話を桃に聞かれてしまいました。同じ日の夕方、美貴が梢の家にやってきます。美貴は梢のかくしごとに怒っていましたが、転校してもずっと友だちでいようといいます。しかし、梢はいつか忘れられることが怖くて、無理して友だちをつづけなくていいと言ってしまいました。卒業式の日、給食に人気メニューのクレープが出ます。梢がさびしさからなかなか食べられずにいると、美貴が「わたしにくれない?」と頼んできました。梢が代わりに何をくれるのかとたずねると、美貴は二年後、三年生のときにでる卒業メニューを必ず梢に持っていくと答えました。
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