伊坂幸太郎『逆ソクラテス」集英社〔2021年首都圏中学入試頻出作品/背景説明・短編5編のあらすじ×5/大まかに内容を知りたい受験生向け/無料/ストーリーを自分で楽しみたい子は読まないようにね〉
伊坂幸太郎『逆ソクラテス』集英社2020年
この作品は2021年に
・暁星中学校
・公文国際学園中等部
・東京農業大学第一高等学校中学校
で出題されました。
★背景説明
この本は短編集です。一冊の本の中に五つの短いお話がいっしょに入っています。暁星中学校と公文国際学園で出題されたのは一話目の「逆ソクラテス」、東京農業大学第一高等学校中学校では三話目の「非オプティマス」でした。五つのお話の舞台はみな異なりますが、どれも小学生が語り手だったり、大人になった語り手が小学生のころのことを思い出して話していたりします。また、ときどき、あるお話に出てきた脇役がほかのお話にもまた出てくることがありますから、続けて読んでいると、思いがけないところで思いがけない知り合いに出会えたような驚きと喜びを感じることができます。
★「逆ソクラテス」あらすじ
このお話は主人公の「僕=加賀」の回想の形で書かれています。回想というのは昔を思い出すこと。小学六年生の頃、加賀のクラスには草壁という気の弱い子がいました。担任の久留米先生が草壁をだめなやつだとはじめから決めつけて見下していたため、クラスのみなも草壁を下に見ていました。六年生の四月、そんな加賀のクラスに安斎という転校生が来ます。安斎は久留米先生のやり方に反感を持ち、加賀といっしょに草壁にすごいことをさせて久留米先生の先入観〔初めからの思いこみ〕を崩してやろうと計画します。計画には優等生の佐久間も加わりました。四人は色々な作戦を立てます。その中で最も華々しかったのは、加賀たちの学校にプロ野球の選手がやってきたときのことでした。安斎と加賀は前もって選手に「草壁が素振りをしたら素質があるとほめて欲しい」と頼みます。選手はその頼みを聞き入れて草壁をほめてくれたのです。
★「スロウではない」あらすじ
このお話も回想の形です。主人公の「僕」が、大人になってから、小学五年から卒業までの二年間の担任だった「磯憲(いそけん)」というあだ名の先生と再会して話をしながら小学五年の運動会のことを思い出しています。僕は運動が苦手なのにくじ引きでリレーの選手にえらばれてしまいます。選手をくじ引きで決めようと提案したのは、運動が得意で女子の中心人物だった渋谷亜矢(しぶたに あや)でした。「僕」と同じように運動が苦手な村田花(むらた はな)もくじで選手に決まってしまいます。「僕」と友だちの悠太、花とその友だちの高城かれん(たかぎ かれん)は四人で走る練習をすることにします。かれんは夏休み明けにきた転校生で、運動は苦手そうでした。あるとき、渋谷亜矢が「かれんは前の学校でいじめられていた」と言います。「僕」は磯憲に本当かと聞きに行きますが、磯憲ははっきりとは答えず、「転校してきて、やり直そうとしているんだったら、やり直させてやりたくないか」と言います。かれんはいつも胸に写真の入ったアクセサリをかけていて、それをお守りだといいます。「僕」はつらいことを思い出したとき必要なのだろうと思います。
そうして迎えた運動会の当日、花はほかの競技で足にけがをしてしまいます。花の代わりに走ったのはかれんでした。かれんは本当はとても足が速かったのに、なぜかそのことを隠していたのです。渋谷亜矢は面白くありません。
運動会から半月ほどあと、渋谷亜矢がかれんのアクセサリにけちをつけて肢で踏みつけた上に無理やり開いてしまいます。すると中には渋谷亜矢自身の写真が入っていました。実はかれんは前の学校でいじめられていたのではなく、いじめていたほうの子だったのです。そのことを後悔し、もうそんなことをしないと心がけるために、以前の自分にそっくりな渋谷亜矢の写真を持ち歩いていたのでした。
★「非オプティマス」あらすじ
このお話の主人公は小学五年生の将太(しょうた)です。将太は五年生になってから引っ越してきた安井福生(やすい ふくお)と仲良しです。福生はいつも薄くて安そうな服を着ているために、同じクラスの騎士人(ないと)たちからからかわれています。将太たちのクラスの担任である久保先生は若くていつも元気がなく、騎士人がわざと缶ペンケースを落として授業のじゃまをしてもきちんとしかることもできません。
あるとき、騎士人が久保先生に「先生の恋人って死んじゃったって本当ですか?」と聞きます。その話は本当でした。久保先生の恋人は二年前、通りすがりの人が道路に落とした小銭を拾ってあげようとして自動車にはねられてしまったのです。将太と福生はその話を聞いて先生を気の毒に思い、騎士人たちが学校公開のときにも授業のじゃまをしようとしているのを前もって教えてあげようと思います。久保先生は将太たちのクラスメイトの潤(じゅん)の忘れものを家へと届けているところでした。あとを追いかけていた将太と福生は、先生が潤の父親と話しているところを目にします。潤の父親は「自分が嫌になることがあって息子に厳しくあたってしまう」と話していました。潤の父親は、自分の落とし物を拾ってくれようとした女の人が事故にあったのだと打ち明けます。久保先生はそれが自分の恋人のことだと気が付いたようでしたが、潤の父親には話さず、ただ「気にしているだけでも立派だと思いますよ」と言います。その日から久保先生は変わりました。前よりずっとしっかりしてきたのです。
そうしてやってきた学校公開の日、久保先生はまたしても缶ペンケースを落とした騎士人をきちんと注意し、「人は、他の人との関係で生きている」と話します。
★「アンスポーツマンライク」あらすじ
このお話は主人公の「僕=歩(あゆむ)」が小学六年生から高校生までのミニバス仲間との思い出を回想していく形で進みます。ミニバスとはミニバスケット。選手は五人です。他のメンバーは駿介(しゅんすけ)と匠(たくみ)、剛央(たけお)と三津桜(みつお)。コーチは磯憲(いそけん)でした。中学校までずっといっしょにバスケをしていた歩たちは、全員ちがう高校に入ってから二年後、久しぶりにしぶりに集まって磯憲の家をたずねます。磯憲が癌にかかっているので、そのお見舞いのためです。五人のうちでバスケを続けていたのは剛央だけでした。三津桜はとくに上手かった駿介がバスケをやめるのはだめだと言い、プレイを動画で見せるユーチューバーになるのはどうかと言います。磯憲の家からの帰り道、五人は公園で刃物をもって子どもたちを襲おうとしていた男を協力してとり押さえました。
それから六年後、剛央が指導している小学校のミニバスチームのところに、本当に人気ユーチューバーになった駿介がたずねてくることになりました。五人はまた久しぶりに集まりますまります。そこへ、拳銃を持った男があらわれました。男は六年前の刃物の男でした。歩たちはまた協力して男をとり押さえます。
★逆ワシントン
このお話の主人公の「僕=謙介(けんすけ)」は小学生です。あるとき、友だちの倫彦(としひこ)といっしょに、腹痛で学校を休んだクラスメイトの靖(やすし)の家へプリントを届けにいきます。靖の家には若い男の人がいました。靖の母親が再婚した相手で、靖の血のつながらない父親にあたります。靖の父親は二人を見るとうろたえ、靖の顔を見たいといっても家に入れてくれませんでした。謙介と倫彦は靖がなぐられたりいじめられたりしているのではないかと疑います。二人はこっそり靖の様子を見るために、ゲームセンターのクレーンゲームでドローン機をとることにします。クレーンゲームには「教授」というあだ名のクラスメイト、京樹(きょうじゅ)も協力してくれました。そうして手に入れたドローン機を靖の家の前で飛ばしていたら、窓から靖本人が顔を出します。靖はまったく元気でした。腹痛は本当ではなく、運動の苦手な靖が体育の時間が怖くて休んでいたのでした。
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