日本企業に必要な経営のアンラーニング(その1:固定費の管理と管理会計)
ダントツ経営が指摘する販管費(固定費)の問題
その昔世界的にも非常に効率が良く日本の高度成長を支えた企業群が、昨今は他国に押され気味である。その大きな理由は、営業利益率が低く効果的な再投資が少ないことにあるように思う。
なぜそうなるか考えると、答えは簡単なようだ。営業利益は、売上から売上原価と販管費を引いたものだ。日本企業は現場の改善活動には強いので、売上原価で負ける訳はない。だとすると、販管費が多すぎてここで負ける、ということになる。
このことは、ダントツ経営で有名なコマツ元社長の坂根さんが、米国の合弁会社での経験をもとに指摘されている。(この辺の事情は「コマツのダントツ経営 SVM管理と管理経営改革」という管理会計の本に詳しく書かれている。)
では、なぜ販管費が多いのだろうか?、その現象が分かっていても多くの日本企業が手出しできずにいるのだろうか?
その最大の理由は、ビジネスの時代環境が変わってきたのに、それに適合できていない、すなわち経営のアンラーニングができていないことにあるのだろう。日々のオペレーションだけに血道を上げていて、時代環境に合わせてどういう管理をすべきかと言う、メタレベルでの問いをしないからだと思われる。
無批判な全部原価計算の導入と米国の管理会計
その代表例が原価計算の仕組みである。話を製造業に限るが、日本企業の多くは旧大蔵省が制定した「原価計算基準」に合わせた全部原価計算をやっている。この方式では、製造に関わる工数や間接費は個々の製品の原価に配賦される。
この方式だと、坂根さんが問題視されてように、売り上げが上がれば売上原価も上がるのが当然だとして、原価に忍び込む諸費用(材料費や光熱費などの変動費以外の固定費)の管理が甘くなる。
それに対し、米国のビジネス・スクールの管理会計の科目では、直接原価計算を教える。変動費と固定費を分けてそれぞれを厳しく管理し、人件費や減価償却費などの間接費が製品の原価に配賦されることはない。真正面から固定費をどう削減するかという課題に向き合わざるを得ない。
この差は、昔の日本企業では大きな問題にならなかった。と言うのは、製造効率が低く変動費(材料費や直接労働費)を減らせば売上原価は大きく下がり、配賦される間接費の割合の方は小さかったからである。
残る固定費(開発費や営業費)も、高度成長期はモノを作れば売れる時代だったので、全体に占める割合が比較的小さかったのである。
ところが現在では、多くの工場で機械化・自動化が進んでいる。工場の直接工の数は減り、機械やプロセスを管理するホワイトカラーの数の方が増えていて、配賦される製造間接費の割合がバカにならなくなってきている。
さらに時代が変わり、消費者が成熟かつ多様化すると、モノは単純には売れなくなる。多様な製品・サービスを企画・開発し、効果的に売るための販管費もバカにならなくなっている。
日本のドラッカーの怒り
実は経営(管理会計)に全部原価計算を持ち込むことの弊害は、古くから知られている。たとえば、大蔵省が1962年に上述の「原価計算基準」を制定した時に、日本の経営コンサルタントの先駆者である一倉定氏がそのバカさ加減に憤激して「あなたの会社は原価計算で損をする」という名著を書かれている。(この本は、最近日経BP社から復刻版が出版されている。)
一倉定氏は、日本のドラッカーと称されることもあり、ユニクロの柳井社長が傾倒し、門下生にはユニ・チャーム創業者の高原慶一朗氏やドトールコーヒー創業者の鳥羽博道氏がいるほどの人である。本の内容は平易で薄いので、一読をお勧めする。
さらに、JITで有名なトヨタ生産方式を開発した大野耐一氏も、「ワシはフル・コスティング(全部原価計算)は嫌いじゃ」という有名な発言をされている。
ともあれ、ビジネス環境が変われば、それに適した経営方法も変わるのは常識であろう。日本企業も、ただ現場で頑張れば良いというスタイルではなく、常にその時代時代でのそもそもの経営のあり方をメタレベルで考えるようになるべきである。
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