IBPとは?
はじめに
IBPは20年以上前から海外で一般的に使われている経営手法で、S&OP (Sales & Operations Planning: 販売及びオペレーション計画)から発展した考え方です。そのためか、SCMの視点から書かれた記事や、IBPを支援するためのツール紹介という形式での記事を多く目にします。私は日本企業の経営企画から海外でIBPに携わるようになりました。
IBP (Integrated Business Planning) は様々な形で日本語訳されていますが、私は「繋げる経営企画」と捉えています。SCM出身の方やIT企業の方が書かれるIBPについての記事が多い中、少し違った視点をご提供できるかと思い、IBPについてご紹介したいと思います。
IBPのオーナーシップは経営層にある
「課長と部長の違いは何でしょうか」
私が以前受けた研修での質問です。
「課長はメンバーのマネジメントに時間を割かれるが、部長は選抜された課長を束ねる分、部門全体の将来像や他部門との連携に責任を持つ」ことだと教わりました。
非常に的を得た説明だと思います。会社そのものを束ねる経営者は、さらにその先の未来や、社内だけでなく業界や社会全体との連携を考える必要があります。そのありたい姿は経営ビジョンとして示され、ビジョンを実現するための経営戦略が作成されます。ビジョン、経営戦略に基づき、3~5年の中期経営計画や翌年の単年度経営計画にてより具体化されます。
IBPの目的は「経営戦略の実現」です。中期に渡る経営計画を毎月振り返りながら、必要に応じて人的資源および財務資源を最適化するために必要な意思決定を行います。IBPは経営責任を担う経営層がその責務を果たすために活用する経営手法です。決して管理職が現場と経営層を繋ぐためのもの(ボトムアップ型)でも、ましてや需給を回すためのもの(サプライチェーンの一部)でもありません。
IBPが繋ぐ3つの軸
"Integrated(繋がれた)"という言葉で表現されている通り、繋ぐことがIBPの根幹にあります。IBPは、未来と現在(時間軸)、部門間(横軸)、そして経営と現場(縦軸)を繋ぎます。
1. 未来と現在(時間軸):未来を見据え、先手を打つ
中期経営計画や単年度経営計画には、販売数量や売上高といった目標値や、そのための活動指針が記されています。もしその企業が非常に幸運であれば、経営計画通りに目標を達成し、活動を実施できるかもしれません。しかし、現実には計画作成時には予期しなかったことが起こります。言い換えれば、中期経営計画や単年度経営計画を作成した時点の仮説は、作った直後から古くなっていきます。計画を立てた時点の目標に対して、現在自分たちがどこにいて、どこにギャップがあるのか。
それを確認する手段がローリングフォアキャスト(Rolling Forecast) です。IBPでは、中期経営計画をカバーする損益計算書を主要とするローリンウフォアキャストを作成、更新します(例えば中期経営計画が3か年の場合、36か月間)。フォアキャストと経営計画を比べることで、どこにギャップがあるのかを把握し、施策をいち早く打つようにします。遠くのものがぼやけて見えるように、遠い未来になるほど集計されたもの、近い未来になるほどより細かいデータを扱います。
フォアキャストの目的は、未来を正確に予測することではありません。精度が高いことに越したことはありませんが、大切なのは未来の不確定要素を早めに察知し、ビジネスをより良くするための意思決定をいち早く行うことです。そのためのシナリオプランニング(Scenario Planning)もIBPの大切な手段となります。
2. 部署間(横軸):全社で一つの目標、計画を共有
フォアキャストは全社でひとつである必要があります。経営層が企業全体の活動と将来の見立てを把握し、部門最適ではなく全体最適に基づく意思決定を行う必要があるからです。各部門が一つのフォアキャストを共有、更新するための基盤がIBP 5つの会議体(IBP 5 Steps)です。約1か月間のサイクルで全ての会議を一周し、フォアキャストを更新しつつ必要な意思決定を行います。
①商品ポートフォリオ会議 (Product Management Review: PMR)
戦略実現のため、新商品および既存商品全ての商品ポートフォリオが働くように意思決定を行います。
②営業会議 (Demand Review: DR)
市場の状況から販売数量および売上高のフォアキャストを更新し、経営計画との差を確認するとともに、その差を埋めるための営業施策に対する意思決定を行います。
③サプライチェーン会議 (Supply Review: SR)
販売計画に対し供給計画を見直しつつ、販売原価や物流費の見込みを更新します。
④財務統合会議 (Reconciliation Review: RR)
上記3つの会議のアウトプットを統合し、全社としての財務諸表のフォアキャストを更新します。また、各会議で意思決定に至らず、IBP役員会議に挙げられる議題の精査を行います。
⑤IBP役員会議 (Management Business Review: MBR)
企業全体のフォアキャストを確認し、挙げられた議題に対して意思決定を行います。
3. 経営と現場(縦軸):戦略の実行と現場からのフィードバック
IBPでは集合化されたデータを扱いますが、現場レベルで実行するためにはより細かい計画にドリルダウンし、毎週、毎日モニタリングする必要があります。この経営と現場とを繋ぐ手段が、ITP (Integrated Tactical Planning) です。ITPはミドルマネジメント(管理職)によって運営、継続改善され、IBPプロセスと繋がっています。また、IBPと比べ短期間(約数か月先まで)の現場での計画実行を目的とします。
フォアキャストで予測した結果とは違う結果が得られた場合、経営戦略を実現する上で大きな課題あるいは成長のチャンスが隠れているかもしれません。また、一度きりの事象であれば応急対策で済むかもしれませんが、大きな変化の前触れの場合、戦略の見直しや、より抜本的な対策が必要かもしれません。現場で起きた事象の原因を究明しつつ、現場から経営層へ必要な情報のフィードバックが重要です。経営層のかじ取り(トップダウン)と現場でのリアリティ(ボトムアップ)を双方向かつ俊敏に繋げることが、IBPの大切な役割のひとつです。
おわりに
以上、IBPについてのご紹介でした。用語は S&OP および IBP を開発した Oliver Wight 社の用語を参考に使用しています。以下、いくつか参考文献をご紹介いたします。
Enterprise Sales & Operations Planning: Synchronizing Demand, Supply & Resources for Peak Performance (2002)
The Transition from Sales and Operations Planning to Integrated Business Planning: Practices and Principles (2022)
The Oliver Wight Class A Standard for Business Excellence (2017)
Integrated Tactical Planning: Respond to Change, Increase Competitiveness, and Reduce Costs (2021)
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