夢日記:死ねないのに逃げられない!


南太平洋の海に浮かぶ木造の船に乗り込む。
波に揺られるたびにギシギシと音を立てて船は揺れ、船底は既に腐りかけている。

何の合図もなくいつのまにか出航していたその船のデッキに集められた私と参加者たちは、
このツアーの旅主たるシャーマンからの説明を受ける。

聞くところによると、どうやら私たちは自殺を幇助するためのツアーに参加しているらしい。

私は半ば驚いて周りに視線を配るが、なぜか皆飄々としている。その頬は海風に吹かれてこけていて、衣服は固く乾き切っている。

オブラートに包まれた粉状の薬が一人一人に配られる。最後の祝杯をあげ、これを飲んでから眠りにつくと二度と目が覚めることはないという。そしてその魂と残った亡骸は、旅主のシャーマンによって剥製され、串刺しで保管されるそうだ。

シャーマンがその様子が収められた数枚の写真を私たちに見せて回る。恐らく自分の頭の中にいる、複数の私のうちの1番バカな私がこの旅に参加することを決めたのだろうが、今の私には後悔しかない。

日は暮れ始め、「最後の祝杯」と呼ばれる宴が始まるが皆無言だ。真っ白な皿に見たこともない造形の食べ物を、作法を守りながら食す。聞こえるのは食器にフォークが当たる音と、飲み込む時の「うん」と言う声、そして海風だけだ。

夜になり葬式のような雰囲気の宴が終わり、皆無言で自分の船室へ戻ってゆく。血の気は引きつつ心拍数の上がる私に、コンシェルジュのような白スーツ姿の男が話しかける。

「あなたは不眠症のようですが、朝”眠り”につきますか?」

自分の意思に反して話がどんどんと現実と化す恐怖で私は頭が真っ白になってしまう。何と返答したかは覚えていないが、私は自分の船室に戻っている。そして私のベッドでは知らない誰かがすでに薬を服用し眠りについているではないか!

神経がヤスリで削られたような興奮にも似つかない不快な高揚の中で、私はこの船から脱することを決意する。

次の瞬間には私は海をありえない速さで泳ぎ、シャーマンが放った追っ手から逃げている。

私はどこかへ目掛けて必死に泳ぐが、どこを見渡しても周りは水平に引かれた黒い線だけだ。
矢弾尽き果て、ここで溺死するのだと諦めると、私は近くの小島に立っている。

絵に描いたような近未来と寂れたポリネシアのフュージョンという、訳のわからない造りの小さな町で、私は脊椎反射のみで逃げ回る。

容赦無く銃撃してくる追っ手の追跡をギリギリで巻いて、私はようやく別の島の港町の一角にある、南フランス風の建築のホテルへ滑り込む。

そこのフロントにある黒電話を乱暴に掴み取り、私は日本政府へ救出要請の電話をかける。
政府からの回答は以下のものだった:

「我々政府はその地域において貴方を帰国させるための手段も予算もない。健闘を祈る」

背中に寒気が走ると同時に、フロント脇の全開の窓から風が入り、薄肌色のカーテンが美しく靡く。そしてその幕からヌッと姿を現したミクロネシア人の刺客が、サプレッサー付きの拳銃を私に向ける。

私はここから逃げられない絶望と、まだ微かに残る自分への期待と共にホテルを飛び出して走る。列車にしがみついては銃弾をかわし、海の中に潜っては捜索をさけ、奪取したミニボートで真っ青な美しい海面を切り裂き島々を逃げ回る!しかしどの島へ渡ってもこの海域から出られる手段が見つからないのだ!

次第に日は暮れて、私はこの諸島では大きめの密林に影を潜める。しかし眩しいほどに輝く数々の松明と、当てずっぽうに乱射された弾丸に圧倒され、ジリジリと海岸線へと追いやられる。

気づけば私は崖とも砂浜ともとれない開けた土地に出る。目の前に広がるのは南国にしてはあまりにも陰鬱とした深紫の水。そして晴れているのに曇暗に見える空。

私は横に朽ちていた、もうとうの昔に亡くなったであろう旅人が置いていった巨大なスーツケースに入り込んで身を潜める。

近づく銃声に怯え、目先に広がる絶望的な景色をあてもなく眺めながら、この先の自分の身を案じ、祈るばかりだ。








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