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【#6】エコロジカル・アプローチを読んで 〜難解でありながら単純な理論〜

前回の更新からかなり間が空いてしまいました、、、
今回は個人的に非常に気になっていた本を読み終えたので感想をシェアしたいと思います。
スポーツに関わるトレーニング指導者として、初めて知った理論や今までにない考え方に非常に感銘を受けました。

私のようなS&Cコーチはもちろん、ぜひ競技コーチにも読んでいただきたい(むしろ競技コーチにオススメしたい)内容だったので、少しでも参考になれば幸いです。

エコロジカル・アプローチ (植田文也,2023)


エコロジカル・アプローチとは

伝統的な運動学習理論と比較して

この本を読むまで、エコロジカル・アプローチについては何の知識もなかった私。
今までの競技経験でも指導者から「型」を教わり、「もっとこう動いたほうがいい」とか「この動きが正解だ」という指導を受けていました。

伝統的な運動学習指導では、動きを規定し、その正しい動きこそが正解でありパフォーマンスを発揮することができる。そしてそれを反復していくことで直線的な成長を得られると主張されます。
だから指導者も、正しいとされる「」を選手に言語化して伝え、それに対して「正解」か「不正解」かの答えを教えることが役割となってしまっています。

一方で、エコロジカルアプローチでは、「制約」主導の運動学習を重んじており、個人、タスク、環境といったさまざまな制約をコントロールし、それらを選手個々人がクリアしていくことで得られる「自己組織化」によって学習が進んでいくと考えられます。
また、制約に応じて、急激な学習が進むこともあれば、停滞や低下も招くこともあり、人の成長は「非直線的」であると主張されています。

つまり、指導者はうまく「制約」をコントロールすることが重要であり、その制約を学習者がクリアしていくことに応じた自己組織化を進めていくことがエコロジカルアプローチの本質です。正しい制約操作により、選手が自ら答えを探していくことに重きが置かれており、正しく運動学習が促されれば、急激な成長も見込めるというわけです。

人間の体は一人ひとり違います。身長、体重、発揮できる筋力や関節可動域など、、、
高いパフォーマンスを発揮するためには、ある一定の「」ではなく、身長や体重などのさまざまな制約に応じた、自分が1番パフォーマンス出せる状態に「自己組織化」していくことが必要なのです。

エコロジカル・アプローチのプリンシパル

エコロジカル・アプローチでは5つのプリンシパルが制定されています。

①代表性
②タスク単純化
③機能的バリアビリティ
④制約操作
⑤注意のフォーカス

これらを競技に当てはめながら、指導を進めていくことで選手の自己組織化を促していきます。また、選手個人だけに止まらずチームのコーディネーションにも活用できるそうで、、
詳細は割愛しますが、この辺りは特に競技コーチに読んでいただきたい、目から鱗な内容が詰まっていました。

S&Cとして、どのようにこのアプローチを活用していくか。(個人的感想)

❶スキル学習においてはかなり有効

・競技スキルだけでなく、競技スキルに繋げるためのムーブメントトレーニングにも有効になるのではないかと感じました。ムーブメント指導の際には、つい言語化された正解を口にしてしまうことが多かったですが、さまざまな制約をうまく活用しつつ、体の動かし方について規定の「型」をつけさせるのではなく、どのようにしたらその制約をクリアできる動きができるのかを探れるようなプログラムをデザインしていきたいと思います。それこそが選手のパフォーマンスに生きるはずです。

・選手の自己組織化を促されることで、試合でのパフォーマンス発揮、練習ではうまくいくのに結果がついてこない状況を打破できるのではと感じ、この部分が競技においては非常に大きいと思います。
例えば、アメフトでいうと、ウォークスルー(プレー合わせ)やインディー(ポジション別練習)といった中で、相手の動きが試合とは全く異なる場合でパフォーマンスが発揮できていても、いざ試合になるとなかなかうまく決まらないといった場面は何度も見てきました。
練習メニューなどをうまく調整してあげて、代表性が高くなるよう制約を組んであげることで、それらを解決していければ最高ですね。(私はいちS&Cコーチなので、当然、競技コーチに理解していただき、競技コーチ主導で行われるべきではありますが)

従来の「型」を教えることに主眼を置くのではなく、むしろ指導者の仕事は「自己組織化」が起きるよう制約を与えることであるという点が非常に新鮮であり、このあたりは実践してみたいと思います。

❷ウエイトトレーニングにおいては目的に沿っているかを慎重に見極めて使うべきでは

→ウエイトトレーニングでも全てそのアプローチが使えると考えるのは危険かなと感じました。ウエイトトレーニングをするなかで、目的が筋肥大なのか、発揮筋力向上なのかパワー向上なのかに応じて、従来の「型」を教える指導もうまく使う必要があると思います。また、競技の代表性にばかり目がいき、本来のウエイトトレーニングの目的、鍛えたい内容を失わないようにしたいです。

なぜウエイトトレーニングが必要なのか。私は、

①怪我をしにくい身体の獲得
②競技パフォーマンスにおける基礎向上

この2つを達成する上で、筋肥大や発揮筋力向上などが必要であり、そのためにウエイトトレーニングをする必要があると捉えています。
つまり、『ウエイトトレーニングで競技力自体を向上させよう!』とは考えていません。

競技力を伸ばしていくためには、競技練習をより多くこなすことが1番の近道です。そして、ウエイトトレーニングは競技力向上を目的とした練習により多く参加できるよう、①怪我をしにくい身体を獲得し、かつ、②その競技のパフォーマンスにおける基礎(例えば股関節伸展筋力とか)を向上していくことがウエイトトレーニングの目的だと考えています。
エコロジカル•アプローチを盲目的に運用し、目的も何も考えずウエイトトレーニングを競技の代表性に寄せていく(競技の動きに負荷を加えるなど)ことをすると、結果的に競技としての代表性も損なうし、ウエイトトレーニングに比べても効果は薄くなるみたいなことも多大にあり得る話かと思います。
S&Cコーチとして、このあたりには注意しつつ活用していきたいと思いました。

↓なぜトレーニングが必要なのかは以下でもまとめています。↓


まとめ

非常に参考になる内容ばかりでした。

個人的には特に競技コーチに読んでいただきたい内容だなと感じました。

私自身、ウエイトトレーニングの指導だけでなく、競技に通ずるムーブメント(あ走り方、止まり方、方向転換など)を指導する機会もありますので、その際に試してみたいと思います。
使い方に気をつけながら、ガンガン活用していきます!


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