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マーケティングアジェンダ キーノート3「拡張し続けるマーケティングの役割」 参加レポート #MA東京21

どうも、フクパンマンです。
マーケティングアジェンダ東京2021の最注目セッション、ドイツ銀行CMO/CXOのティム氏・モデレーターIndeed Japan水島氏によるキーノート#3になります。

この記事、書いている自分自身、めちゃくちゃ参考になりました。頑張ってまとめたのですが7,000文字超えで読むのに5〜10分かかりますが、必読です。

ティム氏は、ドイツ銀行のCMOに就任すると、すぐに人事部をマーケティング本部傘下に置き、採用や人材配置を管轄下に。また、今はCMO/CXOという聴き慣れない肩書きです。人間理解というマーケティングのテーマにおいて、従業員への働きかけはとても重要であるということを実践的に語る、大変に興味深い内容でした。

後述の内容をあえて先に書きますが『マーケターは、自社のサービスの魅力がどこで、顧客がどんなところにストレスを抱えているのかが一番わかる立場にある。だからこそ、社内のあらゆる部門、社員にそれをつたえ、顧客・マーケティング視点を企業の文化とする義務がある』というティム氏のメッセージを、できるだけ噛み砕いて書きました。

※ナノベーションさんから特別に翻訳をいただきました。参加された方も聞き取れなかった金言がたくさんありますので、ぜひご覧ください。
なお、実際のインタビューの順番・コメントからより理解しやすいと思われるように変更している部分がございます。ご了承ください。

それではどうぞ。

はじめに:ティム氏からのメッセージ

まず冒頭、ティム氏から10分ほどのビデオメッセージが流されました。この後のインタビューに関連する大事な内容のため、簡単にまとめます。

(1)パンデミックなどで不確かな混乱の時代
お客様は、もちろん人。内包的には、こんな不確かな状況に背を向けたいと思っている。一方で人としての本能があるので、外交的な部分も本質的に存在していることを理解しよう。

(2)ルールを破ればブランドと消費者の関係は閉じる
顧客は「ブランド」を自ら選定するようになった。プロモーションは認知だけではなく、すべてのタッチポイントでの良い体験が必要になった。つまり「顧客体験のデザイン」が必須。
そのため、競合他社よりも優位であることを伝えるために、顧客ごとのステータスをデータで徹底管理し、チャネルの統合によってフィードバックがリアルタイムにかつ抜け漏れなくできるようにしなければならない。

(3)あなたが何かを変えたいと思っているなら、内部から変化を起こさないといけない。従業員中心主義=顧客中心主義
お客様を考えていいサービスを提供するには、お客様の痛みを同じように知る必要がある。そのためには、社員が自社のサービスを愛し、自分で課題を見つけ、自分で意思決定し、改善するという自己完結できるようになる必要がある。
つまり、従業員中心主義がなければ顧客中心主義にはならない。従業員一人一人に揺らがない、タフな愛が必要 。社内コミュニティ、社内代表委員会の運用など徹底し、社員同士で自社愛を高め合い、顧客視点を養おう。
そして、従業員が企業のインフルエンサーにならなければならない。最終的に、内側から外側に向かわせるのだ。

(4)結果的にNPSが高まり、愛される企業になる
ドイツ銀行では(1)〜(3)の結果、市場におけるブランドの信頼度、親しみやすさなどが高まり、NPS(推奨度)も-4ptから+20ptまで大幅に増加した。

この後は、水島氏によるティム氏への直接インタビューで深掘りされた内容を、私の方で五つのパートに分けてまとめます。

①CXOという役割がなぜ必要なのか・・・未来は「エクスペリエンス(体験)」の中にある

まず、ドイツ銀行でティム氏はなぜCXOという役割を作っているのか?に迫ります。この内容だけでも興味深い内容です。

CMOは、戦略、コミュニケーションの制作、広告の制作など、会社を実際に動かすマーケティング機能の役割を担っています。
一方CXOは、製品やサービスに触れた後にお客様がどのように感じるかという経験に関する全く新しい分野で、この経験やお客様の気持ちをデザインする役割です。

5年前からドイツ銀行にいますが、CXOは新しい役割として追加されました。 もう従来のマーケティングだけでは十分ではありません。広告はもう以前のように充分には機能していません。

私がマーケターの皆さんに言いたいのは、未来は「エクスペリエンス(体験)」の中にあるということです。ドイツ銀行では、マーケティングの役割は「エクスペリエンス(体験)」に発展させなければならないと理解しています。

私なりに『顧客接点の総最適化』と表現させていただきますが、それぞれの部署が縦割りに動いていて、企業としての考えも顧客の対応も様々になってしまいがちです。実際ドイツ銀行でもティム氏が来る前は各部が別々の思想で動いていたそうです。
この「部署を超えた会社として一貫性のある交流」を徹底することが一番大切なことと理解し、ダイナミックにできるようにしたのがCXOです。

実際、「CMO/CXOとして、具体的にどのような活動をされていますか?」という水島さんの問いに対して、エクスペリエンスを中心とした施策をお話しされていました。

まずはクレームマネジメントから始めます。そして、より良い体験をデザインするのです。私たちはお客様から学び、洞察力を得て、一緒になってより良い体験を開発しています。

例えば、お客様から「電話をかけたときに長く待たされた」とフィードバックをいただいたら、それを元に、すべての場所でより良い体験ができるように、人、コンピュータもより良い設計をします

つまり、お客様がどのように感じているかということが全ての仕事になるのです。フラストレーション(痛みのポイント)から、全体の体験をより良くすること、すべてが私の領域です。

CXOとしての業務範囲は、コールセンターや店舗など、とにかく接客をしている全てが範囲。顧客接点がある箇所を最優先で最適化していることがよくわかります。

そしてCXOという顧客体験の総最適化をミッションとした立場をあえて作ることで、ドイツ銀行としての決意を示し、スピード感のある顧客接点の総最適化を実現したのです。

②顧客接点の総最適化のためには、社内のイノベーションこそが最重要課題

次にティム氏は、CXOとして最も大事なポイントは「社内のイノベーション」と言います。この部分、ティム氏からの金言が散りばめられているので長くなりますができるだけそのままコメントを引用させていただきます。

私がドイツ銀行に入社したとき、あまり良い状態ではなく再出発する必要がありました。マーケティングだけでは不十分であることを理解し、課題解決を「エクスペリエンス(体験)」に発展させる必要があると考えました。

そこで、お客様をよりよく理解するためには、まず、自分たちを変えなければならないと気づきました。サービスを愛し、お客様の声に耳を傾け、理解し、改善し、より良く、より早くお客様に提供することが必要でした。

会社が縦割り構造であったため、すべてのポイントでより良いものを作るために学ぶという流れがありませんでした。そこで私たちは、お客様により良いサービスを提供するために、社内の従業員を対象とした文化的な取り組みを始めました。というのも、お客様が何を必要としているかを理解している私たち(マーケター)には、会社を変えていく義務があるからです。人事部や雇用責任者と協力して、マーケティング担当者としてお客様が何を必要としているかを伝え、社内の文化を変えて、全員がお客様視点になるようにするのです。

今日ここに集まった皆さん(マーケター)は、会社を顧客中心の会社に変えることを仕事の一部としており、マーケティングはその中でも最高の部分を占めています。私たちの仕事は、会社全体を変えるための手助けをすることです。なぜなら、我々マーケターは顧客が何を必要としているかを理解しているし、従業員に力を与え、文化全体を本当に変えることができるからです。

CXOの親友は、デジタル担当者です。デジタル担当者は、すべてのデータ、すべてのデジタルニーズ、従業員を管理します。つまり、変革のためには3人の人材が必要です。

1.あなたのようなマーケティング担当者
2.デジタル担当者、つまりIT担当者
3.社員と一緒になって作ること、つまり人事担当者

まずお客様のデータが必要です。次に、現代はスマートフォンが私たちの手の中にあるので、デジタル体験が必要です。そして最後に、お客様の近くにいるために、本当に変化をもたらす「人」が必要です。

あなたの仕事はもはや広告ではなく、より良い顧客中心の会社のために人々をまとめることなのです。
この3つの役割が一緒になれば、会社を変えることができます。

マーケターは、自社のサービスの魅力がどこで、顧客がどんなところにストレスを抱えているのかが一番わかる立場にある。だからこそ、社内のあらゆる部門、社員にそれをつたえ、顧客・マーケティング視点を企業の文化とする義務があるというティム氏のメッセージ。

これこそが、一人一人のマーケター、CMO、CXOの使命と言えるのではないでしょうか。

③顧客体験のデザインには、「一貫性」と「全体の規律」が必要

さらに、顧客体験のデザインに関して、具体的な例を交えての説明がありました。

マーケティングとは「何かを知らしめること」、つまり何かを本格的に宣伝することです。ブランディングとは、「すべてのものを一貫性のあるものにすること」であり、すべての見た目や感覚を同じにすることです。そしてプロダクトとは、サービスにおける「感じ方」のことです。サービスでは「いかに体験してもらうか」です。つまり、最終的には全体の規律が一つになるということです。

例えば、私たちの銀行アプリにはボタンがあります。そのボタンの色、形、そのボタンを押した時につながる電話の担当は女性なのか男性なのか?
これらの要素はすべて、このブランド、会社について語っています。それをデザインするためには、ITの専門家に「アプリにボタンをプログラミングしてください」と単に言うのではなく、”どのような要素がなぜ必要なのか”を理解してもらうことも含めて相談し、お客様に届けることが必要です。

もはや銀行のアプリは単なる単一の体験ではなく、銀行のアプリでそのボタンを押したときにどう感じるかという「エクスペリエンス(体験)」だからです。このエクスペリエンス・デザイン全体が、マーケターとしての私たちの新しい仕事です。

このボタンを押したときにどう感じるか、音はどうか、色はどうか、これらすべての要素がお客様の体験の一部となるからです。私たちは、お客さまとコンピューターやアプリとの関係をデザインしているのです。

全ての体験が、顧客の体験の一部となる。この発想を忘れがち、というかそもそも持てない担当は多いのではないでしょうか。わかりやすいように考えてみましょう。

・広告で使っているメッセージ
・LPで使っているメッセージ
・サイト内で使っているメッセージ
・CRM領域(メール・LINE、マイページ、マニュアル)で使っているメッセージ
・サポートで使っているメッセージ

みなさんの会社のこれらは本当に統一されていますか?例えば、サイトのUIUXばかりリニューアルして、広告で言っていることがサイトに一文字も書いてないために、顧客に不信感を与えていることが離脱につながっている可能性を、考えたことはありますか?

この全てのタイミングで訪れる顧客体験に一貫性と全体の規律をもたせるために、マーケティングのデータや考えがマストになるのです。

④顧客体験の向上とKPIは明確な相関がある。「口座を見てもいいでしょうか?」と聞くだけでNPSが4ptも向上

冒頭のティム氏からのメッセージにもありましたが、実際にNPSやクロージング・レディネスのようなスコアとの相関関係は明確にあったと言います。

インプットは従業員、アウトプットはNPSと購買意向と考えており、信じられないほどの結果が出ています。NPSは、実際にドイツ銀行ではるかに向上し、購入意向は実に20%以上増加しました。ドイツ銀行では、昨年パンデミックの後にもかかわらず、(経営的に)最高の年を迎えました。信じられないような結果でした。

インプット要因を変えたことで、私たちは本当に良い状態に持っていくことができました。正直、人々の心の中で何が起こっているのかというのは、私にはわかりません。私たちがやっているのは、自分たちの内部に影響を与えて、より良い結果を出すことです。

顧客接点があったあとに細かくアンケートをとることで、どの施策でスコアがあがった因果関係は出している。その集合体として全体の数字も明らかに上がっているといいます。そして、NPSを4ptあげた、最も効いた施策は本当に小さなものでした。

私たちの従業員は、お客様に会う前に必ず 「お客様のアカウントを確認してもよろしいでしょうか? 」と尋ねるようにしています。
当社の従業員は勝手に彼らの銀行口座を見ることができ、それは全く問題ではありません。しかし私たちはお客様に、銀行口座を見ることを許可してもらえるかを尋ねています。

このような小さな質問を加えることで、お客様は(この体験を受けて)最終的には「気分が良くなった」と言っていました。「この会社は私のことを気にかけてくれていて、私の口座を調べる前に、調べてもいいかどうか聞いてくれているんだ」と。

この変化は、NPSの4ポイント向上につながりました。つまり、この小さな質問が、実際に目と目を合わせて新しい提案をするきっかけになったのです。これは(従来の)マーケティングではないかもしれませんが、最終的にはマーケティング効果がありますよね。

私たちのお客様が外に出た時、「彼ら(ドイツ銀行)は、まずアカウントを見ても良いかと事前に聞いてくれるから安全に感じる」と周り話してくれます。ドイツで話題になって、ドイツ銀行をもっと勧めてくれて、人が集まってくる。これは新しい効果です。これが、成長のための最も効率的な変化の方法です。

このような小さな変化が、ブランドと消費者の関係のダイナミズムを完全に変えてしまい、それは広告よりも圧倒的に強力なものです。

正直、会場にいても英語がわからない私はこの内容が理解できていなかったのですが『なんて素晴らしいマーケティングなんだ』と、この執筆をしている時に驚嘆しました。インフルエンサーを雇ってクチコミを生み出すというのも勿論大事なのでしょうが、顧客体験の総最適化から生み出されるオーガニックの口コミこそ、最高のインフルエンサーなのだと思います。

⑤クレームマネジメントこそが顧客体験の鍵。社内MTGに、お客様を入れることで生み出される道標

前述の『口座の中身を見る確認をする』という、些細なようで大きな改善はどこから生み出されたのでしょう。その取り組みも、ダイナミックです。

私たちは毎日、お客様を会社にお招きしています。
円卓会議を開き、お客様と社員が一緒に座っています。何が良かったのか、何が悪かったのかを尋ねます。
そこで私たちはお客様のインサイトを理解し、学び、従業員にマニュアルを渡して、お客様の気分を良くするために質問をしなければならないことを理解させました。その結果、改善されました。このように、お客様の気持ちを本当に聞き、それを非常に体系的に体験に結びつけることが出発点となります。

もうひとつ、私の経営会議・マネージャー会議では、必ず一人のお客様がテーブルについています。社内の会議でも、新しいマーケティング戦略の議論でも「あなたは何を感じますか?私たちが話していることは正しいこと?それとも全く違うことをして欲しいですか?」と尋ねます。

これは銀行にとっては、大きな変化でした。今、これをご覧になっているオーディエンスの皆さんも、カルチャーを変えるための一つのアイディアになればと思います。

お客様を会議に呼ぶというのは日本の発想だと難しいと思います。しかし、たいていお客様と企業の考えの間には(大小あれど)差分が発生してしまうものです。私も、出来るところから早速実践してみようと思います。

所感:偶然の出会いや思いがけない改善が産まれる土壌を作れば、偶然は必然になる

初日のプレゼンで青山商事関さんがこうおっしゃっていました。「OMOが推進されることは、偶然の出会いの演出など顧客の体験価値があがる。結果ブランドロイヤリティが高まるということ。」

この、偶然の出会いというのは私は必然で産まれさせることができると思っています。なぜなら、顧客の声は新しく産まれるものではなく、元々あったのに見て見ぬふりをしているか、そもそも私たちが見ようとしてこなかっただけだから。

今は偶然と言っているものの、それはティム氏がドイツ銀行でやられているように、見れる仕組みと見る評価制度、なにより気概があればそれは必然になるのです。

まとめ:マーケティングは、マーケティング部だけのものではない。マーケターなんて要らない

ようやくマーケティングがマーケティング部だけのものでなくなってきたのは、世界共通なのかもしれません。

そもそも、ティムさんの言う通り、マーケティングは全社に必要な考え方。マーケターなんて職種は本来は必要ないはずです。それでもまだまだマーケティングの必要性と導入・活用方法を各部に伝える、自らが率先して取り組んでいくという大きな役割があります。私も、ティムさんのようなCMO、CXOの役割が果たせるマーケターと自他共に認められるように頑張ります。

私たちマーケターは、「マーケターの仕事」というものを、時代に合わせて変えていかなければいけません。今日は、何かそのための新しいアイデアを得られたことを願っています。

私たちはマーケター として、良いベースを持っていますが、それを、これから更に発展させなければなりません。
私たちは共に協力し、一緒に新しい方法で「マーケター 」という仕事を改革していかなければならないからです。

ティム氏のメッセージで締めくくります。

マーケティングアジェンダ沖縄のキーノート#1でもライフクリエイトの前川さんから熱く語られた内容で、この記事でも重要性を改めて伝えられたらと考えています。

マーケティングアジェンダ東京、一旦キーノートレポートは以上になります。ほかの記事はこちらからどうぞ!

それでは、んちゃ。



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