デジマは拡散ではなく共感を。鹿毛氏、射場氏から学ぶ「デジマのタテとヨコ」〜YAPPLI SUMMITより〜
どうも、フクパンマンです。
2021年10月21日に行われたYAPPLI SUMMIT2021にて、エステー鹿毛氏と、元日本コカ・コーラ射場氏が登壇された「デジマの誤解「タテとヨコ」へ」というクローズドセッションが大変面白かったのでまとめます。
概要は以下の通りです。
■CLOSING SESSION - デジマの誤解「タテとヨコ」へ
IBAカンパニー 射場氏、かげこうじ事務所 鹿毛氏、モデレーター:ヤプリ 伴氏、島袋しまこ氏
エステーにてマーケティングを牽引した鹿毛康司氏と、日本コカ・コーラのマーケティング本部副社長を経て『「嵐」に学ぶマーケティングの本質』を出版された射場 瞬氏を迎え、マーケティング・デジタルマーケティングに対する誤解や幻想をクリアにし、マーケターとして本質的な思考を身につけるためのヒントを伺います。
デジマの功罪、本質の理解のための整理がされている良セッションでした。まとめるのがなかなか難しかったですが、参加した方もこのnoteをみていただければより理解が深まると思います。
見逃し配信は上記から。ぜひお時間ある方は登録してから観てください。結構発散してるので、まずこの記事を見て、動画見て、また戻ってくると一番学習できると思います。笑
それではどうぞ!
「タテ」と「ヨコ」とは?
まずは、タイトルにもなっている「タテ」と「ヨコ」の話がありました。
鹿毛氏:雨が一律で全員に降ってくるように、一律なメッセージを上から下に流せば売れるという考えが「タテ」の発想。一方的にリーチさせればいいということ。
「ヨコ」の発想は、一人一人に合わせた専用の蛇口を用意して横から水を流さないといけなくなったということ。潜在意識(インサイト)を捉えて「なんで私のことがわかるの?」と思わせ、LOVEという関係値を作らないといけなくなった。
射場氏:「こういうものをもうちょっと良くして欲しいのよね」というのを満たすくらいじゃ心は動かない。自分の思っていたものの斜め上を出されたときにしか気持ちは動かない。
伴氏:デジタルマーケティングは、企業からのメッセージを「タテ」の発想で伝えるものに成り下がっている。コントロールしてやろうと思っている。ターゲティングをして、色々なメディアでやっているだけ。デジタルマーケティングの功罪は、「縦」を正としてしまったことだ。
これ、まさに人間理解とイノベーションとリノベーションの話ですよね。マーケティングアジェンダで話されていたことを「デジマの功罪」という形で置き換えた、わかりやすい内容だと思います。
「ヨコ」から「斜め上の発想で驚かす」ために、ユーザーにあった水圧・角度で、しかももはや水ではなく、色や味の違うジュースやお茶やコーヒーなどを蛇口から出さなくてはいけません。
しかし、デジマではそもそもこのヨコの発想がないがしろにされるのが当たり前になっています。
拡散はNG。ポリシーが共感をうむ
続いて、さらにデジマがなぜタテになってしまっているかの本質に迫ります。
鹿毛氏、射場氏:拡散という言葉が嫌い。今言っている拡散は、ただのリーチ。本来の横は自分たちのブランド・サービスが好きな人が自発的につながって自分たちで発信、共有することが本来の意味での拡散。「同じ気持ちが広がる」ということ。
射場氏:AKBの運営とファンは縦の関係。しかし、嵐とファンは「嵐の6人目はファン」という定義で、嵐というブランドを作っているのはファンも含めてという認識を広めた。
そのため、自発的にファン同士が横で繋がって、みんなで盛り上がっていこうという空気が生まれた。まさに「横に降りてきたスター」。遠い存在だけど横にいることが大事。
また、嵐は6,7割は今までの期待値をキープしつつ、3,4割は「何をしたらもっとファンは喜んでくれるか」を追求していた。急にデジタル化したライブをしたり、ファンの期待を常に超えていった。
この嵐の戦略はまさに企業もすべきモデルケースです。前述のとおり、ヨコの発想で、かつ心を動かす工夫をし続けていたのです。
鹿毛氏:エステーでは「匿名宣伝部員」を作り、公開会議をやったり、会議手当を抽選であげたりした。その際、一枚一枚手書きでお礼を送った。その声が横にどんどん広がっていった。ユーザーは、どの企業がその商品を作っているのか、企業がどんな人格なのかを見てくるのだ。
射場氏:テスラは、ファンコミュニティ化し、自発的にファンがロビー活動をしていった。理解や認知ではなく、「共鳴」が必要。LOVEがない限り、バズってもその場限りで終わってしまう。ただ先進的ではなく、ポリシーがあってはじめて、共鳴する。
ヨコの具体的な事例が出てきましたが、本来のインフルエンサーマーケティング、そしてコンテンツマーケティングもこのヨコの発想がなければ意味をなさないのです。
「SEOで1位をとる」「バズってインプレッションを獲得する」ということがいつしかゴールになってしまっています。これもデジマの大きな功罪。デジタルが故に測れてしまい、測れるが故に目的が短絡的な数値になり、本来の目的がないがしろにされてしまうのです。
「共鳴が必要」という射場氏の言葉、ほんとうにいたく共感します。
調査しなくても声は無数に落ちている。そしてインサイトのテストは「試す」しかない
そして、じゃあ、どうやってヨコで必要とされる情報を見つけるんだ?ということで、ヨコのマーケティングをするにあたっての調査やテストの話になりました。
鹿毛氏、射場氏:インスタで今やお金払わずにこれだけ多くの情報が出てくる。これだけのデータを調査で集めるには相当のお金がかかる。これは感動的なことだ。インスタという場所では消費者と企業の目的はズレているが、自社のアプリだと企業と消費者は結びついているためより高精度なデータになる。こんな幸運なことはない。
あとは、「観察している人自体がどんどん変わっていく」ということを忘れない。接点を活用して人間観察をしながら、実は消費者は気づいていないインサイトを企業が洗い出すことを忘れない。インサイトのテストは、やってみるしかない。実際、嵐は全国コンサートの時、札幌コンサートで試した後の次のコンサートでは変更している。
私自身、転職して自分がサービスを徹底的にみたり、徹底的に社内に落ちているデータや、UGCや、アフィリエイターと話をしたりして、今あるデータを見つめ続けました。そうすると、どんなところが愛されていて、叱られているのかがわかるようになりました。まだ2ヶ月しかサービスには携われていないですが、一定の解像度まで到達できたと思います。
しかし、いったいどれくらいのマーケターが自社のアンケートを死ぬほどみているのでしょう。UGCを毎日みているのでしょう。コンサル会社に調査を頼む前に、外部でお金を払ってアンケートをする前に。
心が動けばお金が動く。原始的に考え、自分自身が自分たちの商品やサービスの最高のファンとなる
最後に、刀の森岡氏もよくいうことですが自分が一人のマニアなファンになりきって、自社のサービスのことを考えられるのかということが結局一番大事になってきます。
鹿毛氏:5%くらいでもいいから頭で考えずに心だけで感じる、原始的な時間を入れる。極論、赤ちゃんの気持ちになってみる。どうやったら笑うかではなく、なんで笑ったのかの心になりきる。心が動かないと笑顔にはならない。心が動いた理由こそが大事。
射場氏:価格を安くする、売上売上、ではない。気持ちが動くとお金が動く。特別に思う、愛されているものには化学反応が起こる。
この、原始的な時間を入れるという表現がさすが鹿毛さんだなと思ったのですが、何も考えずに実際のユーザーになり切るというのが大事です。これには訓練が必要で、私自身も常に日常生活で原始的になる訓練をしています。(もはやマーケターは趣味でこういうことをやれる人間じゃないと務まらない気もしてきました笑)
鹿毛氏:自分が人として、痛い悲しい苦しいということを感じながら丁寧に生活することが必要。「お客様の心、自分たちの商品、企業姿勢」の全てをミックスしている会社こそ最強。できないならプロに頼もう。
射場氏:自分たちが、自分たちの最高のファンとなり、当事者意識を持ってもっとこういうサービスであって欲しいというのを考えることが必要。
基本、マーケターより消費者の方がセンスが高い。ファンのことを思っている、ファンのことを本当に考えたサービスになっていないとすぐにバレる。どうやったらもっと喜んでもらえるかを追求する。
鹿毛氏:基本、直感。論理的では伝わらない、人は動かないからクリエイティブ変換して別の方法で伝えるようにする。その際、自分が作ったものを、本当に人として自分が動くかをテストする。
この「基本、マーケターより消費者の方がセンスが高い」という認識こそが重要なのと、最後押し付けではなくユーザーの必要とする約束に置き換えてあげる、ブランドプロミスへの変換を忘れないということが大事です。
これは、ダイキン片山氏の言葉をかりると「妄想」の中に商品やサービスが出てくるようになるか、とも言えるでしょう。
デジタルマーケティング=タテ、だけではない
単純に「デジマはよくない」と否定するのではなく、どう考え直せばいいのか、具体的な道標となる内容がたくさん入っていた素晴らしいセッションだったと思います。ぜひ、みなさんも「ヨコ」をどれだけ考えられているのか、今一度見直してみてください。
それでは、んちゃ。