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マーケティングアジェンダ キーノート2「SDGsをどうマーケティングに繋げるのか?」 参加レポート #MA東京21
どうも、フクパンマンです。
マーケティングアジェンダ東京2021のキーノート#2のレポートです。SDGs、マーケティングに携わるみなさん注目のテーマかと思います。
マーケターにとって【SDGsをマーケティング活動へどう繋げるか】は重要な任務のひとつですが、「とりあえずSDGsやろう」になってしまっていませんか?
また、人間理解というテーマにおけるSDGsの役割とは?
今回はSDGsの第一人者である、駒澤大学 青木氏と、吉野家 伊東氏により、SDGsの最新の動向や、P&Gや吉野家のSDGs活動を交えながら、SDGsのマーケティング活用について話されました。
前置き
本題に入る前に、経験豊富な日本HP甲斐さんにラップアップや会場で「SDGsを実施するにあたり、結局自己満足で終わらせないようにするにはどうしたらいいのか」という質問をさせていただいたのですが、
「とにかくビジネスに紐づけること。SDGsの17項目の中にガバメントは存在しない。広報的なCSR的活動で終わらせることなく、ESG的な視点で実施し、結果SDGsになっているということが大事」
という明確な答えをいただきました。本編でもまさにその視点で述べられています。結局、継続的にビジネスに貢献できるものでなければ担当の自己満足となってしまいます。
そうならないためのコツが満載のセッションでしたので、ぜひご覧ください。
※ちなみに、サステナビリティ、SDGs、ESGと色々な言葉がありますがこの定義をしっかりしておかないと理解しにくいので簡単に整理しました。言葉が難しくて理解しにくいですよね・・・。
・サステナビリティはその言葉の通り、持続可能性そのものを指す。
・SDGs/ESGはサステナビリティを、具体的な目標に落とし込んだもの。
・SDGsは国・地方団体、企業の全てを含んだ地球環境存続のための最終目標。SDGsで掲げる目標を経営戦略に組み込むことで、持続的に企業価値を向上させつつ地球問題を解決していく
・ESGは環境、社会、ガバメントの観点でステークホルダー(顧客・取引先・株主・従業員など)へ配慮し日々の企業の事業活動を展開、結果としてSDGs 達成に貢献できるということ。
それでは、どうぞ。
【整理】サステナビリティの「5forces(5つの圧力)」とサステナビリティ・ブランディング
まず、サステナビリティには5つの圧力・5forcesがあると青木氏はまとめます。
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<5forcesの説明>
1.国際基準/ステークホルダーとの関係性でやらないといけないこと
2.金融機関、投資家へのESG投資への対応
3.サプライチェーン(モノの確保)/従業員(大義・存在意義)への対応
4.顧客/取引先からの期待、もしくは不満
5.真ん中:企業間競争
サステナビリティは何も企業が率先的にやることで語られるわけではなく、このような半強制的に必要に迫られることが多い訳です。逆に、サステナビリティ経営に取り組んでないということはこの危機感を感じられていないということになります。
どれも重要さは変わらないですが「実際は4の顧客・取引先にサステナブルの価値を伝えることが一番難しい」と青木氏は付け加えます。企業の自己満足で終わり、ビジネスに紐づけるというのは難易度が高いことです。1,2はESG文脈が強いかな、とも言えるかと。
続いて、【サステナブル・ブランディングの構図】が青木氏から説明されました。ぱっと見難しく見えるのですが、分解すると非常にわかりやすい考え方です。
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サステナブル・ブランディングは、「ビジネスと社会課題解決を両立させ、『らしさ』で競争優位を創り出す」ということ、言い換えると現代では企業ブランディングの向上はサステナビリティが戦略の芯となるということ。
その概念を因数分解して整理したのがこの図です。
①外周のオレンジ部分:外部環境。問題、制度、経営思想などで、取り組まねばならない理由の整理
②中心の青部分:パーパスに基づき、各対象のエンゲージメントを高める施策(従業員、消費者、投資家、サプライヤーへの各施策)
③緑:企業としてどういう考え方・標準が必要かの整理
→De Jure Standard:法律、やらねばならないこと「法的標準」
→De Facto Standard:市場・慣習を作る「事実上の標準」
→De Spiritus Standard:社員に規矩(基本概念)を浸透させる「精神的標準」
特にこの構図の中で「③の各標準を作る」ところがサステナブルな上で重要です。これがないと、施策に方向性がなく、ビジネスにも紐づかないことになってしまいます。
De Spiritus Standardの例として、 良品計画が挙げられます。明確に定めていて、これがブランドそのものを形作っています。ミニマリズムのジョブスが作ったiPhoneも最たる例です。
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いきなりSDGsの○○番に取り組む、ということはやめて、しっかりと整理をした上でどこに企業として取り組むべきか落とし込まなければ、一過性の担当者趣味に終わってしまうことになるでしょう。
もちろんSDGsはわかりやすい目標なので、そのフレームを整理に使ったり、最終の目標としてSDGsの○○番に取り組むというのはもちろん必要です。
【実践事例】SDGsを継続的な企業活用に落とし込んだP&Gと吉野家の事例
次に、伊東さんから具体的な事例として、まずは車用ファブリーズの例が話されました。
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車用ファブリーズは、車内に匂いがある時には少し我慢して窓を開ければいいため、基本的には必要とされにくいものでした。そのため、欲しくなった時にすぐ買えるようにせねばならず、ドラッグストアの店頭の見やすい位置に置くように依頼したが、なかなかレジ前に来なかったということです。
そこで、テラサイクル社と連携し「ファブリーズでリサイクル」というサステナブルの文脈で、オートバックスの入口すぐにファブリーズの改修箱を置くようにしました。オートバックスとしても企業価値が高まるキャンペーンであったため、レジ横のいい場所に置いてもらえるようになったのです。
オートバックスのWin、ファブリーズのWin、お客様のWinの混ざる所を狙い、結果、ファブリーズ車用の利用はかなり多くなりました。プロモーションの「アイデア」によってSDGsがビジネスに紐づいた好事例です。
次に、伊東氏から吉野家の事例がお話されました。
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吉野家は「うまさ」「やすさ」が大事な取り柄。多く煮過ぎて余ったものはロスになりROIが悪くなるのと、どんどん旨味が溶けておいしくなくなる。つまり、無駄をなくすとやすく、おいしくなる。 追求すると、自然とフードロスの解決になっていました。SDGs的にいうと8~10%のフードロスが業界平均だが、吉野家は1%という数値を当たり前のように達成しています。
「企業にとって継続できないことはやっても意味がない。SDGsの活動が、企業活動の中の当たり前になってないと意味がない」
この言葉が見事に実践されている事例です。
また、吉野家では子ども食堂への食料提供をしていますが、検討当初は 一社でやるのは継続が難しいと判断。しかし30社いたら継続的にできると考え、各企業や自治体と連携し実施に至りました。
結果、沖縄で30箇所以上に子ども食堂を増やし継続的に提供。さらに、実際に提供している風景を社員に見させてDe Spiritus Standard(意識)を高め、モチベーティブに続けられるモデルを作りました。
【市場】サステナビリティに別のバリューを加えて価値を創造
気候変動問題に配慮する商品のアンケートをメンバーズさんと取った結果があり、青木氏から説明がありました。URLは2020年のデータですが、ほぼ内容的には変わらないので以下からご参照ください。
簡単にまとめると、
・6〜7割は地球温暖化問題に取り組む企業の商品やサービスを積極的に購入したいと思う
・実際に購入したのは2〜3割
・ファッションは一度買うと9割は継続意向、友達にも4割話す
7割の消費者はサステナビリティに関心、しかし買うのは3割。この4割の差分はマーケティングの問題であると青木氏は言います。
〈マーケティング課題〉
・売り場がない、価格が高い
・情緒的価値(持ちたくなる意味)が訴求できていない
・サステナビリティ価値(全員にいいという意味)が訴求できていない
この問題を解決するために「cross value」によって、これらのマーケティング課題を解決している事例があります。
adidasはNGO Parleyと連携し、デザインや機能をレベルアップさせ、価格の妥当性を演出。
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海洋プラスチックのリサイクル素材から作られた「Adidas Parley UltraBOOST DNA」スニーカー。購入した一部を寄付する仕組みも。
これは、以下のように因数分解しています。
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日本環境設計のBringはゴミ問題などに対応しつつ、デザイナーともコラボしたプロダクトを提供。
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とてもオシャレで、着ていると自分が好きになりそうなデザインです。まさに両事例ともにcross valueですよね。
サステナブルのマーケティングは三面鏡。選ばれない理由にならないことが大事。サステナブルでないと「買われない理由」になってしまう。
「前から横から単なるデザインを見られるだけでなく、横から後ろから裏に隠された物語まで見られるようになる。社会の目が買い手売り手を「こいつadidasのParley履いてるな、サステナ興味あるんだな」と見るようになる
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と青木氏は続けます。サステナビリティで大事なのは「買う理由」になるのではなく、「買わない理由」に選ばれないこと。それくらい、今やサステナビリティはブランド価値に影響を及ぼしていることに気づかねばなりません。
【理念とパーパス】企業のパーパスを定めなければサステナビリティは成立しない
そして、企業理念とパーパスの関係性の話がありました。
企業理念:企業氏としてのスタンス
パーパス:社会に対するスタンス
パーパスがないとサステナビリティはできない。
企業理念とパーパスの紐付きが重要です。
どちらか片方になると、継続性や事業への紐付きが無くなってしまいますし、そもそも、理念とパーパスの違いが曖昧になってしまっていることも多いかと思います。
キリンさんは上記の通りパーパスが明確に定まっており、それを経営計画の中枢に沿えていて流石だなあと。そしてわかりやすいです。こういう計画があるなら、キリン製品にしようかなと私自身が感じます。ESGが基盤にあり、SDGsは結果として達成されている点が好感が持てますし企業の当たり前として実施するということになっているのだと思います。
また、マーケティングはプロモーションのものだけではなく、企業全体で取り組まねばなりません。SDGsのマーケティング活用というのは、絶対にマーケティング部、広報室だけでプロモーションだけでやることではありません。
【続ける・拡げる】なんちゃってでやるサステナビリティほど意味がないものはない
結局、事業の中での活動ですから、継続性があり、かつ効率的(少ない経営資源)で拡げられる・インパクトを出さなければいけません。
繰り返しになりますが、このセッションではサステナビリティ・SDGsは「どうせ避けられない」ものであり、それでいてブランディングに寄与するものであり、やらなければ選ばれない理由になってしまうものであることをわかりやすく伝えているものです。
着手するに必要なのは「整理」と「覚悟」と「アイデア」。最後に伊東さんはこう締めくくりました。
そのままやろうとすると趣味になる。 本当の意味で、ソーシャルの中で必須に求められる解決策になるために、マーケティングを意識する。
まとめ:「ラグジュアリー」と「SDGs」と人間理解
今回のキーノートは、「ラグジュアリー戦略」「SDGs」という、一見飛び道具で必須ではない考えを伝えるものを二つ並べたマーケティングアジェンダ。
さらに、テーマの「続・人間理解」にどう繋がっているのか、を改めて考えてみましょう。
ラグジュアリー(類稀であること)は各企業において本当に必須ではないのか。SDGsは、必須ではないのか。続・人間理解というテーマの中で、私は「自分が本当に欲しいと思うものか、自分が本当に働きたい会社なのか」という自分理解の重要な視点を与えてくれた内容であると感じました。
ラグジュアリー・サステナビリティ・SDGs・ESGは当たり前に必要となっているマーケティングの要素なのではないでしょうか。今一度、考えてみましょう。
それでは、んちゃ。