さがしもの 角田光代
久しぶりに、心に残る本に出逢えました。私は本を探す時、作品名・装丁がその時の気分にはまるか、最初の1ページを読んでみて、もっと続きを読みたいと思うか、という箇所に注目して選んでいます。
自分にピッタリくる本に出会えるまで、本屋内をゆらゆらと、静かに巡る時間が好きです。
このような方法で、適当に選んでいるので、内容は自分が想像していたものと違うこともよくあります。それだけに、好きだった!と思える本に出逢うと、自分の為に書かれた本だ!と思いたくなるほど感激します。今回の本は、まさにとても好きな本でした。
主人公と一冊の本との特別な関係や思い、まるで交際相手(実際、あとがきでそのように表現されていて、そこにも心を奪われました)との思い出を描くような、本との親密な時間が書かれていました。本との関係を描く短編集です。
本の存在、読書の時間、その愛しさがぎゅっと詰まっていました。また、心打たれる美しい表現にも何度も出逢いました。
何でしょう、一瞬、ほんの一瞬、言葉にする時間もないほどの一瞬、感じる素晴らしい感情が湧き出てくることって、日常の中で、時折ないですか?自分の中で、とても綺麗な感情で「出来ることなら、長い時間、この気持ちに浸っていたい」と思うような感情。自分を誇りたくなるような純粋な気持ちを信じられる瞬間。瞬間だから、悲しいことにすぐに元に戻ってしまうし、もちろん留まることも出来ない。
その、一瞬の輝き、みないなものを角田さんは言葉で表現されていて。その言葉をなぞれば、何度もその一瞬に戻ることが出来るような。鳥肌がたって、心だけでなく、脳がじん、とするほどにその表現に感動しました。
ストーリーはもちろん、表現にも注目して読むと楽しいと思います(*^^*)
穏やかな9つの物語を読み終えて、これからも本を愛していきたいと思いました。本が好きな方、また読書好きでなくとも、何か本との思い出がある方には、特にささる一冊だと思います。
本とは離れてみても、旅・恋・学生時代・結婚など、どこかには誰かが共感できるようなテーマがあり、誰も置いていかないような温かい短編集でした。文庫で出てますのでぜひ、読んでみてほしいです。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?