さがしもの 角田光代

久しぶりに、心に残る本に出逢えました。私は本を探す時、作品名・装丁がその時の気分にはまるか、最初の1ページを読んでみて、もっと続きを読みたいと思うか、という箇所に注目して選んでいます。
自分にピッタリくる本に出会えるまで、本屋内をゆらゆらと、静かに巡る時間が好きです。

このような方法で、適当に選んでいるので、内容は自分が想像していたものと違うこともよくあります。それだけに、好きだった!と思える本に出逢うと、自分の為に書かれた本だ!と思いたくなるほど感激します。今回の本は、まさにとても好きな本でした。

【あらすじ】「その本を見つけてくれなけりゃ、死ぬに死ねないよ」、病床のおばあちゃんに頼まれた一冊を探し求め、奔走した少女の日を描く「さがしもの」。初めて売った古本と思わぬ再会を果たす「旅する本」。持ち主不明の詩集に挟まれた別れの言葉「手紙」など九つの本の物語。無限に広がる書物の宇宙で偶然出会ったことばの魔法はあなたの人生も動かし始める。


主人公と一冊の本との特別な関係や思い、まるで交際相手(実際、あとがきでそのように表現されていて、そこにも心を奪われました)との思い出を描くような、本との親密な時間が書かれていました。本との関係を描く短編集です。

本の存在、読書の時間、その愛しさがぎゅっと詰まっていました。また、心打たれる美しい表現にも何度も出逢いました。
何でしょう、一瞬、ほんの一瞬、言葉にする時間もないほどの一瞬、感じる素晴らしい感情が湧き出てくることって、日常の中で、時折ないですか?自分の中で、とても綺麗な感情で「出来ることなら、長い時間、この気持ちに浸っていたい」と思うような感情。自分を誇りたくなるような純粋な気持ちを信じられる瞬間。瞬間だから、悲しいことにすぐに元に戻ってしまうし、もちろん留まることも出来ない。

その、一瞬の輝き、みないなものを角田さんは言葉で表現されていて。その言葉をなぞれば、何度もその一瞬に戻ることが出来るような。鳥肌がたって、心だけでなく、脳がじん、とするほどにその表現に感動しました。

ストーリーはもちろん、表現にも注目して読むと楽しいと思います(*^^*)

穏やかな9つの物語を読み終えて、これからも本を愛していきたいと思いました。本が好きな方、また読書好きでなくとも、何か本との思い出がある方には、特にささる一冊だと思います。
本とは離れてみても、旅・恋・学生時代・結婚など、どこかには誰かが共感できるようなテーマがあり、誰も置いていかないような温かい短編集でした。文庫で出てますのでぜひ、読んでみてほしいです。

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