「ザ・ループ TALES FROM THE LOOP」の感想。静かに流れる、上質な SF 作品
作品の説明
シモン・ストーレンハーグの不思議なイラスト集にインスパイアされた「ザ・ループ TALES FROM THE LOOP」。「ループ」とは、サイエンス・フィクションのような事象を現実に叶え、そして宇宙の謎を解き明かすために建造された地下研究施設である。その「ループ」の真上に位置する町に住む人々の、奇怪な体験を描く物語。
シモン・ストーレンハーグのイラストを知って、その SF でありながらレトロ、静謐ながらも薄暗い恐ろしさ、不安になるようなイラストの虜になった。そんな中、 Amazon Prime でこのドラマがあることを知り、観てみようと思った。
作品全体の感想
冒頭にもあるように、「ループ」と呼ばれる地下研究施設がある町で起こる出来事の物語である。作品全体の雰囲気としては、懐かしさを感じるような雰囲気のロボットだったり、ノスタルジーを感じる田舎町の風景が印象に残る。また、 SF 的要素が当たり前に受け入れられていたりする。
1話目を観ている途中までは、世界観を掴むのに苦労し、つまらないかも、と思っていた。
しかし1話を全て見終わると続きが気になり、2話以降も観てその面白さに引き込まれ、翌日も仕事があるのについつい夜中まで起きて、結局最終話まで何日かに分けて最後まで観てしまった。
派手なアクションシーンや爆発音などもほとんどなく、物語に没頭できるので夜中に静かで暗い部屋で観るのが、雰囲気があっていい感じです。
あるエピソードで出てきたサブキャラクターが、その後のエピソードの主役になったり、また脇役で出てきたりと、1つの町を舞台にすることでつながりが出てきて面白い。
各話の紹介と感想(ネタバレあり)
多かれ少なかれネタバレを含みますので、気になる方は読むのをお控えください。
エピソード1 - ループ
小さな町に住む少女が、「ループ」として知られる地下の施設で、母親が行っている謎の多い仕事に興味を抱く。
物語のつかみとして、世界観全体を把握するのは難しいと感じていた。
それが観ていて「つまらないかも」と感じた要因かもしれない。しかし、徐々に物語に引き込まれる感じがして、ついつい続きが気になってしまい、次のエピソードを観る原動力になったのは間違いない。
エピソード2 - 入れ替わり
十代の少年2人が森であるものを見つけたことで、 普段通りの生活から逸脱することになる。
一番印象に残った、好きなエピソード。兄・ジェイコブの気持ちを想うと、悲しく、切なくて涙が出そうになった。前のエピソード1やこのエピソードでちらっと出てきたロボットが思わぬ伏線となっていて驚いた。
このエピソードを観るまで、そのロボットは不気味で恐ろしい印象もあったんだけど、エピソードの最後には、かなり愛着のあるものになってしまった。
おそらく、ジェイコブはダニーの明るさや力強さ、ダニーはジェイコブのループに就職できるので採掘場で働かなくて良いこと、知識が豊富なことなど、お互いが自分に持っていないものに憧れ、歪んだ形で表層化してしまったのだろう。
エピソード3 - 静止
恋に落ちた十代の少女が、時間を永遠に止めようと試みる。
前のエピソードが一番良かったが、このエピソードが一番嫌な話に感じた。
このエピソードの主人公・メイの身勝手さは、抑圧された家庭環境にあった10代の少女らしいのかもしれない。しかし恋人であったケイトに対して最後に言った言葉は、誰が観ても許されるものではないと思う。
また、性描写が多いエピソードであり、もっと上品に描くこともできたのではと思う。具体的な描写をしなくても、シーンやアングルのカットを工夫すれば、視聴者に想像させることも容易なはずだが、割と直接的な描写も多く、その点も不満だった。
しかし、そういった人間の不完全さがあるからこそ、物語に起伏が生まれ、面白くなるのかもしれない。
エピソード4 - エコースフィア
少年がエコーと呼ばれる謎の球体に遭遇、生命の本質に直面する。
コールとループ創設者でもある祖父の死の間際の交流。祖父は人前では死を受け入れているようにも見えるが、ふと1人になったタイミングで人生の終わりを迎えることに対して涙する。その後、祖父は体調を崩し入院するが、そこではアルツハイマーのようになってしまい、コールのこともわからず、辛い対応をされる。
最終的に祖父は若かったころの妻の面影を思いながら永遠の眠りにつく。そうやって最期まで愛する人がいたということは、彼にとって幸せだったのかもしれない。
エピソード5 - コントロール
家族の安全を守るため、男は普通ではない選択をする。
父親の身勝手さや行動の空回り感は、確かに嘲笑の対象となるかもしれないけれど、家族を思うが故の行動であり、全てが理解できないわけではない。
また妻もヒステリック気味で嫌な性格に描かれているが、息子を失った悲しみや、それまでの家族関係があってのことだと想像すると、その気持ちもわかる。
娘の耳が聞こえないことから、車庫に入った娘が父の呼びかけに答えられない、というのもよく考えられている。
エピソード6 - 異次元世界
ある男が愛を求めて異次元の世界へ旅立つ。
ループ警備員の男が、ふとした拍子に別の並行世界へと迷い込み、そこで真実の愛を求めて生きる。
このエピソードも、匂わす程度だが性的描写があり、そこまで見せなくても良いのに、とも思った。
エピソード7 - 怪物
謎めいた島への旅は、途方もない発見につながる。
3人組だったので、前のエピソードで出てきた、娘の人形を奪った悪ガキ3人組だと思っていたら違っていて、時系列そのものが違っていたようだ。
ただ、1人を残して島からボートから去るというのは、いくら子供とはいえ許されることではないのではないか、と思う。「ボートが迎えに来なかったらどうするんだ…」ずっとそんな不安が付き纏っていた。それほど、制裁らしい制裁も受けていないようだし。
島に残った1人の少年(過去の父)が、目に見えない恐怖と徐々に対峙していく様も、サスペンス・ホラーの気配があり、ドキドキして面白かった。そんな島にいる「怪物」は、恐ろしいながらも、最後には少し愛嬌のようなものも感じられるような造形に仕上げてあるのは素晴らしいと感じた。
怪物のイメージは、原作イラストの彼の作品で出てきていたので、それを知っていてなんとなく想像ができた。彼の作品のイメージを壊すことなく立体化されているのもすごい。
エピソード8 - ホーム
いなくなった兄を探して、少年が過去を取り戻そうとする。
とうとう、兄・ジェイコブ(の人格)と弟・コールの再会である。しかしともに過ごせた期間はあまりにも短く、本当に悲しくなった。
コールもなぜ木を迂回しないのか、なぜ軽率な行動を取るのか、とヤキモキもさせられるが、そういったことも子供らしく完全でないのだということを感じさせる。
レトロフューチャーな SF 、静かな感動を求めたい方におすすめの作品です。